6
野部流の迫力にすっかり抵抗する気力を奪われた染岡を尻目に、
秋葉名戸の二人は俺達そっちのけでどんどん「コンセプト」とやらを決めていく。
「風丸君はロッテンマイヤーさんでどうだ?」
「やや渋いが良いところを突くね。
凛とした部分を損なうことなく、有能で媚びないメイド長か…。
うん、それなら小道具にも懲りたいな」
「そこは仮沢の意見も聞かないとだろう」
「そうだな。
では風丸君は取り敢えず決定として次は円堂君だな」
「ふむ、ドジっ子…で、どうだろうか?」
「う〜ん、そうだな。
円堂君からサッカーを取ると熱血か天然かの二択だからな」
「ッ!ならいっそサッカーでいこう!
いつもサッカーボールを抱えているサッカーメイド!これは新機軸だ!!」
「いいっ!
注文を受けてもちゃんとした品物を届けないでサッカーボールを持ってくるんだな!
ドジっ子の側面もちゃんとあって円堂君にぴったりだ!!」
「よしっ、調子が出てきたな。ドンドンいこう!」
こんな感じで二人で盛り上がってドンドンと決めていく。
俺達はメイドに対してなんの思い入れも無いし、二人の会話についてもいけないから終始ぽかーんだ。
自分達の事なのに口を挟む事さえ出来ない。
勝手に決まったのによると、
風丸がメイド長で円堂はサッカーメイド、
豪炎寺は無口デレ(基本無口で時折デレ発言しなきゃいけないんだって)、
鬼道は高慢ツンデレ、マックスは気まぐれにゃんこ、影野はオドオド系で仲良くなると素顔見せイベントを発生させなきゃいけなくて、少林は萌え袖のショタ系、虎丸はナマイキ後輩系
ってことらしい。
なんだかんだで結構そのままだよな。
俺はどんどん決まっていくコンセプトを聞きながら、秋葉名戸のヤツらが予想を遥かに超えた無茶な要求をしてこない事にほっとしていた。
でも最後に俺の番になった時、それまでとは違って二人はテンションをがくんと急激に落とした。
「うーん、君かぁ…」
そう言ったっきり野部流が腕を組んで黙り込む。
「もう円堂君と被るがドジっ子メイドでいいんじゃないか?」
漫画萌がやる気無さそうに俺を一瞥して言う。
なんだよ、「もう」とか「でいい」とか。
俺メイドなんてやる気無かったけど、ここまで急にやる気無くされるとちょっと悲しくなってくる。
「う〜ん、サッカードジっ子にただのドジっ子をぶつけても惨敗は目に見えてるからな。
そうだ、妹キャラでどうだろう?まだ定番の妹キャラは居なかったよな」
野部流が厳しい顔のまま言う。
居ないから仕方無くって感じがぷんぷんする発言なのがまた悲しい。
「それだって虎丸君の後輩キャラと被るだろう。
三年の年増がピチピチの虎丸君に勝てるとは到底思えないね」
年増で悪かったなっ。
お前らだって同じ三年じゃないかっ。
ここまで来ると流石に凹む。
全然メイドなんかやりたくないってのに、なんだって俺がこんな気持ちになんなきゃいけないんだよぉ。
俺がこっそりと自分のキャラの無さに落ち込んでいると、厳しい顔して黙りこくって悩んでいた二人が俺の方を一緒に見てくる。
「あー…、うん普通で」
「そうだな。普通しか無い」
そして俺の肩に手を置いて野部流が言う。
「半田君、君も女装するだけでいいや。
ただ、何もしないからと言って君はお笑い要員にもなれないんだから、接客には気を使うこと」
「そうそうキャラの薄い君は雑用を頑張るしか出来ないんだよ?
せいぜい励みたまえ」
二人掛りでそんな悲しい現実を俺に諭してくる。
・・・なにこれ、酷くない?
俺、メイドになるのにこんな扱いなのかよ。
皆と違って半分は女なのに、頑張って接客しなきゃ存在価値さえないって酷いだろおお。
しかもマックスは面白がってからかってくる。
「良かったねー、キャラ設定が無いから簡単で。頑張ってね、雑用係君」
うっせ。
もう完璧にやる気無くなったぞ、俺は!
俺がふてくされていると、忙しそうに採寸をしていた仮沢が俺達に向かって叫ぶ。
「人数が多いんで、普通サイズの人達は全員同じサイズで作っちゃいます。
そこにある見本、合わない人だけ採寸するんで試着して下さい!」
その内容にマックスがまた可笑しそうにニヤって笑う。
「普通サイズって半田サイズってことデショ?
半田なら試着しなくてもオッケーに決まってるよね」
くっそぉ〜、折角採寸しなくて済みそうでラッキーって思ってたのに、
マックスのこの一言で台無しだ。
その日、心配してたような俺の秘密がバレる出来事は全然無かった。
でも、その代わり俺のアイデンティティーはぼろっぼろだ。
「もー、怒った!
俺、絶対人気ナンバーワンメイドになってやる!!
そんでお前らを見返してやるんだからなっ!!」
完璧逆ギレもいいとこだ。
俺は完璧に頭に血が昇ってしまってて、自分がどれだけ馬鹿な事を言ってるか分かってない。
しかもマックスは俺が怒ってもお構いなしだし。
「ぷーっ、半田が怒ったぁ〜。
普通メイドでせいぜい頑張ればぁ〜」
この一言で冷静になる機会を失った俺は、鬼道が厭きれて小さく溜息を吐いたのにも全然気付いていなかった。
そうして俺は変に燃えたまま文化祭当日まで突っ走ったのだった。
▼