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「えっ、あっ、…でも、ど、ぅしたら…?」

俺が土門の提案に乗る気だって気付いたんだろう。
俺が戸惑ってそう訊ねると土門はにっと俺を後押しするみたいに笑う。

「半田はさ、ただいつも通りしてればいいんだよ。
今は、一之瀬にドキドキしちゃうのがいつもと違うから嫌なんだろ?」

「うん…」

「だったら、俺がいつも半田と一緒に居る。
一之瀬にドキドキしちゃう時はすぐ、隣にいる俺の事を考えればいいよ。
一之瀬じゃなくて俺を見ればいい。
一之瀬には半田と二人っきりにならないようにさせる。
な、そしたら少しは楽だろ?」

「う、うん!」

一之瀬に勝手にドキドキしちゃうのが治まれば、元に戻る気がしてた俺は、
土門の提案に一も二も無く飛びついた。


「あっ、でもいいのか?
それって土門は大変なだけじゃん」

俺は少し申し訳なくて、土門を仰ぎ見る。
すると土門はサバサバした態度で、何でもないように笑う。

「いいっていいって!
これも全部一之瀬の恋の成就の為なんだから。
あっ、俺に悪いと思うなら、少しでも早く一之瀬の事めっちゃ好きになってね」

土門のウィンクと、その言葉の内容に俺は言葉に詰まってしまう。

「それに半田の気持ちも分かるしねー」

土門がまた食事を再開しながら言う。
だから俺も大分時間が無くなっちゃったけど、弁当をやっと開ける。
生理が始まってからやけに栄養バランス重視になったおかずに小さく溜息を吐く。


「実は俺、初恋の相手、一之瀬なんだよねー」

何気ないように続けられた言葉は十分衝撃的で、俺は危うく弁当を落としてしまいそうになる。

「な、な、な、何ぃ!?」

一気に食事どころでは無くなった俺は土門に聞き返す。
でも、土門は慌てた俺を見て満足そうに笑うだけ。

「良かった、俺のトップシークレットにちゃんと反応してくれた」

「ど、どういう事!?」

「ん?言葉通りだよ。
昔、俺も半田みたいに悩んだから、なんかほっとけないって話」

「そうじゃなくて…」

はっきり言って聞きたいのは、そんな事じゃ無い。
でもそれをはっきりと言ってしまうのが憚れて、語尾を濁してしまう。

「あっ、気になる?
聞きたい?俺と一之瀬の事」
面白がるような顔をして言う土門に素直に頷くと、
にっと笑ってから楽しそうに話し出した。


「俺と一之瀬が幼馴染なのは知ってるだろ?
小さい頃から俺にとって一之瀬は特別でさ。
いっつも俺はアイツの背中ばっかみてた。
世界の中心がアイツだった。
で、いつしか気付いた訳。
あれ、これって恋じゃないのかって。
そう思った時は怖かったな。
自分も一之瀬も裏切ってる気がしてさ。
いっちょ前に悩んだりもしたよ、人並みにはさ。
辛くて、一之瀬に気付いて欲しくて、仄めかす事もした。
でもさ、アイツ少しでもそういう態度で接するとすっげぇ嫌がるんだよ。
一之瀬に恋してる俺は居ないみたいに無視すんの。
ひでぇだろ?
だからさ、少しだけ一之瀬にムカついてんの。
俺んときはあんなにシカトしたくせにってね。
ま、俺は半田と違って可愛くないから仕方ないのかもしれないけどさ、
少しぐらいは悩めよってね」

「そんな事無い!
だって一之瀬、あの時あんなにっ!」

「あの時?」

あ…。
俺は思わず土門の言葉に反論してしまっていた。

あの時の一之瀬は本当に怖くて、
あの後もずっと目を合わせてくれなくて、
急に変わってしまった一之瀬が不思議でどうしていいか分からなかった。

でも今ならその理由が分かる。


土門の想いを拒絶した過去があるからだったんだ。


こうやって一之瀬本人が男の俺を好きになったら土門が傷つくと思ったからだって分かる。
でも、それを伝えるには俺の「秘密」まで言わなきゃいけない。

・・・どうしよう。

俺はちらりと土門を見上げる。


「んな慰めてくれなくていいって。
もう完全にふっきれてんだからさ」

俺と目が合うと、土門はまたにって笑う。
その顔は強がりとかじゃなく、完全にそう思ってるって伝わるものだった。

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