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(以下、鬼道目線でお送りします)


「…それどういう意味だよ?」

ちっこい馬鹿が少し頬を染め、ぶっきらぼうに訊ねると、
春奈が照れているのを誤魔化すように、勢い良く振り向き天使の笑顔を向ける。


「問題児の木暮君の面倒を見れるのは私だけってこと!
ほら、この話はもうお終い。
もうちょっと練習頑張ろうよ!」

そう言って、ちっこい馬鹿の背中を押せば、渋々ながらまた自主トレが再開される。
カラーコーンの間を縫うように走るその姿は明らかにスピードが速くなっている。


「すごいよ、木暮君!
これなら次の試合、スタメンも夢じゃないよ!!」

そう言って抱きつく春奈。

「…そうかよ」

仏頂面で不機嫌そうに呟くが、そっぽを向いたその顔は遠目でも分かるほど赤い。
甘酸っぱい青春メモリー…。


「ぶはあっ」

片膝を付いていた鬼道がまたも急に吐血する。

「き、鬼道!!」

なんとなく向こうにいる木暮と音無が原因かなと推測した佐久間が鬼道の背中を摩りながら言う。


「安心しろ、鬼道。
今はチーム内に触れ合い禁止令が出てるから、例え両思いになったとしても、R15に触れるようなことは絶対しないはずだ!!」

フォローのつもりが止めを刺す佐久間。


「…両思い…R15…春奈…」

うわ言のように繰り返し、真っ白になっていく鬼道。


「うわっ、脈がどんどん遅くなってる!」

慌てる佐久間の腕の中で、幼い頃に亡くなった両親と久しぶりに会っている鬼道。
その姿に佐久間がはっとする。

――儚い鬼道も良いな。
そう思った佐久間は鬼道が死に直面しているというのに、ときめきゲージ急上昇。


「今、人口呼吸(キス)と心臓マッサージ(おっぱいもみもみ)してやるぞ」

そう周囲に誰もいないのに、言い訳するように呟き、はあはあと荒い息で佐久間が顔を近づける。
危ない!早く逃げて!!
唇の貞操の危機に面した鬼道に、この前亡くなったばかりの影山が早く目を覚ませと囁く。


「春奈っ!!」

なんとか三途の川の直前で懐かしい三人と別れを告げ、佐久間とのキスも回避して鬼道が目覚める。


「佐久間?」

顔の目前に何故かある佐久間の顔にむにゅむにゅと寝起き特有の普段より幼い様子で鬼道が訊ねる。
ドキューン。
ハートを打ち抜かれた佐久間がうっと蹲る。
その隙に、今までの経緯を全て思い出した鬼道が口を押さえて立ち上がる。


「俺のマイスゥイートエンジェル春奈たんがあああー」

だっと、駆け出す鬼道。
彼の涙が光に煌いた。


「春奈ぁ、春奈ぁ」

泣きながら、傷心の鬼道が向かった先は同じシスコン仲間の豪炎寺の所。
豪炎寺の部屋の前でえぐえぐしながらゴーグルを少し上げ、顔を拭く。
瞬く間にいつもの顔に戻った鬼道がドアをノックする。


「ちょっといいか?」

「ああ」

号泣していた様子は微塵も見せずに鬼道は豪炎寺の部屋に入る。


「お前はあの馬鹿馬鹿しい監督の恋愛至上宣言をどう思う?」

自分がスタメン落ちしそうなのも、春奈が木暮といい感じなのも全てはあのノートから始まった。
内心の苛立ちを隠し切れず、苦々しく言う。


「否、別にいいんじゃないか?」

「何故だ!?」

どこまでもクールな友人に鬼道は思わず声を荒立たせる。


「今までも勝ちたいという気持ちを力にして勝利を掴んできた。
それが恋という気持ちに変わっただけで、今までとなんら変わりはない」

流石、鬼道が意見を求める数少ない人物だけあって冷静な意見を述べる。
豪炎寺の冷静な様子に、鬼道も落ち着きを取り戻す。
そして同じシスコン仲間の気安さから、自分の恋の悩みを始めて口にする。


「俺は恋がわからん。
一番守りたい人物も、いつまでも傍にいたい人物も俺にとっては春奈しかいない。
豪炎寺、お前はどうだ?」

縋るように豪炎寺を見つめる。
正直、自分と同じだと言って欲しい。
だが、豪炎寺は何も言わずふっと笑うと、
胸から妹から貰ったはずのペンダントを取り出す。


「…俺をお前と一緒にするな。
この人が俺の大切な人だ」

そう言うとペンダントを投げて寄越す。
重度のシスコンから病的と認定され、むっとする鬼道だが、いつも感情を中々表に出さない豪炎寺の好きな人と聞き、興味が抑えられない。
ロケットになっているペンダントを開くと中から夕香ちゃんの写真が出てくる。


「?
これお前の妹の写真じゃないか」

鬼道が不思議そうに訊ねると、豪炎寺が照れたように横を向く。


「夕香の横にいる人だ」

もう一度写真を見ると、そこには確かに夕香の隣には女性の姿があった。


「彼女の名前はフク。
将来を約束しあった仲だ。
家族も認めてくれて、既に一緒に住んでいる」

家政婦じゃなかったのか…。
鬼道が写真を見たのに何のコメントもしないのは失礼に値すると固まった頭でなんとか思い、相手の女性を褒めようとしてするが思い浮かばず仕方なく疑問を素直にぶつける。


「将来って、相手の人、お前が結婚適齢期になったら老後じゃないのか?」

「ああ、彼女は堅実な人だから年金の未払いなどしていないから、ちゃんと年金が貰えるはずだ」

ああ、もうどこからツッコミすべきか分からない…。
鬼道は万感の思いを込めて呟く。


「流石だな、豪炎寺」


 

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