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全然勉強が始まる気配さえない文系部屋から、今度は鬼道の部屋で勉強している理系組の様子を見てみましょう。


トントン
「鬼道君!ちょっといいですか?」
鬼道の寝室のドアを叩く音がした後、遠慮がちに開いたドアから入ってきたのは目金だった。

おーっと、理系組を見ると言いつつ、場面は一人寝室で問題を作成していた鬼道がメインらしいぞ。


「なんだ、目金」

豪炎寺の下、寝室の隣の私室で勉強しているはずの目金がこんなところに居ることに、
鬼道はぎろりとゴーグルを光らせて威嚇する。

その様子に隠してはいるが、バレバレなビビリ野郎目金は、
ひぃっと息を飲む。
だが、暫く逡巡した後、意を決したように口を開く。


「鬼道君」

「なんだ」

目金の様子に唯為らないものを感じた鬼道は、
今度はちゃんと目金の方に姿勢を正す。


「僕には豪炎寺君の勉強スタイルは合わないみたいなんですが」

「…なんだ、それは!?」

姿勢を正した割りに、結局は目金の弱音だったことに鬼道は少し苛立って訊ねる。

「出来たら僕も土門君達の方へ参加したいんですよ。
だってこの僕には、あんな野蛮な勉強法なんて、合わない!
合うはずがないんです!」

一度口火を切ったら止まらなくなった目金は、
そんな鬼道の怒気に全く気づかない。
しかも自分の文句を言うのに夢中で、全然説明にもなっていない。

「勉強法に野蛮も何もあるわけ無かろう」
鬼道が一刀両断すると、目金は凄い剣幕で言い返す。

「それがあるんです!
あ、あんなカッターナイフを使うなんて怪我でもしたらどうするんですか!?」

「カッターナイフ?
図画工作でもあるまいに、数学で何に使うんだ?」
鬼道の尤もな疑問に、目金も仲間を得た思いで鬼道の腕を引っ張る。

「実際に見てもらった方が早い。
鬼道君、来てください」

そう言って、目金に腕を引かれ連れられた先には・・・。


…豪炎寺が開いた手の指の間を凄まじいスピードで、
カッターナイフをカンカン音を立てて刺していた。



「何をやってるんだ。豪炎寺」

苛立ちさえ滲んだ鬼道の呆れた声に、豪炎寺が振り返る。
その顔は普段どおりの無表情だ。

「何って…。
テスト勉強をする為に集中力を高める訓練だ」

当たり前と言わんばかりの空気を醸し出して豪炎寺が言う。
その間も円堂は先程の「訓練」をやっているままだ。

「だから何の為に集中力を高める?
普通に勉強をやれ!時間の無駄だろうが!!」

はい、冷静を旨としてる割に結構短気な鬼道さんのツッコミ炸裂。
でも、そのお説教に豪炎寺は「コイツ何を言ってるんだ」みたいな顔で眉を寄せる。

「それでは効率が悪いだろう?
少なくとも今日一日は集中力と感覚を鋭敏にする訓練に当てないと。
そうしないと精度の低い予想しかできない」

「?」

噛み合ってない・・・そう気づいた鬼道さんは、言葉の少ない豪炎寺さんに説明を求める。

「どういうことだ?」

「だから、テストに出る問題を予想するのに、鋭い感覚が必要だと言ってるんだ。
勉強するのはそれからだろう?」

「・・・」

要するに豪炎寺の言わんとするのは、
テストのヤマを張ってから、その範囲だけを勉強するってことらしい。

言わんとしていることは理解した。
ただ、鬼道さんは込み上げる疑惑を否定出来ない。
もしかしてコイツ・・・。


「なあ、豪炎寺。この問題を解いてくれないか?」

鬼道が指し示したのは、今回のテスト範囲である連立方程式の文章題。
大人と子供の美術館への入館料を求める、学年トップ10に入る者なら簡単に解けるレベルのものだった。

暫しの沈黙の後、問題を見ていた豪炎寺が顔を上げる。
部屋に緊張が走る。


「…だいたい大人1000円、子供は300円ぐらいか」

「…何故そう思った?」

「この前、夕香は入館料が320円だった」


はい、豪炎寺=隠れ馬鹿決定!
そりゃ、豪炎寺パパも心配して日本代表選手に国際試合の真っ最中にサッカー止めろって言うよね。


「阿呆か!?
もうお前、教師役は首だっ!
風丸を呼ぶから、お前も一から勉強を教えてもらえっ!!」

鬼道さんは豪炎寺を怒鳴りつけると、風丸を呼ぶ為にケータイを構える。
でも、呼び出し音を聞きながら、ふっと鬼道さんは何かに気づいた模様です。

そう、鬼道さんは最も効率の良い勉強法に気づいたのでした。


「あっ、風丸か?実は・・・」

 

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