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俺がへなへな〜って椅子に座り込んじゃったのを円堂は何か勘違いしたみたいだった。
円堂は今まで以上の迫力で鬼道に詰め寄る。
「鬼道!
隠れてこそこそ浮気するなんて最低だ!!
俺は鬼道がそんな事するような奴だとは思ってなかった。
見損なったぞ、鬼道!!半田に謝れ!!」
「ち、違うんだ円堂」
鬼道も想像以上の円堂の迫力に気圧されてるみたいだ。
なんかタジタジになっている。
「違くないだろ!
俺だけじゃなく豪炎寺も風丸も染岡だって見てる。
お前が自分で恋人だって言ってたんじゃないか!?」
「ああ、確かにそう言ってた!」
円堂だけじゃなく風丸までもちょっと憤慨して円堂の言葉を肯定する。
二人で鬼道に責めよってってる。
それも凄い怒った顔で。
これって、なんか、どうしよう、俺。
――…泣きそうかも。
「…いいんだ、円堂」
俺が小さく呟いた声は涙声で、その声を聞いた途端円堂は鬼道の胸倉に掴み掛かる。
「鬼道っ、早く半田に謝れっ!!
お前は半田だけじゃなくあの女の子にも酷い事をしているんだぞ!
お前あんなに嬉しそうにデートしてたのに二股だったなんて最低だっ!!」
ああ、もう…っ。
円堂は怒って鬼道の胸倉をきゅうきゅう締め上げてるし、風丸の目は釣りあがっているし、
教室を見渡せば事情を知らない皆は皆、音無までも鬼道じゃなくって俺の為に怒ってる。
さっきのマックスといい、今の円堂達といい、なんでこんなにいい奴ばっかなんだろ。
――ああ、俺ってすっごい幸せ者だなぁ…。
皆に黙っていたのに、こんな風に皆に心配されて、
男としてこんな素敵な奴らと一緒にサッカーやれて、
そして女として鬼道に愛されて。
男でも女でもある分、俺って人の二倍は幸せなのかも。
俺はなんだか幸せでほんわかした気分で涙に濡れた顔で鬼道を見ると、
そこには真っ青な顔で虫の息の鬼道がいた…。
「うわっ、鬼道!!」
俺は慌てて円堂の手を押さえる。
うっかり感動してたせいで鬼道の人生が終わるところだった。
「円堂、本当にいいんだ!
あの女の子は俺!俺なんだ!!」
俺の言葉と同時に円堂の手が緩んで鬼道がどさりと床に落ちる。
ごほごほと咳き込む鬼道の顔に少しずつ赤みが戻ってくる。
「ええっ!?そんな訳ないぞ!?
だってその女の子ちゃんと水着着てたし、お前は病気でプール入れないだろ!?」
「うっ!…だからその〜俺がプールに入れないってのが本当は嘘で…。
あー、もうっ!見てもらった方が早い!」
俺が咄嗟に自分がその浮気相手だと言ったところで当然誰も信じるはずも無く。
俺はもう一つの秘密を信じてもらうべく、自分の背中に手を回す。
背中のファスナーを全て下ろしたところで、鬼道が咳き込みながら俺の事を止めてくる。
「ゴホッ…はん、だ…駄ゴホッゴホッ…止め」
「大丈夫、今日俺インナー着てたの思い出したから」
「そ…じゃ、なっ!」
俺はごほごほとまだ煩い鬼道に軽く頷いて脱衣を続行する。
ストンとメイド服を全部脱いで白いインナーTシャツとボクサーパンツ一丁になって皆を見渡してから横を向く。
「こうすればなんとか分かるだろ?
ちっちゃいけど俺のおっぱい」
俺は胸を張ってぐいっとTシャツの裾を引っ張る。
こうすればTシャツがぴったりと体にくっついて俺の小さい胸でも男にしては膨らんでるのが分かるはず。
と思ったんだけど、違ったみたいだ。
皆びっくりすると思ったんだけど、何の反応も無い。
「あれ?小さすぎて分かんない?
ちょっと待って、Tシャツも脱ぐから」
俺がインナーも脱ごうとした途端、いきなりわっと皆に止められる。
「いいっ!もう十分分かったから脱ぐなっ!!」
近くに居た円堂が顔を真っ赤にして叫ぶ。
そう?分かってくれたんだったらいいんだけど。
俺が掴んでいたTシャツから手を離すと、皆が一斉にほうっと安堵の溜息を吐く。
それに鬼道が皆から隠すように俺の前に立って、凄い怖い顔で俺のおでこを拳骨で叩く。
「馬鹿!脱ぐなと言ったのになんで脱いだんだ。
…乳首が立ってる。早く服を着ろ」
声を潜めて言われた言葉に流石にかあっと顔が熱くなる。
裸の胸見られるより勃ってる乳首見られる方が恥ずかしいって不思議だ。
俺が言われたとおり黙々と服を着ている前で鬼道がごほんと一回咳払いをする。
「あー、皆も見たと思うが」
一旦そこで言葉を切った鬼道は不機嫌そうに黙り込む。
そして鬼道はぎらりとゴーグルを光らせて睨んだ。
「…今、見たのはすぐに記憶から抹消しろ!」
「はいぃぃっ!!」
鬼道のドスの効いた声に綺麗に揃った返事が返ってくる。
・・・まだちゃんと説明してないのに、忘れられると困るんだけどなぁ。
俺が着替えながらそう思っていると、鬼道もそう思ったのかごほんともう一度咳払いをして言い直した。
「皆も見たとおり、半田には胸がある。
かと言って半田が女性かというとそうではない。
…半田は半陰陽なんだ」
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