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「んーッ!んーッ!んんーーーッ!」

なんっだコレェ!?痛いってもんじゃないぞ!!
突然感じた尋常じゃない痛みに、俺は叫び続ける。
例えて言うならお腹ん中を守ってる防衛壁が突破されて、敵兵にむざむざと陣地を荒らされて強奪されてる感じだ。
あー、もうっ!例えてる余裕なんてねーよ!!
膜破られて、血がドバドバ出てんのに傷跡を熱した鉄の棒でゴリゴリされてる感じだよ!!
すっげー、痛い!!
でも口を塞がれているから、俺の叫び声は鬼道の舌に絡めとられて全てくぐもった音にしかならない。
息だって続かない。
痛みと息苦しさで自然と涙が零れてくる。


漸く鬼道が口を離した瞬間に、俺は思いっきり息を吸った。
はぁッ、はぁッ!って短く何回も俺は息をした。
そん時にはもう痛さよりも苦しさが勝っていた。
息出来ないと死んじゃうもんな。
なんとか息が落ち着いた俺は、鬼道の胸を至近距離で思いっきりグーで殴った。


「嘘吐き!!
少しじゃねーじゃん!!」

俺の痛みの10万分の1でも思い知れッ!
俺のパンチが炸裂したっていうのに、鬼道は途端に苦笑を浮かべた。
堪えた様子もなく俺の顔に手をやると、俺の目じりの涙を親指でふき取った。


「それだけ悪態がつけるなら、もう大丈夫だな」


それはハッとするぐらい優しい顔だった。
そもそもこんなにも至近距離で鬼道の顔を見たのは初めてで。
そんな顔の鬼道も、ゴーグルの奥の瞳も俺は見たこと無かった。
初めて見るその勝気そうなつり目の瞳は、今は俺を見て優しく細められている。


「…ンッ」

俺は鬼道の顔を見ていられなくて顔を逸らした。
なんだか胸がモヤモヤする。
こんな、まんま犯罪ストライクな行為をしてるのに、なんでそんな瞳して俺を見るんだよ……。


「…アッ!」

俺が顔を逸らした途端、鬼道が動き始める。
ゆっくりとしたその動きは俺を確かめるようで、味わうようで、でもそれ以上に俺を労わってるように感じた。
鬼道が動く度に、俺の胸のモヤモヤがさらに大きくなっていく。
俺はもうどうしていいか分からなくって、顔を手で覆い隠した。


「もぉ、やだぁ…!
早く…、早く抜けってぇ!」

自分の声に涙が混じっていて、余計顔を見せる訳にいかなくなる。

「そうか。
では、遠慮無くいくぞ」

でも鬼道は俺の繊細さに気づいていないようだった。
俺の両足を抱えると、上から叩きつけるみたいな激しい動きに変わる。


「痛ってぇーーーッ!!」

言葉通りの遠慮無い動きに、俺は痛みで叫び声をあげる。
涙なんて繊細さは、あっという間に吹き飛んでしまう。
さっきまで鬼道が動く度に、胸にモヤモヤが広がったのに、今では痛みで鬼道への殺意が広がっていく。


「くぅ〜〜〜ッ、馬鹿きどぉ…ッ!もっと…、ッ!…や、やさしく、…ッ!…ッ!しろぉ…ッ!」

怒ってるってのに、俺が話してる最中も鬼道は動き続けてるせいで痛くてちゃんとしゃべれない。
突かれるとぐっと唇を噛み締めてしまうから、その度に言葉が途切れる。
しかも息が上がってるのに唇噛み締めた結果、俺は「ふーっ、ふーっ」てみっともないくらいの顔で鬼道の背中に爪を立ててしまっていた。

暫くして、鬼道がまた俺の頬に触れた。
なんだ?と思って鬼道を見上げると、鬼道も俺と同じような息を荒げて俺を見つめている。


「中に出すぞ」

今日鬼道の言葉に驚いたのは何度目だったかな。
鬼道のその言葉に、俺は一気に背筋が凍ってしまう。


「やだぁあ、赤ちゃんできちゃう!!」

鬼道の言葉で、これが「男女間で行う生殖行為」だったって思い出した。
ただ痛いだけじゃないんだ。
もしかしたらこの行為に結果が伴うかもしれないんだ。
俺は男だけど、生理があって。
生理があるって事は妊娠可能って事だろ?
俺は男なのに、そんな事になったら生きてけない。
俺は半狂乱になって、泣きながら鬼道の胸をどんどん叩いた。


「今日ならたぶん大丈夫だ」

俺の渾身の抵抗に鬼道は痛そうに顔を顰める。
でも動きは決して止めない。


「ふざけんな!!
お前の言うことなんか信じられるか!!」

俺はなんとか鬼道の下から抜け出ようと、しっちゃかめっちゃかに暴れた。
体を起こして、ずり下がろうとするが腰をしっかり抑えられてるせいで動きが取れない。
必死な俺をあざ笑う様に、鬼道はさらに動きを早めた。


「やだッ、やだッ、やだあああぁぁ!!」

俺の必死の叫びも虚しく、鬼道は眉を顰めて動きを止めた。
俺の奥に赤ちゃんの素を沢山注ぎながら。




「……お前のこと、絶対許さないからな」

欲望を出してしまった途端、俺に興味を失った様に体を離した鬼道を俺は睨んだ。


「俺、女の子とキスだってしたこと無かったんだぞ。
それなのに、あ、あんなこと……!」

言いながら、悔しくてまた涙が浮かぶ。
鬼道はこれで終わりかもしれないけど、俺は違う。
これから俺は妊娠したかもしれない恐怖に怯えて過ごさなきゃならないんだ。


「そうか、それは悪かったな。
次からキスは控えるようにする」

「次から!?
次なんてあるわけないだろ!?」

俺は人生においてこれ以上は無いってぐらいショックを受けているのに、どうしてそんなことが言えるんだ。


「俺が一回でお前を手放すと思うか?
こんな珍しいものが手に入ったんだ、飽きるまで付き合ってもらう」

珍しい、…もの?

鬼道の言葉に、俺は目を見張る。
やっと俺の言葉が鬼道に通じなかった理由が分かった。
コイツは俺のことを「俺」として見てなかった。
俺が半陰陽だって知った時から、こいつの中で俺はチームメイトとか部活の仲間から「珍しいもの」に変わったんだ。

・・・そんな相手に何を言っても通じるわけがない。


「おい、シャワー一緒に入るか?」

鬼道が俺を振り返って訊ねる。
無言のまま俯く俺を一瞥すると、自分のマントを俺に投げかける。


部室の一角にあるシャワールームから聞こえる水音が、俺の慟哭をかき消してくれる。


なんで俺は自分がセックスしてるって気づかなかったんだろう。
俺は改めて自分が鬼道に汚された事に気づいた。


鬼道に快楽を感じた自分が悔しかった。
もっと、もっと本気で抵抗できたはずなのに、しなかった自分が悔しかった。
一瞬でも鬼道が優しいかもと思った自分が悔しかった。

・・・鬼道を信用していた自分が悔しかった。


俺は車で送っていくと言う鬼道を振り切り、未だ痛む体を引きずり、ふらふらと家に帰る。

その夜、今日なら大丈夫という鬼道の言葉通り、生理が来た。
生理が来て、嬉しかったのは初めてだった。


 

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