2



「なあ鬼道、いい加減機嫌直せば?」

俺は隣でずっと厳しい顔で勉強している鬼道に呆れ声で声を掛ける。


俺達の関係は相変わらずで、学校ではただの部活の仲間ですよって顔して放課後になると恋人同士になる。
でも、最近の俺達は鬼道の家で受験勉強っていう結構健全なお付き合いが中心だ。
鬼道はまた高校から帝国に入学するつもりで、受験勉強に忙しいからだ。
少しでも一緒に居たい俺はこうして一緒に受験勉強してるって訳。
だってさ、当然俺に帝国に入学できるような頭は無いから、高校は絶対別になっちゃうだろ?
一度冗談めかして一緒に帝国行きたいなぁって言ったら反対されたし。
理由は「帝国は男子校だから」だって。
意味分かんないよな。

だからさ、この一緒の時間はすっごい貴重なんだ。
それなのにいつまでもこんな仏頂面のままだと面白くない。
どうせ考えている事は昼間のアレに決まってる。
へへへ、俺達ももう一年近く付き合ってるから、
鬼道がゴーグルしたままでも何考えてるのか大分分かるようになったんだぜ!


「どうせ部の皆は音無のメイド服姿、既に一回見てるんだからいいじゃん」

「それがそもそもおかしい!」

ほらね、やっぱり。

俺の言葉にいきなりシャーペンを机に叩き付けた鬼道に、俺は予想が当たったなって内心得意げになってしまう。


「何故秋葉明戸には『マネージャーはメイド服着用』なんていう頭のおかしいルールがあるんだ!?
全国中学サッカー連盟からの認可はちゃんとあるのか!?」

「さあ?よく分かんないけど、音無のメイド服姿は結構可愛かったぞ。
今回もノリノリだし」

円堂の決定の号令の後、音無と木野は文化祭っていう一大イベントに可愛いコスプレが出来て嬉しいって喜んでいた。
困惑していた久遠も、嫌そうにしていた雷門も円堂の
「なあお前達も一緒に頑張ろうぜ!
部の道具を新品にする為にはお前達の頑張りが絶対必要なんだ!」
って肩に手を置かれて頼まれたら嫌とは言えなくなっていたし。
あれってさ、多分円堂の事が好きだからだろ?
円堂はあれ気づいてるのかな?気づいてるといいな。


なんだか最近『恋する乙女』の気持ちってヤツがすごく良く分かるんだ。
今まであんまりグッとこなかったラブソングに泣けちゃうし。
顔の区別が付かなかった少女マンガものめり込んで読めちゃうし。
もう断然『恋する乙女』の味方だ。


まだぶつぶつと苦虫を噛み殺したような顔で秋葉や目金の文句を言ってる鬼道が「可愛い」って思えちゃうし、
いつまでも俺をほったらかしで俺以外の事ばっかり考えてる鬼道が「ムカつく」って思えるぐらいには俺も『恋する乙女』だからな!


「もう決まったんだし仕方ないじゃん。
それに皆が見てるのにお前が見てないってのも気にならないか?」

「それとこれとは別の話だ!
だからと言って全校生徒にそんな恥知らずな格好を晒す理由にはならん!」

・・・むー、俺が慰めてるってのにまだ気に食わない訳!?

鬼道の言い草に少しだけムッとした俺は、勉強道具を放って鬼道に向かい合うように跨る。

もう決めた!
今日はもう勉強しないし、させない。
鬼道だって勉強に集中してないんだし、俺だって勝手にしてやる!

だって、俺達が一緒に居られる時間はあと少ししかないんだぞ!?


「恥知らずな格好って、お前メイド服の事そんな風に思ってるんだ。
もしかしてメイド服姿に興奮する?」

鬼道と至近距離で向かい合い、挑発するように訊ねる。

あ、鬼道の顔が急にスイッチ入ったみたいに変わった。
俺と同じような挑発している顔になる。


――俺と同じ「俺の事が欲しい?」って挑発している顔。


「そうだなお前がもしそんな格好をしていたら、すぐ剥ぎ取ってお仕置きするぐらいには興奮するかもな」

ニヤリと笑うその顔を見ただけで、ぞくぞくって甘い痺れが背筋を走っていく。
もうこの後されるだろう事を勝手に期待してしまう。


「じゃあ文化祭終わったらメイド服借りる?
俺とメイドごっこしようか。ご主人様?」

そう言って俺も笑えば、もう鬼道は俺の事しか見ない。
俺の事しか考えない。
そして俺も鬼道と一緒。
お互いの事しかない、二人だけの時間が始まる。



・・・・・・この時の俺にとって文化祭の出し物はただの学校のイベントでしか無かった。
あくまで他人がメインの。

まさかここから事態が急変するなんて思ってもいなかったから。
あんな風に自分に被害を蒙ることになるとは夢にも思っていなかった…。

prev next





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -