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音無の容赦ない追及に鬼道が眉間に手を当てながらも何とか答えだす。


「あー…、サッカーボールはサッカーメイドの円堂から借用した。
それから、あー…、3号はそのー…。
そう、気合!気合でなんとかした。
うー…半田との関係か…。
あー…それはだな、中学という青春時代を共にした部活仲間であって、
そのー…、その得難き友人が、悲鳴を上げて困っているのを見てだな…。
俺の中の正義感がだな…、こうメラメラと、こう…。
変態に正義の鉄槌をだな…、円堂ばりの正義の鉄槌を食らわそうとして…。
そして俺の中で友情と正義感と気合が具現化した結果一人3号を可能にした訳で、そう俺一人で撃ったように見えて実は友情の俺と正義感の俺と気合の俺が存在し俺三人分のパワーをだな…」

「もういいっ!もういいよっ、鬼道っ!!」

俺はしどろもどろに意味不明な事を口にしている鬼道にタックルみたいに後ろから抱きついた。
そんな不適切発言を責められてる政治家みたいな鬼道なんて見たくない。
友情も正義感も気合も鬼道にはぜんっぜん似合わないし、誤魔化せるのは幼稚園児ぐらいの非常に厳しい言い訳をしている鬼道が悲しすぎる。


「鬼道、もういいよ。
いつか皆にも言おうって約束してたんだし、それが少し早くなったと思えばいいよ。
俺なら平気!」

俺が鬼道のゴーグルの下の目を見つめて言うと、鬼道が大きな溜息を吐く。

「…そうだな。
自分でも無理があると思っていたところだ」


そして俺達はどちらからとも無く手を握る。
目を合わせて頷き合ってから、皆を見渡す。


「皆、聞いてほしい。
秘密にしていたが俺と半田は、交際をしている。
その…、恋仲というやつだ!」


鬼道がきっぱりと言い切ると、痛いくらいの沈黙の後どわっと一気にざわめきが起こる。
皆が皆、口々に紅潮した顔で色々な事言っている。
俺はと言うと、そんな皆の予想以上とも言える反応にも自分でも驚くぐらい微塵の動揺もしていない。
ぽーっと鬼道を見ていると、そんな俺に気づいた鬼道がにこって笑ってくれるから、
皆の動揺を余所に繋いでた手を解いて、今度は鬼道の腕に自分の腕を絡ませる。


だってさ!
きっぱりと俺との仲を皆に宣言した鬼道が格好良くって!!
もう俺たちの関係を隠さなくていいのが嬉しくって!!

見た?見た?
さっきの鬼道、格好良かったぁー!!
『俺と半田は、交際している』だってー!
きゃー!俺と鬼道は『恋仲』なんだってー!
俺も鬼道に恋してるし、鬼道も俺に恋してるって皆に言っちゃったー!!嬉しーっ!!

あー、俺も何か言いたいなぁ。
言っちゃおうかな?言ってもいいよな。うん、言っちゃおう!


「えへへー、俺達恋人同士なんだー!
もう一年近く付き合ってるんだぞ!ねー?」

俺が自慢げにそう言って、最後に鬼道に同意を求めたら、
鬼道に「余計な事まで言わなくていい」っておでこにコツンって拳骨されちゃった。
えへへー、怒られちゃったー。


「そっ、そんな前から!?」

しかも俺の発言にまた皆がどよめくのが、なんか楽しい。

「☆月の○△日でちょうど一年!」

「日にちまで覚えていたのか?」

鬼道が今度は怒らずに少し驚いて俺を見てくる。
俺が日にち覚えてるのそんなに不思議かな?
俺は鬼道の耳に顔を寄せる。

「…だって俺のファーストキスの記念日でもあるし忘れられる訳無いだろ」

そしたら今度は逆に鬼道が俺の耳に顔を寄せてくる。

「馬鹿。キスはもっと前に一度している」

「うっそだぁ!だって俺ずっとして欲しくてなんでしてくれないんだろうってずっと悩んでたんだぞ!
お前は俺が珍しいから相手してくれてるだけなんだって、これでも落ち込んだりしたんだからな!」

