8



「一体どんな手品を使ったのかしら?
教えてくださる、鬼道君?」

サッカー部員一同の期末テストの結果を前に、夏未が少々不機嫌そうに訊ねる。

「ふっ、適材適所、とだけ言っておこうか」

答える鬼道は自分の采配の結果に余裕綽々だ。



鬼道立案の豪炎寺ヤマ張り作戦は、学年トップ10にサッカー部員が何人も名を連ねるという見事な成果を残した。

今回夏未ちゃんは、鬼道は元より、土門、風丸にも抜かれ、
生まれて初めてトップ3の座から陥落したのだ。
自分が指示した、その結果といえど、
まさかここまで成績がアップすると思って無かった夏未ちゃんは少しばかり面白くない。


「ふむ、マックスと影野もトップ10入りしたか。
マックスもこの結果を見れば、文句はあるまい」

鬼道さんは部員の分に御丁寧にマーカーされた成績結果を片手にご満悦だ。


「ほう、半田でさえ今回は中途半端な成績では無いようだな。
ん?染岡は英語のヒヤリングで点を落としたか。
あんなにやっても聞き取れるようにならないとは筋金入りだな。
目金や一之瀬も100位以内には入ったか」

そこまで目を通して、鬼道さんははっと気付く。


・・・豪炎寺と、それから円堂の名前が無い。


ぺらぺらと数枚に亘ってチェックしても、二人の名前は中々出てこない。
慌てた様子の鬼道に、マーカーした本人である夏未が意趣返しとばかりに肩を竦めて言う。

「豪炎寺君なら、赤点は免れたわよ。
どれもぎりぎりだったみたいだけど」

――くっ、豪炎寺は酷使しすぎたか。

夏未の言葉に鬼道は珍しくへろへろになった豪炎寺の姿を思い出す。


あの後、再度豪炎寺に神経を集中させて一年のヤマも張らせたのだ。
主に可愛い妹の為に。
というか、更にぶっちゃけると妹を自室に呼ぶというの大義名分の為に。

そのお陰で、鬼道は自分の部屋で妹と至福の時間を過ごせた。
燃え尽きて灰になった豪炎寺と引き換えに。

そのせいもあってか、今回のテストでは豪炎寺一人だけ明らかに負担が掛かり過ぎた。
神経も磨耗し、勉強の効率も大幅にダウンしていた。
それでなくとも元がそんなに頭の出来が良い訳では無い豪炎寺に、
これでいい点を取れという方が無茶だ。


豪炎寺に対して流石の鬼道も悔恨の念を抱いているところに、
さらに夏未によって追い討ちがかかる。


「それに円堂君には流石の鬼道君もお手上げだったみたいね。
・・・円堂君、また最下位よ」

「なにぃ!?」

夏未の言葉に、今度こそ鬼道は驚きを隠せない。
円堂はそれこそ予想問題を鬼道自らの手で徹底的に叩き込んだのだ。
しかもテスト後の答え合わせで、円堂も確かな手ごたえを感じていたはず。
それが何ゆえ!?


納得出来ない鬼道は夏未と共に、すぐさま円堂の元へ向かう。
そこで漸く鬼道は円堂が毎回テストで最下位になる本当の理由を知ったのだった・・・。


・・・円堂が毎回最下位な理由、
それは円堂が頭が悪いからではなく、字が汚くて識別不能なせいだった…。


「あれ?俺言わなかったっけ?
円堂が合格したのはマークシートのお陰だって」

後に風丸はこう証言する。

円堂は別に頭が悪い訳ではない。
そりゃ、普段はサッカーばかりで全く勉強していないから出来ないだけで、
ちゃんとテスト前に風丸が教えると、そこそこ出来るようになる。
しかも選択問題になると野生の勘もある為、無双だ。と。


「すると、円堂は今までちゃんと正解していても、教師が字を識別出来ないせいで点数が悪かったと言うのか!?」

普通、抗議するだろう!?と目くじらを立てる鬼道に、風丸が苦笑して答える。

「まあ、そうだな。
アイツ、終わった事にはあんまり拘らないから」

拘らなさすぎる…。

器が大きいのか、何にも考えていないのか、
円堂の行動は鬼道の理解の範疇を超えていた。

後に円堂氏はこう証言する。

「えっ?なんで抗議しないのかって!?
だって俺、馬鹿だから抗議したってめちゃくちゃ点数上がるわけじゃないしな!
それに抗議する時間があったらサッカーしたいだろ!
そんなことより、サッカーやろうぜ!!」



だが今回は、赤点を取るとサッカーの大会に出れないとあってか、
流石の円堂も鬼道と一緒に必死で抗議活動を開始した。

そして、冬花立会いの下、字の解読を乗り越え、
円堂も含めサッカー部全員で無事大会に出場できたのでした。

めでたしめでたし。
ぐだぐだでもめでたしめでたし。


 END

 

prev next

 

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -