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俺達が校門のところでチラシを配り始めると、途端に鬼道の周りは女の子でいっぱいになってしまう。
くっそー、本当に女装して彼女宣言しようかな。
俺の周りはというと、まあ特に人が集まってくる様子もなく。
俺から声を掛けてチラシを受け取ってもらうっていう極普通のチラシ配りを始めた。
女の子だらけの人だかりの周りで邪魔にならないようにチラシを配るって心が折れるのな。
しかもその輪の中心は俺の彼氏。
うん、俺、泣きそう。
だからさ、逆に声を掛けられた時はすっごい嬉しかった。
「半田ー!」
「うっわ、久しぶりー!」
振り向くとそこには見知った顔が三つ。
FFIのフィーバーん時にサッカー部に入部して、
久遠監督の赴任後、練習が急に厳しくなって速攻辞めた奴らだ。
「へー、半田メイド服似合うじゃん!
女の子みてー!」
「げー、半田が女にしか見えねー。
しかも結構可愛い」
「本当、これなら俺余裕でアリだね。
ストライクゾーン真ん中やや低めのスローカーブだな」
「って、それ微妙って事じゃん!」
肩組みながら言ってくる失礼な奴に、思わず笑いながらグーで軽く突っ込み返す。
「いやぁ、男でど真ん中ってのは逆にヤバいっしょ!」
「言えてんなー」
「んじゃ俺はやや高めのストレートかな?」
「おおー、甘い球じゃん」
「こんだけ女に見えたら、アリ、アリ」
今度は他の奴が肩を組んでくる。
「半田ちゃん、初めから君に決めてました!俺と付き合って?」
「げー、冗談!お前みたいな根性ねぇのはマジ有り得ないから!」
べーっと舌を出してソイツを押し返すと、途端に笑いが巻き起こる。
「ぶはっ、振られてやんの。かっこわりぃー」
「しかも古傷えぐられてんの。なっさけねぇー」
「ううっ、酷いよ半田ちゃん。それは言わない約束でしょ?」
泣き真似で抱きつこうとしてくる奴の頭をぼかりと殴る。
「本当の事じゃん。お前らさー、サッカー部来辛いかもしれないけど、メイド喫茶来いよな。
ちったぁ売り上げに貢献しろ!」
「半田!」
俺が腰に手を当てて説教モードになった途端、鬼道が鋭い声で俺を呼んだ。
ん?と思って振り返るとそこにはやっぱり鬼道が居て、厳しい顔をしている。
あー、やっぱりな。
鬼道はサッカーに対して真面目だからコイツらの事は面白く思ってないよな。
ちらりと三人を見ると案の定鬼道の登場にビビッて固まってる。
「半田、そろそろ戻ろう。
この調子だと混んで手が足りなくなってるかも知れないからな」
鬼道が三人を無視して俺に言ってくる。
うん、これは「敢えて無視」だろうな。
「お前、チラシは?」
「配り終わった」
だって俺に対してはさっきの厳しいオーラを微塵も感じさせないもんな。
俺の質問にも普通に答えるし。
「じゃー、戻るか。
なあ、お前らビビんないで来いよな!絶対だぞ!」
鬼道がそんな調子だから、俺は三人に取り成すように笑ってチラシを押し付ける。
「他にもお前らみたいの大勢居んだろ?
連れて皆で来いよな!歓迎するからさ」
そう念を押すように言うと三人はぎこちないながらも笑って頷く。
「さっ、行こうぜ」
三人がどうにか承諾したのを確認してから鬼道の方へと向き直る。
俺がそう言うと無言で鬼道が歩き出す。
「絶対だぞー!!」
少し歩いてから振り返って駄目押しで叫ぶと、鬼道が前を向いたまま俺に訊ねてくる。
「随分仲がいいんだな」
苦々しい口調につい笑ってしまう。
本当、コイツは出来の悪い奴に厳しいな。
「まあな。アイツらだって悪い奴じゃないしさ。
それに気持ちも分かるし」
鬼道は、ずっとエリートで何でも出来る奴だから理解出来ないだろうし、理解する必要も無いって思うけど。
でも俺は円堂達の活躍見て燃えた気持ちも分かるし、でも自分には無理だって諦めちゃう気持ちも分かる。
ここだけの話、俺だって何度自分の中途半端さにへこたれたか。
俺が苦笑してそう言うと、鬼道は俺の方を苦々しい顔で一瞥してすぐ前を向く。
「…そうか」
鬼道はそれだけを言うと黙ったまま足早に先を急いだ。
それっきりサッカー部の割り振られた教室に戻るまで俺とも一言も話さないまま厳しい顔で歩き続けた。
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