3



着替えが済んで、気まずい思いでシャワールームから出てきた俺に、豪炎寺が何も言わずにホットココアの缶を差し出す。
さっき一緒に買ってきたであろうソレは、一口飲むとまだ温かくて、
豪炎寺が急いで戻ってきてくれたことを俺に教えてくれた。

それがとっても嬉しくて、俺はずっと我慢していた涙がついに零れてしまう。


「…俺さ、どっちもあるんだ」


豪炎寺には知っていて貰いたい。
そう思ったから、今まで誰にも言ってなかった秘密だったのに自然とそう言葉にしていた。


「今まで俺は男でしかなくて、人よりちょっと飾りが多いだけだって思ってた。
・・・でも、違った。
ちゃんと女の部分も俺の中にあって、ただ眠ってただけだった」


突然語りだした俺に、豪炎寺は何も言わずただ黙って俺を見つめている。
静かに俺の言葉を待ってくれてる。
だから豪炎寺がどう思ってるかは気にならなかった。
ただ、俺の心の弱った部分がどんどんどんどん溢れてくる。


「俺、男じゃなかった。
男だと思っていたのに、男じゃなかった……っ!」


それは疑いようもない事実で、言葉にしてしまうと自分の顔面にその事実が突きつけられてるみたいだった。
でもそんな事、簡単になんか受け止められない。
それなのに、下着の違和感も下腹部の鈍い痛みも無視するには大きすぎる。
俺はどうやって受け止めていいか分からなくて、豪炎寺を見つめた。


「怖いよ、豪炎寺。
…俺、俺は何なの?
男じゃなくて、だからといっていきなり女にもなれなくて。
俺は一体何になればいいんだ?」


もう俺は、涙を抑えられない。

泣きじゃくる俺を全てのものから隠す様に豪炎寺が抱きしめてくれるから、俺は全てを忘れて泣き続けた。


やっと涙が枯れ果てた頃、俺を抱きしめたまま豪炎寺が静かに口を開く。


「何も変わりはしない」

「え?」

俺が驚いて顔を上げると、豪炎寺が体を離して少し笑う。

「お前が男であることを望むなら、それでいいじゃないか。
この世には、色々な人間がいる。
生理のある男がいたっていいじゃないか」

豪炎寺の無茶苦茶な言葉にあんなに泣いていたのに思わず噴出す。


「お前それ、言ってることに無理があるぞ」

苦笑した俺に、豪炎寺は表情一つ変えずに俺を見つめ返した。


「そうか?
俺はお前がそう望むなら、それでいいと思ったんだ」


……豪炎寺は不思議だ。

なんでこんなに言葉に力があるんだろう。
試合の時だってコイツが勝てるって言えば本当に勝てるし、いつだってコイツがなんとかしてくれた。
今の無茶苦茶な言葉だって、コイツが言うと本当にそうだって思えてくる。

……笑っちゃうくらい変な言葉なのに、もう俺は豪炎寺の言葉を信じたくなっている。


「俺は男」

俺は自分で確かめる様に呟く。


「ああ。そうだな」

豪炎寺がすぐさま当たり前だと言わんばかりに相槌を打つ。


それだけのことなのに、心が簡単に軽くなる。
俺は顔に残る涙を拭いて豪炎寺に笑いかけた。


「でもさ、お前なんであんなに生理用品に詳しいんだよ?
詳しすぎるだろ」

俺が豪炎寺の前で泣いてしまった気恥ずかしさを誤魔化すように茶化すと、初めて豪炎寺が困ったような顔をした。
そのせいで、今日豪炎寺が俺に嫌な顔一つずっと付き添ってくれた事に気づいて、またちょっと泣きそうになったのは内緒だ。


「妹がいつなっても慌てないように勉強したんだ。
うちには母親がいないからな」

「なんだよ、俺は夕香ちゃんと同レベルかよ」

「仕方ないだろ。
男なら当たり前だ」

俺はまた溢れそうになった涙を豪炎寺にバレないようにわざとふざけて言った。
豪炎寺も何も気づかない風に、少し笑った。


変わらない態度。
変わらない、男扱い。

豪炎寺と今まで通りチームメイトとして笑い合えたのが、俺にはすごく有難かった。
変わらずに俺を男として接してくれる豪炎寺が、このときはただ、ただ嬉しかった。


 

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