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イナズマジャパンの司令塔、天才ゲームメイカー鬼道有人はイライラしていた。


「この分だと鬼道クンは俺の控えだな」
先程、不動に言われた言葉が鬼道の頭に巣くっている。

今までサッカーにおいてエリート人生を歩んできた鬼道にとって、他人を蹴落とすことはあっても他人の後塵に期すなんてあってはならないことだった。
それなのに、監督の訳の分からない戯言のせいで、自分の理解を超えた摂理がチーム内をまかり通っている。
恋などという浮ついて計算不能な感情に基づいてゲームメイクしろなんて、恋を知らない自分には到底無理だ。
それどころか、そんな理解の範疇を超えたもののせいで、自分は人生で始めての力不足によるスタメン落ちの危機にあるのだ。
はっきり言って面白くない。


「鬼道、焦るのは分かるが少しは落ち着け」

さっきから心配そうに纏わりついてくる佐久間も、鬼道の苛立ちの原因の一つだった。

「いつの間にか彼女が出来ていたお前には関係無い」


佐久間の「日本に好きな人がいる」という言葉を真に受けた鬼道は冷たい視線を投げかける。
少し考えたら全寮制の男子校でサッカー漬けの毎日を送る佐久間に彼女どころか女の子の知り合いなんて数える程しかいないことも、
もろバレの鬼道ラヴも分かりそうなものなのに、そこはお約束通り、鬼道がそれに気付くことはない。

常人なら目からビームさえ出せる鬼道の 冷たい眼差しに、ときめきゲージはダウンするところだが、
対鬼道においてのみ、XボタンでどSからどMにキャラチェンジする佐久間は何ともない。
それどころか、ボルテージは大幅アップする。


「き、鬼道…」

もっと侮蔑の表情で見られたくて、スタスタと足早に歩く鬼道に佐久間が追いすがる。
と、急に鬼道が立ち止まり、佐久間はその背中にぶつかってしまう。


「シッ」

慌てて木の陰に隠れた鬼道を佐久間は鼻を押さえ様子を窺う。
厳しい表情の鬼道の視線の先を探ると、50メートルぐらい先に自主トレの休憩中らしい木暮と、木暮にタオルを渡している春奈がいた。


「?」

鬼道に習い、佐久間も慌てて隠れるが、声さえ聞こえないこの場所で隠れる意味が分からない。

そう佐久間は知らなかった。
鬼道が愛しい春奈の声ならば、
目視できる範囲ならどんな小さな声でも聞き逃さない『鬼道ヘルイヤー(地獄耳』の持ち主であることを。
(以下、鬼道目線でお送りします)



「木暮君、もうちょっと練習頑張ろうよ」

「もういいよ。
どうせ俺なんか次も試合出れないんだからさ」

折角春奈が渡したタオルを振りほどいて木暮の馬鹿がほざく。


「でも次はチャンスだよ?
恋してればスタメンのチャンスだってあるし。
だからもっと頑張らないと!」

そんな甘ったれ小僧を勿体無くも健気に励ます春奈。


「じゃあ、もっと無理じゃん!
俺、恋なんてしてないもん」

拗ねたように言う木暮に何故か少し嬉しそうに春奈が笑う。


「良かった」

「はあ!?
お前、俺がスタメンになれそうに無いのが嬉しいのかよ?」

偉そうに俺の春奈に怒鳴る小僧からくるりと春奈が背を向ける。


「だってこうやって私が木暮君と一緒にいても嫌な思いする人が誰もいないってことでしょ?
…もう少し、そう木暮君に好きな人ができるまでは、こうしてたいな」

「!!」

木暮と鬼道が息を飲む。
木暮から背を向けたことで木暮からは見えない春奈の赤い顔が鬼道達からはばっちり見える。


「ぐはっ」

「鬼道!!」

急に片膝をついた鬼道に、理由も分からないまま佐久間が駆け寄る。


「静かにしろ。…あいつらに気付かれる」

息も絶え絶えなのに鬼道が佐久間を制する。
はい、この距離では多少騒いでも気付かれません。
聞こえてるのは特異な耳を持つ鬼道さんだけですよ。
(次ページからまたも鬼道目線で続く)


 

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