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と思ったら、土門に腕を掴まれた。

「おいおい、もうすぐ授業始まるってのにどこ行く気だよ」
そしてすぐ俺の机の方を向く。

「ほら一之瀬も。
お前もそろそろ自分のクラスに戻れ。
ったく、お前らくだらない事で喧嘩なんかすんなよな。
皆、びっくりしてるじゃないか。
あー、悪ぃ!
部活の事でちょっと喧嘩になっただけだから」

土門は一之瀬に言った後、視線を寄越すクラスメイト達に俺の頭を叩きながら笑ってみせる。
途端に周囲から口々に

「ばっか、半田。喧嘩なんかすんなよなー」
とか
「半田君、顔真っ赤だよ。早く仲直りしなよね」
とか囃し立てられる。

「???」

俺は叩かれた頭を押さえて蹲っていると、
俺の真上で一之瀬と土門がごにょごにょと小さな声で話してる。

「ありがと土門」

「ったく、こんな所であんなこと言う馬鹿を親友に持つと本当大変だよ。
今日はもう来るなよ」

「あっ」

その二人の会話でやっと、土門が「喧嘩」なんて言った理由が俺にも分かる。

――俺達に変な噂が立たないように庇ってくれたんだ。

急に立ち上がった俺に、一之瀬は皆から見えないようにウィンクしてから自分のクラスに戻っていった。

また「ぼんっ!」ってなった俺の頭を土門がぐりぐりと掻き混ぜる。

「はいはい、『喧嘩』になった詳しい理由は後で聞くから、
今は授業の準備でもしちゃいなよ。
さっき予鈴鳴ってたぞ」

そう言う土門の顔は少し微笑んでいて、
なんとなく俺の頭を掻き混ぜたのは背の高い土門が、
そうする事で皆から一之瀬に対して真っ赤になった俺を隠す為のような気がした。




全く頭に入ってこない授業が終わった後、俺は速攻で土門の席へと向かう。

「さっきはありがと」

庇ってもらった理由が理由だけに、なんとなく気まずくてまっすぐ土門が見れない。
どことなくぶっきら棒な話し方になってしまう。

「ん〜、本当に悪いと思ってるなら詳しく教えてよ?
ねえ半田くーん」

「うっ!…う、う〜ん」

にやにやしながら机に着いたまま俺を見上げてくる土門に、俺は唸ってしまう。

だって本当に土門には迷惑かけたなって思うし、
さっきは土門が庇ってくれたお陰で助かったのも確かだ。
でも、詳しい話っていうと・・・。
自分でも分かってる部分と、自分でも分かんない部分があって、
分かってる部分の大部分は俺の「秘密」に関わっているから話せない。

俺がうんうん唸っていると土門がくって小さく笑う。

「あー、いいっていいって。戸惑うのも分かるし。
まだ自分の気持ちも纏まってないんだろ?
今じゃなくて昼にでも聞くから。
それにここだと拙いだろ?」

「う、うん!」

土門の提案に俺はすぐ飛びつく。
話せない事も多いけど、相談したい事が沢山あるのも確かだった。
はっきり言って急に色々なことがありすぎてそろそろ自分一人だとパンクしちゃいそうだった。
その点土門なら口は堅いし、もう一之瀬との事も知ってるしで相談しやすい。

「じゃあ昼飯、部室で食おっか。
あー、でも二人っきりだと誰かさんが怒るかも」
ニヤニヤと笑う土門に、「ぼんっ!」とまではいかなくても、
また頬に熱が集まるのが分かる。

「ど、土門!」

「はいはい。
あー、アイツが言ってた事、なんか分かってきたな」

「?」

土門は急に独り言のように呟くと、頭の後ろで手を組んだ。
それからハテナ顔の俺に向かってにっと笑う。

「半田ってすぐ真っ赤になって可愛いかも」

「土門!!」

今度こそ俺は真っ赤になって土門に怒鳴った。


 

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