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「死ぬ程…か。
そりゃ、すごいな」
少し呆れたような土門の声。

そう思う理由の大部分が俺の「秘密」に関わっていて、話せないから土門はそう思うのかも知れない。
でも、今の恐怖さえ感じる程の制御出来ない自分の感情は、
それぐらい言っても可笑しくないぐらい俺にとっては嫌なんだ。

だってさ、そうなったら今までの「男の俺」は死んじゃうような気がしてる。



「なあ、お前ってさ、今まで誰かと付き合った事ある?」

俺が顔を隠したまま何も言わないでいると、それまで俺の話を聞くばっかりだった土門が質問してくる。

「えっ?
え〜…なんだよ急に」

俺は意外な質問に思わず顔を上げて土門を見詰める。
土門の少し困ったような仕方ないなって思ってるような顔と目が合ってから、
自分が泣いてたことを思い出した。


「自分がさ、好き、…っと、好きかもしれない奴が自分の事好きになるって凄い事だとは思わない?」

でも、土門は俺が泣いてるなんて事実無いみたいに質問してくる。
だから俺もそんな土門に甘えて、まだ目が赤いって事を無視して答えた。

「そりゃ、そうかもしれないけど…」

確かに好きな人と両想いになれるなんて凄い事だとは思う。
でも、だからと言って自分の中から恐怖が無くなる訳じゃない。
認めれば認めただけ、戻れなくなりそうで余計怖い。


「ならさ、断るのは勿体無くない?」

土門は俺の中の葛藤なんて気付かないみたいに明るい声で言ってくる。

「な、何言ってるんだよ!?」

断ってしまうのが勿体無くても、自分の中から恐怖が無くならない限り、
この想いを受け入れられるはずも無い。
相反する想いなんだから、どうしたってどちらかを選ばなきゃならない。

そしてそれがどんなに辛い事でも、
俺の中ではもう選ぶ方は決まってる。


「自分がマイノリティーになる事が怖いってのは分かるよ。
それでなくても半田なんて普通の代名詞みたいなもんだし。
今まで普通からはみ出した事なんて無さそうだしな。

でもさ、もし少しでも一之瀬の事好きな気持ちがあるなら、
アイツにチャンスを残しといてよ」

土門の口から出た一之瀬の名前にまた胸がどきんと高鳴る。
それだけでまた心が揺れる。

土門は一之瀬の名前に俺が動揺したのに気付いたのか、
少し笑って俺の事を優しく追い込む。


「半田はさ、今は一之瀬の事好きになってく自分が怖いんだろ?
でもいつかは、そんな自分が好きになるかもしれないじゃんか。
そんな時後悔したくないだろ?

だからさ、断らなきゃいいんだよ」

「…え?
ど、…いう、こと?」

わざとらしい程明るい土門の声が、単純な俺を簡単に誤魔化していく。


「簡単だよ、答えを保留するんだ」

「一之瀬はお前に振られたなんて全然思ってない」

「このまま返事をしなければ、一之瀬はいつまで経っても半田の事を追いかける」


「いつまで経っても、半田を好きなままだ」


土門の耳障りの良い言葉はじわりじわりと俺の中に沁みていく。


「そもそも男同士で簡単には受け入れにくいっていうのに、
性急に事を進める一之瀬もどうかと思うし」

「少しはアイツも誠意ってもんを見せないとな」

「アイツも半田に好きになってもらうよう努力すべきだろ」


「だって半田ばっか悩むのはおかしいだろ?」


一之瀬の事を責める土門の言葉が俺の事を正当化していく。


「だから、半田にちゃんとした答えが出るまで保留するんだ」

「だって今の揺れてる状態だと、受け入れても断っても、半田が辛いだろ?」

「好きって気持ちが全然無くなるか、
一之瀬の事好きな自分の事を受け入れられるようになるか、
そのどちらかに完全に心が決まるまで待つ」

「一之瀬と一緒に居てもドキドキしないようになったら半田の勝ち。
半田が色んなシガラミも忘れるくらい好きだって想えるようになったら一之瀬の勝ち」


「な、良いアイディアだろ?」


そう言って笑う土門の意見に、俺はすっかり魅了されていた。
ズルイかもしれないけど、
その時の俺は誰かにこうしろって決めてほしかったし、
問題が先送りになるのが単純に嬉しかった。


ただ、自分のことでいっぱいだった。
そう、一之瀬の気持ちなんて考えられないくらいには。


 

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