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「あのさ…、最近お前んち行けなくて悪かったな」

鬼道がそんな風に平然としているからか、俺は鬼道との距離感が分からない。

今、鬼道の服を掴んだらおかしい?
鬼道を見るのに頬を赤らめてたら変?
こんな風に恋人として謝るのはどうなんだ?


俺達が恋人として振舞えるのは鬼道の部屋だけで。
他の場所で恋人として俺が鬼道の隣に居るには女の格好をする必要があって。
でも今俺が居るのは学校だけど、女の格好をしている。
今鬼道と歩いている学校はどこもかしこも飾られていつもの学校とはまるで違う。

皆がいつもと違う顔をしている。
だったら俺も少しぐらい違う面を見せても平気?


鬼道は俺が前を向いたまま歩きながら言った言葉に、小さく笑う。

「なんだ、そんなこと気にしていたのか。
別にいい。お前が女子に混じって頑張っている姿が見れて楽しかった」

「そう?」

ほったらかしにしていた恋人が怒ってないと分かって俺もほっとして笑顔を返す。
でもどことなく嬉しそうに続けられた鬼道の言葉に俺は驚いてしまった。


「ああ、思っていた以上に違和感が無かったな。
マネージャーが5人になったみたいだった」

「・・・」

鬼道の言葉に思わず足が止まってしまう。
黙ってしまった俺に鬼道が問いかける。


「嫌か?」

短い問いには多分色々な想いが込められている。
俺は慌てて手を振る。

「ううん、嫌じゃない!
そうじゃなくって…、嫌じゃないのにちょっと吃驚した」

「…そうか」

俺の答えに鬼道がほぅっと小さく息を吐く。
鬼道も俺が込めた色んな想いに気付いたみたいだ。
小さくそう言うと、いつもみたいに俺の頭を撫でた。


その手が優しくて、こんな時だっていうのになんだか胸が締め付けられる。


だってさ、
俺が女の子に馴染むのは、鬼道を想う女の部分が俺の中にいっつもあるって事だろ?
多分少し前の俺だったら、そんな自分が怖いって思ってた。
このまま女みたいになったらどうしようって。
でも、さっきの俺は鬼道に言われた瞬間思わず笑いそうになってた。
「ばっかだなぁ!そんな当たり前の事で嬉しそうにすんなよな」って。

そう言おうとして、自分でも驚いた。


――いつの間にか女の俺も当たり前に受け入れてる自分に。


しかもさ、鬼道は俺が何にも言わなかったのに全部受け止めてくれた。
鬼道への想いで体も心も変わっていく俺を、優しい手でさ。


俺は撫でる鬼道にへへって笑ってみせる。
あーぁ、ここが学校じゃなかったらもっと嬉しいって気持ちがっつり伝えられんのになぁ。


「なあ!お前、ゴーグル外して帽子かなんかでドレッド隠したらお前だって気付かれないこと無いかなぁ」

「なんだ唐突に」

「一緒に文化祭見て回りたいなーって」

突然話が変わって訝しげな鬼道に、俺はもう一度へへって笑ってみせる。

「で、俺は鬘かなんか被って女の振りすんの!
そしたら俺達だってバレないで一緒に回れるじゃん」

いいアイディアだと思ったのに、鬼道は呆れたように俺を見てくる。


「俺が変装しても意味が無いだろう」

「そっか、内緒なのは俺の為だもんな。
んじゃ俺だけ変装すればいいじゃん。
んで学校中のお前のファンの子に彼女が居るとこ見せ付ける!
おお、グッドアイディア!」

我ながらいいアイディアが出たと、手を打って喜んでるってのに鬼道はまたも呆れたように溜息を吐く。


「既にこんなに大っぴらに女装してるんだ、普段よりバレる可能性は高いだろうな」

「もーっ!お前反対してばっかじゃん!
お前は俺と一緒に見て回れなくてもいいのかよ!?
同じ学校で最後の文化祭なんだぞ?」

反対ばっかの鬼道についにキレた俺に、鬼道がぽんと俺の頭に手を置く。


「男の格好で普通に一緒に回ればいいだろう。
同じ部活の仲なんだ別に不自然ではない」

もうっ、鬼道も分かってるようで分かってないんだよなぁ!
俺は頭に乗ってる鬼道の手を退かして、鬼道にイィーってしてみせる。


「それじゃ手、繋げないだろ!
今だって結構我慢してんの分かれよな!」

小声で言って、ぷいっと先に走り出す。
まったくデートするようになったの夏からだからかアイツまだこういうとこ鈍いんだよなぁ。


「後で沢山繋いでやる」

でも俺の機嫌が直るような一言は心得てる。
俺に追いつき並んで鬼道が囁く。


「会えなかった分も、我慢させてる分も後で存分に甘やかしてやる」


「今日頑張ったらな」

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