鬼道の言葉に今度は声を潜める事もつい忘れてしまう。
だってこれは聞き捨てなら無い。
俺達の初キスは付き合い始めたあの日だし、鬼道がもしかしたら他の子と間違えてるとかだったら問題発言もいいとこだ。

俺が鬼道を睨むと、鬼道も心外だって感じに俺の手を振りほどく。

「本気で言ってるのか!?
お前は俺がどんな気持ちで…っ。
お前が泣いて嫌がったから、俺は我慢してやってたんだぞ!」

「俺がいつ泣いて嫌がったんだよっ!?
鬼道の馬鹿っ!
俺と他の子間違えて覚えてるなんて最低だっ!!」

「間違って覚えているのはお前だっ!
去年の△月最後の土曜に部室でお前が泣きながら俺を責めただろっ!?
まったく、こんな鳥頭相手に約束を生真面目に守っていた俺が馬鹿みたいじゃないかっ!!」

去年の△月…最後の土曜…。部室…?
付き合う半年も前に何かしたっけ?
…アレ!?月末の土曜で部室ってもしかして…。

「ッ!!それってお前にレィ…もがもが」

俺の言葉の途中で鬼道が気まずい顔で俺の口を手で塞いでくる。
口塞がれて苦しくってもがもがしてたら思い出した。
あの時も今みたいに口を塞がれて叫ぶ事も息を満足にする事も出来ず痛くて苦しかった事を。
確か、あの時に俺の口を塞いでいたのは今みたいに手じゃなくて、鬼道の口だったような…。
あっと思って鬼道を見ると漸く俺の口から手を退かしてくれる。


「思い出したか?」

「…うん。俺の思い違いだった、かも。
でも仕方無いじゃん!あん時は痛くてそれどころじゃなかったし!!
それに俺、お前が嫌で泣いたんじゃないし!!
お前が俺の気持ち無視してたのが嫌だったんだぞ!!」

俺の言葉に驚愕で鬼道の眉が上がる。

「そう…だったのか?」

「そうだよ!!
嫌じゃ無かったのに、お前が俺の事なんてどうでもいいって思ってるのが分かって、
嫌じゃないって思った自分が惨めで悔しかったんだ。
俺がしたくない嫌な事を平気で出来るお前が嫌なのに、嫌いになれない自分が嫌だった!」

こんなこと本当今更なのに、細部まで思い出したせいかあの時の気持ちが色濃く蘇ってしまってつい鬼道を詰ってしまう。
俺がずっと前に心の奥底に仕舞い込んでしまった気持ちを吐き出すと、
鬼道が困惑しているような悔やんでいるような喜んでいるような、そんな複雑な顔して俯く。

「そんな風に、思っていたんだな…」

感慨深げに呟いて、自嘲気味に笑った。


「俺はずっとお前に嫌われていると思っていた。
嫌われて当然の事を俺はした。
だから思った。縛り付けないとお前は離れていくと。
それでお前を支配するような酷い事を沢山した。
お前に優しくしたいのに出来なくて何度も初めからやり直したいと願った。
お前が他の人間に想いを寄せるのも仕方ないのだと自分に言い聞かせて、
それでもお前を手放せなくて苦しくて堪らなかった!」

鬼道が吐き出すように言った言葉に、今度は俺が目を見張る。
だって今のが鬼道の心に仕舞い込んでいた本当の気持ちなら俺達…。


「随分遠回りしていたようだな…」

「鬼道…」

鬼道が俺の手を取り、苦く笑って呟いた。



と思ったら、俺達の繋がれた手はマックスの手刀で離された。

「はい、本日二回目!
もうそのパターン飽きたから、君達二人だけの世界禁止ね!!」

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