5



いつもの帰り道、今日学校でいつもと違うことのあった俺は、
隣を歩く染岡の様子をちらりと伺う。

この頃では毎日俺のことを家まで送ってくれるのに、
染岡は、どんなに近くにいても、どんなに一緒にいても手さえ握ってくれない。
いつだって俺のことを女の子として扱ってくれるのに、
友達の範囲を決して超えてこない染岡は、俺のことをどう思っているかさっぱり分らない。
どんな気持ちで俺と一緒にいるんだろう。
チームメイト?親友?それとも…。
その答えはいくら染岡の顔を見ても、出てはくれなくて、
俺は今日あったことを中々言い出せずにいた。


俺が何も言えないうちに、俺の家の前まで来てしまう。
いつものように「じゃあな」の一言で帰ろうとする染岡の服を慌てて掴む。

「あ、あのさ、もうちょっと話さない?」
近頃じゃ俺からも染岡に触れることは珍しくなっていたから、
びっくりしたように染岡が振り返る。
振り返った顔が思ったより近い距離にあって、目が合った途端に二人して顔を逸らす。
恥ずかしくなって掴んでいた服も放す。

「すぐそこにちっちゃい公園があるからそこ行こ」
俯いたまま指差す。

「…ああ」
小さい声で承諾した染岡が俺の方を見ずに歩きだす。
俺はもう少し話したいって言った割りに、何も話せないまま公園まで無言で歩く。



公園についてベンチに座って思わず寒さで手をすり合わせた俺に、
染岡が自分のマフラーを無言で巻いてくれる。
俺はベンチの上で体育座りをして染岡のマフラーに顔を埋める。
染岡の匂いに包まれながら思う。

こんなこと男相手に絶対しない。
俺だったら、好きな女の子にしかしない。

でも染岡は?
女の子になら誰にでもする?
いくら付き合いが長いといっても、そんなの全然分らない。
女の子と二人でいる染岡なんて想像もできない。

俺はベンチの傍らで足元の土を蹴っている染岡をマフラーで顔を隠して見上げる。
染岡は口をへの字にして自分の足元を見ている。

「あのさ、今日俺学校でクラスの女子と喧嘩してさ」
しゃべりながら俺も染岡が蹴っている辺りの地面を見る。

「お前なぁ、他の奴にとってはお前はただの男なんだから女子と喧嘩なんてすんなよ。
女子を敵にまわすとおっかねぇぞ」
染岡の地面を蹴る足が止まる。
声の感じからこっちを見てるって分る。
でも俺は顔が上げられない。

「うん、分ってるって。
でも、その時はついカっとなってつい言っちゃったんだ」


あの時、きっかけはクラスの女子の些細なからかいの言葉だった。
「半田もさ、元がいいんだから染岡みたいのじゃなくて、
豪炎寺君とか鬼道君とかとつるめばいいのに。
そうすれば少しはイケてるオーラ出るんじゃない?」
そんな言葉についムっとした俺は
「はあ?染岡の良さが分らないんじゃ、お前女として終わってるぞ」
染岡の良さなんて俺だけが分っていればいいのについそう言い返してしまった。
あとは売り言葉に買い言葉で最後はクラスの注目を集める程、派手な喧嘩になってしまっていた。
そんな皆が見ている中で俺は喧嘩相手の女子がドン引きするぐらい染岡を褒めた。
たぶん変な噂になるぐらい。


「俺さ、皆の前でつい言っちゃったんだ。
…染岡は世界で一番カッコいいって」
顔が熱くて寒さなんてどっかに行ってしまう。

「はあっ!?」
染岡が吃驚した声を出すから、体育座りしている状態で顔を膝にくっつけて下を向く。
染岡の貸してくれたマフラーが俺の顔を隠してくれる。

「他にもいっぱい言った。
すっごい優しいし、頑張り屋だし、仲間思いだし、
背高いし、サッカー上手いし、あとあと、
…兎に角いっぱい言った」
本当はちんちん大きいとか
ゴツゴツした指がセクシーとか色々言っちゃったけど流石に言えやしない。


「だからゴメン!
もしかしたら明日から俺と変な噂になっちゃうかもしれない。
嫌な思いするかもしれない。
本っ当ゴメン!!」
俺は顔を隠したまま大きな声で謝る。


本当はこんな風に俺の気持ちを伝えたくなかった。
ちゃんと好きって言葉にしたかった。
でも、噂になってから染岡に歪曲した俺の気持ちが伝わるのだけは避けたかった。
ちゃんと直接謝りたかった。
だって明日から噂を恐れて避けられてしまうかもしれないから。


俺は何も言わない染岡の様子を恐る恐る伺う。
染岡は俯き、さっきみたいに地面の土を蹴っていて表情が分らない。

「なあ、さっきの話本当か?」
俯いたまま染岡が訊ねる。

「う、うん。
クラスの女子なんてドン引きしてたし、お前までホモって言われるかも。
迷惑かけて本当ごめん!」
今度はちゃんと染岡を見たまま謝る。

「そうじゃなくってよ。
その…、世界で一番ってヤツ」
暗いからよく分らなかったけど、口ごもってそう訊ねる染岡の耳は真っ赤になっていた。

「う、うん」
俺も再び顔に熱が集まってくる。

「…鬼道よりも、か?」
地面を蹴ったまま、顔を少し俺の方へ傾ける。
それは俺の少しの反応も見逃さない為に思えた。
そんな風に見なくったって、俺は反応なんてできやしない。
一切名前を出した覚えがないのに、何故か染岡の口から出た「鬼道」って言葉に、
俺はたちまち凍り付いてしまった。

prev next





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -