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廊下の角を曲がると、そこはもう人で溢れていた。
廊下に沿って並ぶ人々。
きゃいきゃいと女の子同士で並んでる子が多くて、それはやっぱりというかサッカー部のメイド喫茶に繋がっていた。
鬼道が先を急ぐのも納得の混み具合だった。


「うは〜、すっげぇな」

俺が女の子の列を掻き分けて顔を覗かせると、抜け目無くマックスが俺に気付く。

「あーっ、半田やっと戻ってきた!
サボってた分、半田も鬼道も働いてもらうからね」

・・・サボってた訳じゃないんですけど?

俺はマックスのサボリ発言に納得がいかず、顔を顰める。
でも、この分じゃチラシを配る必要性は無かったみたいで、ただ俺が逃げる口実でしか無かった。
それに鬼道と一緒に見て回る約束や放課後の予約も取り付けちゃったし、俺だけ楽しんじゃったみたいでなんだか申し訳なくなってくる。
鬼道も無言のまま忙しいだろう裏方の方へ回ってる。

よし!俺も頑張るか!!
なんたって影のリーダー(自称)だし、今日頑張ったら鬼道がご褒美くれるし!

俺はレースのカチューシャをきゅっと付け直す。


「んじゃ俺、受付やるからドンドンお客さん入れてくなー!」

俺がはりきってそう言うと、入り口近くに居たマックスや宍戸から「げーっ」っていうやる気の無い声が返ってきた。
おいっ!俺の事は責めたくせに自分はやる気無いってどーゆー事だ!?マックス!


俺は教室を見渡して、カメラを抱えて一人暇そうな目金に目星をつける。
そして先頭の女の子達に声を掛ける。

「ねえ、席空いてないけど写真ならすぐ撮れるよ。
だれか一緒に撮りたいヤツ居ない?」

こうやって並んでまでここに来たって事は多分誰かお目当てが居るって事だと思うんだ。
俺がそう言うと案の定女の子達はきゃあって歓声を上げた後、こしょこしょと内緒話を始める。

「あっ、あの豪炎寺先輩と…!」

そして真っ赤な顔で恥ずかしそうに女の子の一人が言ってきた。

「オッケ、豪炎寺ね。豪炎寺ー、写真お願いー!」

俺は豪炎寺に声を掛けた後、女の子達に笑いかける。

「アイツさ、キャピキャピしたの苦手だから、こういう機会でもないと一緒に写真なんて撮れないだろ?
折角だから思いっきりくっついちゃっていいよ」

「きゃあ!」

俺が嗾けるような言葉を言うと女の子達はまた歓声を上げる。
うんうん、恋する女の子は可愛いなぁ。


そうやって一人、ツーショット写真を撮り出すと教室の中はざわざわと騒がしくなる。
まったく誰も写真の宣伝しなかったのかよ。
まあ女の子だらけのこの時間、マネージャーは皆裏方に回ってるんだろうし仕方ないのかな?

「食事の済んだ人から写真撮れますよー!
誰でも好きな相手を選んでねー!」

俺が一声掛けてやると、一気に女の子達が席を立つ。
うんうん、これで座席の回転数も上がるってもんよ。
俺、商売の才能ある気がしてきた!


俺がどんどんお客様を案内していると、俺が事前に声をかけていた子達も来てくれてた。

「半田君」

「おー、来てくれたんだ!ありがとー」

俺に手を振ってるのはプール見学ん時に仲良くなった子達。
たしか…。

「っと、たしか風丸だっけ?
写真撮るならアイツ呼ぶよ」

内緒だと言ってしてくれた恋話の中で出てきた相手を思い出して言う。
たしかこの子達は皆「風丸はイケてる」って言ってたはず。
それなのにその中の一人は何故か俺を指名してきた。

「えっ!俺でいいの?風丸じゃなく!?」

「うん、だって半田君あんまり指名されてないんでしょ?カワイソーだから!」

俺が吃驚して聞き返すと、そうありがたーいお返事が返ってきた。
…はは、そーですか。麗しい友情、ありがとー。

でもまあ、その気持ちは素直に嬉しい。
俺は写真を撮るスペースでにこにことその子の隣に立つ。
するとその子は他の子に押されて、少しずつ俺の方へ寄ってくる。
結局俺と密着して写真を撮ったその子は、最後にちょっと赤くなって俺に「…ありがとっ」って少し怒ったみたいに言ってきた。
礼を言うのは俺の方なのにね。


その最初の一枚をきっかけに、俺も少しずつ写真の指名が入るようになった。
しかも!
指名の半分は女の子からとかって、俺って凄くない!?
密かに女の子にモテてたんだな俺って!

って喜んでみても、半分は男からの指名なんだよな〜。
ちゃんとあの三人も退部仲間に声掛けて大勢できて俺と写真撮ったし、
野郎の友達は面白がって俺と皆写真を撮ってった。

あんな美女に仕上がった風丸でさえ男女比は女の方が多かったのに。
男の割合が多いのは染岡とかお笑い要員ばっかだったってことは、結局俺もお笑い要員だったって事なのかな。
くっそー、俺って半分は女なのになぁ!
女装すれば普通に女に見えると思ってたのは自意識過剰だったのかも。


その日、大盛況の中密かに俺は女としてのプライドをボロボロにされた。
女装して鬼道の彼女宣言も実行する気にさえならなかった。
どうせ俺なんかが女装して彼女宣言してもファンの子達は「あの子なら余裕で奪える」って思われるのがオチだと思ったから。
それに忙しくって休憩を取る暇さえ無かったし。


言い訳にもならないけど、だから俺は気付かなかった。
普段だったら余裕で気付けるのに。

――鬼道の様子がおかしいってことに…。



 

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