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ほらね、やっぱりこうなるんだよ。
っていうか展開早過ぎだろっ!?
今、俺達の前には沢山のメイド服が小さな山になっている。
そして何人かの秋葉名戸の生徒がメジャー片手に走り回っている。
仮沢ってヤツはいそいそと風丸に色んな色や素材の生地を当てている。
まん丸ほっぺがピンク色になってて、こんな時じゃなければ癒されてたかもしんない。
でも、今、俺の心はドッキドキだ。
今日は緊急集合した次の日。
そう!昨日の今日だぞ!?
それでもう採寸が始まっちゃってるんだぞ!?
早い!早すぎる!!
今日ぽよんぽよんとサッカー部を引退して更にぽよ感を増した仮沢が部室に息せき切って入ってきた時にはもう嫌な予感がしていた。
だってさ、入ってきて早々目をうるうるさせて円堂の手なんか握ったんだぜ!?
「ありがとう!ありがとう、円堂君!!
卑怯な手段を取らざるを得なかった僕達を許してくれるなんて、君はなんていい人なんだ!」
それから円堂の手を握ったまま、皆を見渡した。
「僕達はこの文化祭に賭けているんです!
絶対にこの文化祭を成功させて、我がサッカー部の部室取り上げなどさせないっ!!
それには君達の協力が不可欠なんです!!
僕達に任せて頂ければ、君達一人一人を立派なメイドに仕立てあげてみせます!!」
猫耳カチューシャの仮沢がにゃんこハンドをぐっと握り締めてぷよよんと宣言する。
あー、もう。これは決定的かも。
案の定「サッカー部」って言葉に反応した円堂が仮沢の手を握り返す。
「なんだよ部室取り上げって?
もしかしてお前達困ってるのか?」
「そうなんです!!
なんの実績もないサッカー部があんな広い部室を自由に使っているのはズルいとの異議申し立てがありまして。
文化祭でちゃんとした実績を見せる約束で猶予を貰っている状態なんです。
だから、今回は僕達も本気です。
本気で獲りにいきます!!」
仮沢がぽにょぽにょと体を揺すりながら秋葉名戸の置かれている状況を説明をする。
なんだよそれぇ!実績ならちゃんとサッカーで残せよ。
サッカー部なのにメイド服で実績になるのかよ!?
俺なんかもう内心ツッコミまくりなのに、円堂はもう完璧やる気になっている。
「よし!そういう事なら分かった!!
俺達も文化祭成功させたいし、ここは協力してすっげーヤツをやってやろうぜ!!」
そう円堂が叫んだ瞬間、どこに隠れていたのか秋葉名戸のヤツらが一気に部室になだれ込んでくる。
「そうと決まれば早速採寸しちゃいましょう!練習のある一、二年から先に測っちゃいますね〜」
なんて言いながらうきうきと仮沢が採寸を始める一方、
秋葉名戸のキャプテンだった野部流来人と漫画萌が円堂に握手を求めてきたりと一気に騒がしくなる。
「円堂君!
これから各々のコンセプトを我々が決めていくので、君達はそれに沿ったメイドを心掛けて欲しい」
「こんせぷと?」
「そう!キャラが立っていない事には話しにならないのだよ、何事も。
なーに、心配する事はない。
素のキャラを活かしたコンセプトにするから安心してくれたまえ!」
野部流はそう言うと何故かふてぶてしく笑って俺達をどんどん名指ししてくる。
「えーっと、そうだな…。染岡君に壁山君、栗松君、それに宍戸君だっけ?
君達は女装する事に意味がある。
居るだけで充分だから、そのままで大丈夫!」
「何が大丈夫だっ!そりゃただのお笑い要員じゃねーかっ!!」
「そうとも言う」
染岡のツッコミというより怒号に近い声にも野部流は平然としている。
それごころか丸眼鏡をくいっと押し上げて得意げに言い放つ。
「別名引き立て役」
「うっせーっ!!
そんなの絶対やんねーぞっ!!」
あーぁ、染岡ってば顔真っ赤にして怒ってる。
あんな事言われちゃ、怒るのも無理ないけど。
「染岡君。
君は自分の幸運を分かっていないようだね」
でも野部流は眼鏡のフレームを人差し指で押さえたまま物々しい雰囲気を醸し出す。
「いいかい、見たまえ君のチームメイトを。
女装の似合う人間が沢山居る。
だからこそ君達はただ女装するだけでお笑い要員になれる」
「だからどうした?」
重々しく一旦言葉を切った野部流を染岡が尖った声で促す。
「…去年僕達も女装メイド喫茶をやったんだ」
ぼそりと呟かれた衝撃の告白。
野部流は昨年のショックを思い出したのか、身振り手振りを交えてその時の事を語りだす。
「そうだよ!綺麗処の居ないメイド喫茶なんてただのゲテモノ喫茶さ!!
しかも化け物しか居ないから各々が何かしらの特徴を出さないと笑ってさえくれない!!
トークで盛り上げるしかない!!
染岡君!君にそれが出来るかいっ!?」
涙ながらに野部流が訴えると、そこかしこで秋葉名戸の生徒達がうんうんって頷いている。
そうか…。アイツらも女装したのか。
うん…、想像するだけで辛いな。
というかそもそもなんでそんな出し物選んだんだよ?
しかも懲りずに今年もメイド絡みの出し物にすんなよ。
どんだけメイド好きなんだよ。
俺はすっかり言いくるめられている染岡を見ながら、秋葉名戸の奴らの熱いメイド魂にげんなりしていた。
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