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イナズマジャパンの不屈のストライカー、またの名をかませの達人染岡竜吾はムカムカしていた。


「ときめき〜、ファイッ、オー、ファイッ、オー」
ランニングの掛け声さえ気に入らない。

――何が悲しくてこんなことしなきゃいけねぇんだよ。

硬派を気取る染岡は、
最近の『ときめき』やら『胸きゅん』だのが乱舞するこのチームがムカついて仕方ない。


円堂大介最後のノートが見つかって、監督が馬鹿なことを言い出した時は、こんなことすぐ終わると思っていた。
だって恋の力が戦力に変わるわけがない。
でも、そこは超次元サッカー。
信じられないことに、何故か恋する力は戦力に変換された。
恋している者のシュートは地を割き、ドリブルのスピードは音速を超え、どんなボールでも奪った。


くそ、くそ、くそ〜。
染岡は通常の練習後の自主練で、鬱憤をボールにぶつける。
どんなに練習しても恋をした途端、自分より下手な奴に抜かされる。
この前木野が何気なく蹴ったボールはすごい唸りをあげ、自分には触れることさえできなかったのだ。
というか、触れたら大怪我してた。
マネージャーでさえこの威力なのだ。
代表クラスの選手が恋したらまさに『殺人シュート』の威力だ。

このままではやばい。
諦めなかったお陰で、折角代表に選ばれたというのにこのままではまた代表落ちだ。


――くっそぉぉぉ。

思いっきり蹴ったシュートは苛立ちから、明後日の方向へと飛んでいく。
慌ててボールを拾いにいくと、草むらからボールを持った吹雪が姿を現した。


「吹雪…」

「頑張ってるね、染岡クン」

吹雪がにっこり笑ってボールを差し出す。
染岡が受け取ろうとすると、寸前で吹雪がボールをわざと落した。


「てめぇ、ちゃんと渡せよな!」

それでなくても気が立っている染岡はボールを落とした吹雪を怒鳴りつける。

「ごめんね。
 手が…触れそうだったから」

監督の『好きな相手との触れあい禁止令』を健気に守っている吹雪が、恥ずかしそうに言う。
まさに『ガムシャラプッシュ』実践!


「あん!?てめぇ俺の手は汚くねえぞっ!」

染岡さん、ここは清純路線で攻めてきている吹雪と「二人で赤くなる」が正解ですよ。
『ラブセンサーヲミガク』どころか最後のノートの言葉なんて一つも覚えていない染岡は、さらに吹雪に怒りをぶつける。


「てめぇはいいよな。
練習しなくったって、恋してるからスタメン確定だもんな。
あーぁ、モテる男はいいよな。
俺もお前ぐらい無節操に女にへらへらできればよ」

染岡の棘のある言葉に吹雪のときめきゲージは激減する。

「そんなことないよ!
染岡クンのこと好きな人間は、いるよ?
たぶんすごく近くに…」

でもこんなことぐらいでへこたれていたら、染岡に恋なんてできない。
告白は監督から禁じられている為、『コクハクデイシキスルコトモアル』を少し変則で使用し、
好きな人間が身近にいることをアピールして自分の存在に気づくように仕向ける。


「え…、本当か?」

少し照れたように染岡が呟く。
こまめにアピールし続けて初めて染岡から期待通りの反応が返ってきて、吹雪は内心ガッツポーズを決める。
だが、染岡は円堂さん並のフラグクラッシャーぶりを発揮する。


「そうか、木野のあのシュートは俺を想って…」

「違うよ!?
秋さんが好きなのはキャプテン!
僕の思い込みじゃなく、これ公式だから。
テレビでもゲームでも、イナズマ界の常識だから!」

吹雪のツッコミに顔を一気に赤くした染岡は、自分の勘違いを誤魔化すようにそっぽを向き、言う。


「チッ、今俺に必要なのは俺のことを好きな人間じゃねぇ。
俺が好きになれる人間だ」

その言葉に吹雪もはっとする。


――そうだ、僕に必要なのは僕が好きだって染岡クンに気づいてもらうことじゃない。
僕のことを好きになってもらうことだ。


「染岡クンは好きな人いないの?」

緊張の面持ちで吹雪が訊ねる。

「いたらこんな苦労してねぇ」

でも染岡はそっぽを向いている為、吹雪の表情に気づかない。


「人を好きになったこともねぇ。
…だから恋とか急に言われても、よく分かんねぇ」

下唇を突き出し、少し頬を染め呟く染岡に吹雪のときめきゲージは目に見えて上昇する。

――か、可愛いよぉ。


「あ、あのね恋って気づいたらしてたりするんだよ。
だから染岡クンも気づいてないだけで本当は好きな人がもう胸の中に住んでるかも」

胸きゅん吹雪はプッシュ、プッシュ、猛プッシュだ。

「例えば、最初は気に食わなかった相手がふとしたことで、一気に距離が縮んだりとか。
嫌いだと思ってたのに、その相手のことばかり考えていたりとか。
そんなこと、無いかな?」

――僕、僕、僕のことだよ〜。
染岡クンは、僕のこと本当は好きなんだよ〜。
願いというか呪いというか願を掛けながら、染岡を思いっきり可愛い顔で見上げる。
はい、『ココゾノアピール』入ります。


「吹雪…」

染岡はまさに目から鱗が出たような顔をして吹雪の手を取る。

――きたあああぁぁ。
告白禁止令も触れ合い禁止令も知ったことか。
今日僕は染岡クンと大人になりますっ!

一瞬のうちにそこまで考えた吹雪は、すっかり忘れていた。
円堂さん並ってことは、ダイヤモンドの攻めにも耐えうる鉄壁の守りだということに。


「サンキュー、吹雪。
俺、本当は瞳子監督のことが好きだったんだな。
自分でも気づかなかったぜ」

そう言うと自主練を切り上げ、上機嫌で宿舎に戻っていく。
あとにはときめきゲージがマイナスになった抜け殻吹雪だけが残った。


次の日、染岡が一気にスタメン候補入りしたことと、
吹雪が一気に控え候補に落ちたことは言うまでも無い。

 

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