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俺はメイクが終わったら、そそくさとチラシを手に取る。
もうこれ以上この教室にいたら絶対バレる!
なんか俺が自分から変な失敗しそう!


「染岡!」

俺は道連れとしてピンクと白のやけにひらひらしたメイド服の染岡に声を掛ける。
うん、俺一人より絶対目立つ。

「一緒にチラシ配りにいこーぜ」

でも、俺が声を掛けた途端染岡はすっげー嫌そうに顔を顰める。

「ぜってー行かねぇ!この格好で外、出歩くとか死んでもやんねぇからな!」

マスカラ激盛りの目を尖らせて真っ赤になった口を歪めて染岡が不貞腐れる。
うーん、これ笑えるか?キモすぎて笑えないんですけど…。

「ゲテモノ要員なら二年連れてきゃいーじゃねーか!
おーい、栗松ぁ!」

不機嫌そうな染岡はがに股で椅子に座ったまま後ろを振り向き、巻き舌気味に怒鳴りつける。
なんか女装してるのにいつもよりガラが悪いのはなんでだ?

栗松を呼んだ染岡は後ろを振り返って、ぴくりと何かを思いついたように動きを止める。


「っと、なんだ鬼道が準備終わってんじゃん。
おーい、鬼道ー!お前半田手伝ってやれよー。
お前有名人なんだから宣伝してこいやー」

「ッ!!」

うっ、うわっ!染岡ってば急に何言い出すんだよ!?
急にそんな事言われると不自然になっちゃうから止めろよなっ!!

俺は思わず抱えていたチラシをぎゅっと握り締めてしまう。
俺の方は急に鬼道の名前を出されて動揺してるってのに、鬼道は全然動じないで平然としている。
サッカーボールを抱えている円堂と何か話していた鬼道は声を掛けられると、
そのままの表情のまま俺の方を向く。


「なんだチラシ配りに行くのか?」

うう、メイド服姿なのに全然普通だよぉ。

「そ、…なんだけどぉ、…一緒に行ってくれる?」

でも俺は全然駄目。
絶対ぎこちない。だって皆の前で鬼道と話すのなんて久しぶりなんだもん。
顔、赤くなってないといいんだけど。


「ああ。ほら半分持つ」

鬼道が俺に手を差し伸べながら近づいてくる。
ああもうっ!鬼道と二人きりならこんな事ぐらいじゃ緊張しないのに、
今の俺は鬼道と視線さえ合わせられない。

「…ん」

鬼道の方に差し出したチラシはどれも俺の持っていた部分がくしゃりと寄っている。
鬼道ならこのチラシを見ただけで俺の緊張に絶対気付く。


鬼道が俺の差し出したチラシを受け取る。
俺の手を皆にバレないように小指でなぞりながら。


「…ん、っ」

思わず変な声が出そうになって慌てて口を噤む。
でも、堪え切れない息がどうしたって漏れてしまう。
絶対顔も赤くなってる。
どうすんだよ、これ!?
染岡だけならまだしも円堂もこっち見てるし、他にも誰か見てるかも知れないのに。

俺が顔赤いまま鬼道を睨むと、鬼道はどこか俺をからかうような顔でニヤリと笑う。


「どうした?顔が赤いぞ。
慣れない女装に緊張してるのか?」

俺はさっきからいつバレやしないかってドギマギしてるってのに、鬼道のこの言い草。
…絶対俺で楽しんでる!
俺は鬼道の肩をばしっと叩いてから出口へ向かう。

「そーだよ!スカートも化粧も生まれて初めてだかんな!!」

後ろで鬼道がくすりと笑う。
そして大股歩きで教室を出ようとしている俺に駆け寄ってくる。


「そうだな女を装うのは初めてだったな。
…いつもは俺の為に可愛い女が着飾ってるだけだからな」

教室を出た途端、こんな風に囁いてくる鬼道の声はやっぱり俺をからかうようなものだった。
それなのに俺が睨むとすぐ、学校では絶対しない顔で俺を平然と見つめてくるから鬼道はずるい。


「今日の格好も似合ってる。
俺の為じゃないのが残念なぐらいに」

普段俺の事褒めたりなんかしない癖にこんな時だけ褒めたりとか。


「他の奴に見せるのが惜しいな。
このまま二人でどこかへ行ってしまうか」

いつもの俺を誘う顔でこんな本気か冗談か分からないような事言ったりとか。


「お前はどうしたい?
タコみたいに真っ赤になって膨れている半田は」

最後は絶対俺をからかう言葉を忘れなかったりとか!

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