真ん中V1
「メイド喫茶しか無いでしょう!!」
「却下」
眼鏡を煌かしての目金の発言は、瞬時に鬼道によって斬って捨てられた。
今、俺達は文化祭でのサッカー部の出し物の話し合いの真っ最中だ。
三年最後のFFを連覇で飾った俺達は、引退後久しぶりに部室で集まっての話し合いだ。
たったの一月でも俺達の私物の無くなった部室は、なんだか他人の部屋にお邪魔したみたいな居心地の悪さがあったのに、
今目の前で繰り広げられている御馴染みの光景の前ではそんな感慨なんてどっかに吹き飛んでいった。
「なっ!鬼道君、話も聞かずにその態度は無いんじゃないですか!?」
「それだけ問題外ということだ」
ヒステリックに叫ぶ目金を鬼道は意にも介せず言い捨てる。
それを取り成すように鬼道の肩を叩く円堂の姿まで、いつもの定番のやり取りだ。
「まあ、いいじゃないか鬼道!
目金もこう言ってるんだし聞くだけ聞こうぜ。なっ!」
「円堂君…っ!」
ニカっと笑って鬼道の肩を組むと目金に向かって話すように促してくる。
なんかさ、こういうところ円堂には敵わないな〜って思っちゃうよな。
鬼道だって面白くなさそうに眉を寄せてるくせにちゃんと目金の話を聞く気になってるし。
目金なんて嬉しそうにホワイトボードの前に出て行っちゃってるし。
「いいですか、皆さん!
我がサッカー部には雷門中が誇る美少女がなんと4人も居るんですよ!
これを活かさない手はないでしょう!!」
ばーんとホワイトボードを目金が叩く。
う〜ん、イキナリ熱くなってるな。
「学園の代表にして、まさに高嶺の花!雷門夏未嬢!」
「あら」
目金の熱の篭った紹介に雷門が満更でも無さそうな声で応える。
「家事裁縫はお手の物、中学からの知り合いなのに気分はすっかり幼馴染!木野秋嬢!」
「えへ、そうかな?」
雷門に比べるとあまり褒めてるように聞こえないのに木野が照れたようにはにかむ。
「美少女なのに気取ったところのない妹キャラ、お兄ちゃんと呼ばれたい野郎多数!音無春奈嬢!」
「うわぁ!そんな風に言ってもらえるなんて感激です」
音無が手を打って喜んでいる。
本物のお兄ちゃんは更に眉間の皺が深くなったけどね。
「そして転校早々赤丸急上昇、儚げな様子が男心を擽りまくり!久遠冬花嬢!」
「わ、私なんてそんな…」
久遠でさえほんのり顔を赤くして手を左右に振っている。
「いいですか!ツンデレお嬢様に癒し系幼馴染、どじっ娘眼鏡に病弱(?)色白のメイドが揃うんですよ!
大人気間違い無しですよ!!」
目金がホワイトボードにツンデレ〜等々と書きながら力説する。
そして小さく「エロゲもびっくり!」と書いたのを隠すようにその前に立って振り返る。
うん、折角褒めちぎったのにそれを女の子達に見られたら台無しだよな。
「しかもです!
僕には秋葉明戸と太いパイプがありますからね!
衣装はあそこから借りられるので準備しなくていいんですよ!!
どーです!?僕の素晴らしいアイディアは?
これなら文化祭でも大盛況間違いなし!
がっぽがっぽ稼いで、新しいゴールネットと新しいボールが買えますよ!」
目金がまたもホワイトボードに「穴の無いゴールネット」「黒く焦げていないボール」と書いていく。
ちらりと部室の片隅を見ると、俺達が在籍していた頃と変わらず、
籠の中のボールは半分以上が白黒のツートンカラーではなく黒一色だ。
この分じゃゴールネットも変わらず、ビニール紐の継ぎはぎだらけだろうな。
「どうです皆さん!ここは可愛い後輩の為、僕達が最後の文化祭を盛り上げて新しい道具を買い揃えてあげようじゃないですか!!」
「・・・って、どう考えたって頑張るのはマネージャーだけどね」
目金の力説に俺の前に座っていたマックスが小さい声で突っ込むが、もう大勢は決まっていた。
だって部の備品を駄目にした張本人達が居る俺達三年は、そんな風に言われてしまったら立ち上がるしかない。
案の定目金の力説に心動かされた円堂が口を開く。
「よーし!サッカー部はメイド喫茶で頑張って新しいゴールネットを買うぞ!!」
「おう!」
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