18
目が覚めると、目の前に鬼道の顔があってびっくりした。
鬼道は俺と目が合うと、ほころぶように笑う。
「おはよう半田」
ちゅって俺の頬に目覚めのキスをする。
「…おはよ、鬼道」
朝の眩い光を浴びて優しい笑みを浮かべる鬼道は、当然ながらまだゴーグルもしてなくて、その余りの格好良さに思わず見とれてしまう。
しかもさ、寝乱れたところなんて一つもなくて、布団から出てる首筋とかすっげぇセクシーで。
あ〜っ!ヤバいくらいドキドキするぅ!!
「…いつから起きてたの?」
「さっきだ。
お前の寝顔を見たいと思って早めに起きた」
少しでもドキドキを抑えたくて話掛けたのに、鬼道がそんな事言うからもっとドキってしてしまう。
あーもういい!
朝から抑制効かなすぎだけど、こんなにもドキドキさせる鬼道が悪い。
「きどおお〜」
んーって鬼道に抱きついてからその頬にキスを沢山しまくる。
「ね、もう一個キスマーク付けていい?」
「ああ」
少し離れて鬼道にお願いすると、鬼道がくしゃりと俺の髪を撫でてから笑って頷く。
俺が少し布団を肌蹴させると、鬼道の裸の胸には俺が昨晩付けたキスマークが一つ。
そして俺の胸にも同じ位置に鬼道が付けたキスマークが一つ。
・・・心臓の上に愛してるって証拠の印だって鬼道が昨日の夜付けてくれたものだ。
俺はその赤い印のすぐ隣に吸い付く。
じゅって濁った音を立てて唇を離せば、また一つ愛してるのサインの出来上がり。
「へへ〜、俺の方が鬼道の事二倍も好きだもんねー」
二つ並んだその赤い証拠に、俺は満足して笑う。
すると途端に鬼道が無言のまま、俺の上に馬乗りになって胸に同じように吸い付いてきた。
「んっ!…んんっ!」
一回口が離れたと思ったらまた似たような場所に口唇を寄せる。
・・・どうでもいいけどなんで同じことされても鬼道は声が出ないのに俺は勝手に漏れちゃうんだろう?不思議だ。
「これなら俺の方が愛してるってお前にも分かるか?」
馬乗りのまま鬼道が不敵に笑ってくる。
見ると俺の胸にはキスマークが三角形に並んでる。
俺ももう一つ付けてやるって体を起こそうとしたら、鬼道が急に辛そうな顔でそのキスマークを撫でてくるから動きが止まる。
「これがお前の胸にあると思えば少しは我慢出来る。
…今日一日お前がどれだけ他の男に笑おうがな」
「…鬼道」
鬼道が真剣な顔で俺のことを見つめてくる。
「半田、愛してる」
「鬼道…。俺も!俺も愛してる!」
そこから後は奪い合い。
どっちが愛してるか競うようにお互いの舌を貪り合う。
昨日からずっと二人して熱に浮かされっぱなしだ。
もうこんな激しいキスも何度したか分からない。
くらくらした頭で考えるのは、もっと鬼道が欲しいって事だけ。
それなのに俺達を邪魔するように機械音が鳴り響く。
最初は気付かなかったその音も、一旦途切れてまた鳴ってを数度繰り返されると流石に耳に入ってくる。
鬼道が仕方なさそうにその電話に出る。
電話での会話が進むにつれて鬼道から少しずつ熱が失われていくのが分かる。
それがなんだか面白くなくて、俺は枕に顔を埋める。
電話を切って、不貞腐れた俺の肩を叩いた時にはもう既に鬼道はゴーグルまで着けていた。
「すまないが、荷物を取りに行かないとならない」
そのままきびきびと制服を身に着け始める。
「何の荷物?」
鬼道が放ってくれた制服に俺も、もぞもぞと着替え始める。
「メイド喫茶の補充品だ。
…俺とお前で不足した物を買出しに行くと円堂に話してある。
お前は準備を張り切っていたし、連れに選んでも不自然はないだろう?」
鬼道はそう言うとタオルを持って廊下に出て行ってしまう。
俺はというと、なんでそんな事を?って頭を捻りながら着替えてた。
のろのろとした俺の着替えが済んだ頃、漸く昨日鬼道に手を引かれ派手に退場したのを思い出す。
「…ああ!」
思わず声が出た俺に、丁度洗顔から戻ってきた鬼道がふっと鼻で笑う。
「変に言う者も居るかもしれんが、堂々としていれば大丈夫だろう。
お前もちゃんと話を合わせるんだぞ」
「あー…、うん、分かった」
鬼道が歯切れの悪い俺に近づいてくる。
「…どうした?」
「うん…。なんか学校じゃ内緒にしなきゃなんだなぁって思って、さ。
鬼道の事、好きな気持ち隠さなきゃいけないなんて嫌だなぁ」
鬼道と今まで付き合ってきてずっと内緒だったのに、そんな風に思ったのは初めてだった。
でも、今まで普通にしていた事が今は簡単に出来そうもない。
俺は困って鬼道を見上げる。
どうやって「ただの友人」のフリをしてたか、もう思い出せない。
「バラしても、いいか?」
鬼道が一言ずつはっきりと言う。
それはやけにきっぱりとした言い方で、今の俺の言葉に咄嗟に出た言葉には思えない。
「今の秘密の関係は到底長く続けられるものでは無い。
俺と真剣に将来の事を考えてほしい」
し、真剣に将来って…。
つまり、けっ、けっ、けっ、けぇー。
俺はごくりと唾を飲み込み、鬼道の言葉の続きを待つ。
「一気に公表してしまうと周囲も混乱するだろうし、お前も謂れも無いことで傷つくかもしれん。
少しずつ公表に向けて準備をしていこう。
公表する前にお前にはちゃんと病院で検査して欲しいし、お前の親にもちゃんと挨拶をしておきたい。
お前の方が大変になると思うが大丈夫か?」
…あー、そうだよな。そういう意味だよな。
将来って言葉で一気に結婚の事かと思うなんて俺ってば先走りすぎだろ。
気負っていた何かががくりと抜けてしまう。
でもまあちょっと気が抜けたけど、それでも鬼道がこうやって言ってくれたのはすっごく嬉しい。
「うん!一緒に頑張ろうな、鬼道!」
俺が手を取ってそう言うと、鬼道もぎゅっと握り返してくれる。
「ああ、俺達の将来の為だ。
お前の事はこれからも全力で俺が支える。
ずっと、ずっとだ!」
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