7



パートから帰ってきた母親に生理が来たことを話すと、半田家は大変なことになった。
母親は夕飯の事なんて忘れたみたいに動転するし、
帰宅した父親は、まだ俺達が夕飯も食べていないことにビックリした後、俺に生理が来たことに更にビックリしていた。

次の日は学校を休まされて、家から少し離れた大きな病院に連れられて行った。
女の人ばかりいる待合室に、
じくじくといつまで経っても痛む腹、
顔が隠れる様にカーテンの付いた、足が開いた状態で座る診察台、
そして医者とはいえ、知らない奴の前に下半身を晒す事。
その全てが嫌で嫌で堪らなかった。


――嫌な事ばかりの反転した世界。


俺が初めて体験する女の世界は、そんな嫌な事で満ち溢れたものだった。


その後、親と一緒に隠れるように学校へ行って理事長にも会った。
俺の体の事、
…つまり女の部分もある事、
今回生理が来て、病院で検査をして貰い、詳しい結果はまだ出ていない事、
詳しい結果が出るまでは今まで通りに生活したい事、
騒ぎになると困るからこの事は秘密にしたい事等を親と理事長で話し合ってた。
俺はその間、ずっと黙ってそれを眺めてた。

だって俺の女の部分なんてどうでもいい。
嫌なものばっかりの反転した世界なんて見たくも無い。

俺の望みは唯一つ。
今まで通り男として生活することだけだった。


親と理事長との話し合いの結果、ちゃんと俺の体の事は内密にして貰えることになり、
生理が終わるまでは学校を休むことになった。


学校を休んでいる間、一度だけ雷門が見舞いに来た。
彼女は父親から全部聞いて、もう俺の事を知ってるらしい。
そして既に俺の秘密を皆に隠す為に色々フォローしてくれてるみたいだった。
俺はインフルエンザで休んでいて、部員は見舞いに来る事を禁止されてるらしい。
俺はベッドに座ったまま、それをぼんやりと聞いていた。
きびきびと今までの事やこれからの事を話した彼女は、最後に
「全然話さない半田君なんて、らしくないわ」
そう言って俺を励ますみたいに笑って帰っていった。
そんな事言ったって、まだ女の部分を受け入れられない今の俺に話したい事なんて何も無い。
ただ、この苦痛だらけの時間が早く終わればいいのにと、
それだけを思って休んでる間を過ごした。




だから生理が終わった時はすっごい嬉しかった。

もう全部が薔薇色?
世界は俺の為にあるって感じ?

制服の詰襟を締めるのさえ嬉しい。
だってほら、漢ー!!って感じがするだろ?

もう俺の世界はすっかり元の世界に戻っていた。
反転した世界の名残なんて一欠けらも残ってない。
残していたくない。
そう思いながら俺は学校に向かった。


朝練に行くと、見慣れた面々さえすっごく新鮮に見える。
そう言えば休んでる間、こいつ等からのメールがすっげぇ嬉しかったな。
俺を男としてしか知らない人間からのメールは、
鬱々としていた俺にとって唯一といっていいほどの楽しみだった。

その感謝の気持ちを秘かに込めて俺は、会う奴、会う奴皆に張り切って挨拶をしていった。

「はよー、マックスに影野!」

「ひっさしぶりぃ、染岡!」

「円堂!部活休んじゃってごめんなー」

皆に声を掛けながら、部室まで小走りで向かう。

「おっはよ、半田」

「あっ、おはよー土門
 ・・・ッ!!」

走っている途中で土門に声を掛けられて振り返ると、そこには土門と、
…俺から目を逸らし、斜め下辺りを見ている一之瀬がいた。


休んでる間、わざと考えないようにしていた一之瀬の姿を見た途端、
顔に一気に体中の熱が集まる。
擬音を付けるなら、まさにぼんっ!
初めて知ったけど、体中の熱が一気に顔に集まると涙さえ浮かんできちゃうんだぞ。
傍から見たら今の俺は、ただ挨拶しただけなのに、真っ赤になって涙ぐんでる変な奴だ。
自分でも変だって思う。
なんでって自分でも思う。
もうどうしていいか分かんなくなって、もっと泣きそうになる。

ちらりと見ると、土門も、
俺の方を見ようとしてなかった一之瀬でさえ唖然って顔で俺を見ている。
体中の熱が集まってたと思ってたのに、更に顔が熱くなる。
もうこの場に居たくない。

「…おはよ、一之瀬」

俺はなんとかそれだけを言うと、猛ダッシュでその場から逃げ出した。


 

prev next





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -