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昨日、エッチはおろかキスさえしなかった染岡は、それらをすっ飛ばして俺の親に挨拶に来た。
俺とつき合わせて下さいと頭を下げる染岡に正直母親は困惑してた。
俺がこれからは女として生活したいと言うと泣きそうなぐらいおろおろしだした。
結局色々話し合って、中学卒業までは男のままでいることになった。
学校にも相談する必要もあるし、何より俺達の熱が冷めると判断したんだろう。
でもそれでも、俺達が付き合うことを認めてくれた。
それだけで今は充分だった。


今朝も約束なんてしてなかったのに俺を家まで迎えに来てくれた染岡と、一緒に朝錬へ向かう。
いつもと同じように隣に並んで歩いているだけなのに、すごく照れくさい。
部室のドアを二人一緒に開けようとして、目が合う。
そっか、そうだよな。
染岡の目を見て納得した俺は、
大人しく染岡が開けてくれるのを待つ。
部室の中に入ると、すぐさまメモ帳を構えた音無に捕まる。

「あのですね、今お二人にとある噂があるんですが、本当のところをお聞きかせ貰えませんか!?」

「もう噂になってんのかよ!?」
いくら音無が情報通とはいえ、昨日の今日でもうこれだ。
昨日のうちに染岡に気持ち伝えておいて本当に良かった。

「もう有名ですよ!
私が見たところ事実無根だと思うんですが、本当のところはどうなんでしょうか?
ご本人のコメントを是非お願いします!」
俺はちらりと染岡を見上げる。
染岡は口をへの字にして小さく頷く。

「あのさ、俺達、その〜…」
俺が恥ずかしくって顔を赤くしてモジモジしていると、染岡が俺の肩に手を置く。

「本当だ」

「竜吾!」

染岡の短い返事と、普段苗字で呼んでいる俺が下の名前で呼んだことで、一気に音無が色めきたつ。
部室にいた皆の視線が一斉に俺達に集まる。
俺は恥ずかしくって死にそうになっているのに、照れ屋な染岡は全然赤くもならずに厳しい顔で一点をまっすぐ睨むように見てる。
不思議に思って視線の先を追うと、そこには鬼道の姿があった。
俺は途端に不安になって染岡の服の裾をきゅっと掴む。

「本当って、お二人がホモだって噂ですよ!?
本当に本当なんですか?」

「ホモじゃねぇ。
でも、コイツと付き合ってるのは本当だ」
音無の質問に、鬼道を睨みながら染岡が答える。
その途端、一気に皆から嬌声が上がる。
でも、俺は染岡と鬼道の睨みあいに気が気じゃない。
二人は暫く睨みあった後、鬼道が何も言わずに部室を出て行く。
俺とすれ違う時、ちらりと俺の方を見たのがどうしても気になって、俺は質問攻めにあっている染岡を見上げる。
俺が何をしたいのかその一瞬で汲み取ってくれた染岡がまた小さく頷く。
俺はそれに後押しされ、鬼道の後を追って部室を出た。


「鬼道」
すぐ追いついた俺が声を掛けると、不機嫌そうな顔で振り向く。

「脈の無さそうな豪炎寺から染岡に乗り換えたのか」
久しぶりの皮肉も、今では懐かしささえ感じる。

「そんなんじゃ無いよ。
違うって言ったのにそれを認めなかったのはお前だろ」
俺が落ち着いた声で言うと、鬼道はさらに面白くなさそうな顔で俺から顔を逸らす。

「染岡は俺が辛かった時、いつも一緒にいてくれた。
俺がお前のこと忘れるのずっと待っててくれた。
お前のこと好きだったけど、今では染岡が世界で一番大切なんだ」

「え!?」
俺がそう言うと驚いた顔で鬼道が俺の方を見る。

「もうこれでお前を避けることも止める。
これからはチームメイトとして普通に接する。
だから宜しくな」

もう俺は、染岡が隣にいなくても一人でちゃんと鬼道と向き合える。
隣にいなくても心がちゃんと繋がっているから。
ちゃんと最後のけじめをつけた俺は、くるりと鬼道に背を向ける。

「おい!」
鬼道の呼び止めに一度だけ振り返る。

「バイバイ、鬼道」
鬼道に向かって笑うことさえできた。
もう鬼道は完全に過去になった。


部室に走って戻ると、部室の前で染岡が待っていた。

「けじめ、つけて来たんだろ?」
そう言う染岡の腕をきゅっと掴む。
やっぱりちゃんと分かってくれてたんだ。
嬉しくて、二人きりになりたくて部室の裏側へ腕を引っ張って連れて行く。

「ありがと、分かってくれて」
腕を掴んだまま向かいあって見上げると、染岡は照れたように少し笑う。

「俺は絶対お前をあんな風に泣かせねぇから」

「…染岡」
俺達は手を握り合い、見つめあう。
こんな時、すっごくキスしてほしいのに、染岡は照れたように口をへの字にしてるだけ。

「竜吾、ちょっと」
俺は手招きして内緒話するように口の横に手を添える。

「ん?」
少ししゃがんで俺の口に耳を寄せてきた染岡の首に手を廻す。

「ずっと一緒にいような」
そう言ってからすっと顔を前に移動させる。


俺達の初めてのキスは俺からだった。
昨日いつまでだって待つつもりだった俺はたった一日でその決意を翻した。
だってこんなに可愛い染岡が悪い。
俺は女になったて男の気持ちはなくならないんだから、受身なだけじゃいられない。
これからだってどんどん自分から誘おう。
男でも女になっても染岡が好きって気持ちは決して揺るがないんだから。



 END

 

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