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「はーんだ」
一之瀬がまた用も無く俺のクラスにやってきて、俺の名前をやけに甘い声で呼んでくる。

・・・うざい。はっきり言って、うざい。

「はーんだ、半田ってば」

「…半田。
うざいだろうけど少しは相手してやって。
そしたら退くだろうし」

俺の机に顔を乗せてにこにこしながら俺を見つめている一之瀬を、
当然のように無視して、避ける様に俺は弁当を移動させる。
机の面積が足りなくて、一緒に弁当を食べていた土門の机に俺の弁当が半分侵入している。
俺自身も一之瀬を避けるように移動したから大分土門に接近している。


「ごめんな土門。
狭いだろうけど、俺の机、なんか自縛霊がいるみたいで寒気がするんだよ」

「酷いよ、半田〜。
オレはただ純粋に半田と少しでも長い間一緒に居たいだけなのに」
俺の言葉に一之瀬がわざとらしく悲しんだ顔をしてみせる。

はっ、よく言うよ。
少し前までは土門に会いにうちのクラスに来た時も、俺には挨拶くらいしかしなかったくせに。
急に手のひら返したみたいに、俺に構い出すなんて、
あの時のことを暗にアピールしているみたいでムカつく。


「今日だってほら、半田が好きなチャーハンおむすび買ってきたし」

そう言う一之瀬の手には、俺の好きなチャーハンおむすびの姿が。
しかもセブンの焦がしチャーハン。
なんで一之瀬が俺の好物を知っているんだ。

俺は情報発信元だろう土門をじろりと睨む。

「悪ぃ!一之瀬が半田の好きなもの教えろって煩いからつい」
土門がパンと手を合わせて謝ってくる。

くっそ〜、なんでよりによって同じクラスの土門の親友がこの馬鹿一之瀬なんだ。


「土門、これからは俺のこと一之瀬に一切しゃべんないでくれ。
一之瀬は俺にとって倒すべき敵なんだから。
俺、にっくき敵とは馴れ合いたくないんだ」
俺は一之瀬が視界に入らないように土門の方だけに向かってはっきり言う。

「酷いよ半田!
いくらオレが半田からレギュラーの座を奪ったからって、
同じチームメイトなんだからもっと親交を深めようよ!!」

「絶対ヤダ!つーか無理!!
俺がお前と仲良くなる日が来るとしたら、それは俺がお前からレギュラーを奪還した日だから。
それまでお前は、俺にとっては敵!
じゃなかったらただの通行人!
名も知れぬただの通行人だから!!」
俺はついに無視し切れず一之瀬に向かって宣言してしまう。

「ねえ、オレからじゃなく少林とか栗松にしない?
それだったらオレも応援するし。
オレも半田の隣でピッチに立ちたいしね」
でも一之瀬は全然めげずにそんなことを言ってくる。

「ふざけんな!俺の標的はあくまでお前なんだよ!!
俺、お前のそういうとこ嫌い!
絶対俺の事下手だと思って舐めてるだろ!?
だからこういう風に俺に構ってくるんだろ!?」
一度一之瀬に反応してしまった俺は、止まらなくなって怒鳴ってしまう。


こうやって怒鳴ることさえ危険だって分かってたはずなのに。
そもそも視界にいれちゃ駄目だって分かってたはずなのに。


俺が怒鳴ると一之瀬の眉が悲しそうに寄る。


「そんなんじゃ無いって、いつも言ってるのにまだ半田には伝わってないんだ。
…オレが半田を構うのは、半田のことが好きだからだよ?」

「…ッ!!」

俺は慌てて一之瀬から顔を逸らす。

こんな風に簡単に「好き」なんて言う奴のこと信用出来ない。
絶対俺を動揺させて楽しんでるに違いないんだ。


真っ赤になって俯く俺と、そんな俺を見て急にニコニコしだす一之瀬。
そして呆れたように溜息をつく土門。

俺にとってはいつまで経っても慣れない一之瀬の「好き」って言葉も、
土門にとっては最早日常会話なのかもしれない。


「もう慣れたけど、いい加減俺の前でいちゃいちゃすんの止めてくんない?
そもそも一之瀬、お前なんだって急に半田好きになったんだよ?
前は普通だったじゃんか」
土門の言葉に俺は思わず体を固くする。
でもそんな俺の様子を知ってか知らずか、一之瀬は俺の肩を馴れ馴れしく抱き寄せる。

「そんなの俺と半田の秘密に決まってるよ!
ね、半田」

そう、「秘密」だ。
あの日俺の「秘密」が一之瀬にバレた日から、
一之瀬は俺を過保護に構うようになってしまった。


俺は一之瀬に肘鉄を食らわしながら、あの日、
一之瀬に俺の「秘密」がバレてしまった日のことを思い返していた。

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