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明らかに混乱している染岡に、俺だって顔が赤くなる。

「だから全部話すなら泊まらないと無理なんだって」
染岡から顔を逸らし、小さな声で呟く。
俺は未だ混乱で日本語を話す機能が回復していない染岡に、
今まであった様々なことを話し出す。


生まれつきどっちもあったのに男として生きてきたこと、
生理が始まった時豪炎寺に助けてもらったこと、
生理の度に学校を休んでたせいで「アイツ」にふたなりだって気づかれたこと、
それから…。

それから後にあったことを言い澱んでいると、染岡の母親が夕飯だと呼びに来た。
それまで微動だにせず一言も発しなかった染岡が、それを合図にやっと動きだす。

「行こうぜ。
俺んち土日は親が酒盛りすっから夕飯早いんだよ」
促されて一階に下りて行くと、大皿料理がテーブル一杯にならんでいた。
染岡が急に俺を泊めると言っても、酒の入った染岡の家族は大歓迎で迎え入れてくれた。
沢山の食事を勧められ、俺が腹一杯になっても染岡家の夕食、というか酒宴は終わりそうになかった。

「いつまでも付き合ってらんねーぜ。
ほら戻るぞ」
染岡がそう言って席を立つ。
俺はその後に続きながら染岡の後姿に声をかける。

「お前んちの親って仲いいな」
ちらりと後ろを振り返れば、二人仲良く寄り添って笑い合ってるのが見える。

「そーかぁ?
いっつもあんな感じだぞ」
とんとんと階段を登りながら当たり前って感じで染岡が言う。

「それよりほら、さっきくすねてきたから二人で呑もうぜ」
振り向いた染岡はビールの缶を二本持っていた。


染岡の部屋で初めて口にしたビールは凄い苦くて、あまり美味しいものでは無かった。
ただ染岡が美味しそうにゴクゴク呑んでるから、俺も意地になってゴクリともう一口呷る。

「これで少しは話やすくなったんじゃねぇか?」
俺がビールを口にしたのを見て、染岡が口をへの字にして呟く。
さっきまで全然反応が無かったくせに、俺が言い出しにくかったのはすっかりバレていたらしい。
俺はもう一度ゴクリとちっとも美味しくないビールを呑んでからゆっくりと口を開く。


「アイツはさ、俺がどっちもあるって分ったら、
珍しいものが手に入ったって言って、何回も俺と…」
もう一口ビールを呑む。

「最初はさ、はっきり言って無理やりだよ。
男同士だしさ。
でも俺、自分で女のほうって触ったことも無くてさ。
最初すっげぇ痛い分、女の方が何倍も気持ち良くって、
だんだんアイツが体のどこに触れても、それだけで気持ち良くなるようになって抵抗すらできねぇの」
自嘲するように笑うと、またビールを呷る。
染岡も俺が言葉を切るとゴクゴクとビールを呑む。


「馬鹿だよなぁ。
アイツ最初から飽きるまでって言ってたんだぜ。
珍しいから飽きるまで付き合ってもらうって。
それなのに俺、アイツがだんだん優しくなってきて、
嫌いな相手でも気持ち良くなるのは男同士だからだとか言われて納得しちゃって、
自分からもアイツのこと誘うようになってた。
な、笑っちゃうぐらい馬鹿だろ?」
俺が染岡に笑いかけると、ビール缶を持つ手にポツンと水が落ちてくる。
思わず手の方を見ると、ぽたぽたと手が濡れる。
…ああ、俺また泣いてるのか。
俺はなんだか可笑しくなって笑い出す。


「なあなあ見てよ。
俺また泣いてるぅー。
あんなヤツと縁が切れて喜べばいいのに、なんでこんなに泣いちゃうんだろーなー?」
あっははって声を立てて笑うと、急に目の前が真っ暗になる。
少し遅れて気づく。
染岡に抱きしめられたって。


「無理に笑うな。
そんなお前は見ていたくねぇ」

無理して笑ってる訳じゃないんだけどな。
そんなことをぼんやり思いながら苦しくて身を捩ると、
床に染岡が飲んだビールの空き缶が転がっているのが見える。

「…ソイツのこと好きだったのか?」
抱きしめたまま染岡が訊いてくる。

「好きな訳ないじゃん。
あんな酷いヤツ好きになるかよ。
だって俺に酷いことばっかしたんだぜ?
…好きなんかじゃ、無い。
絶対違う!!」
俺は叫んで染岡の腕から逃れようとするけど、染岡の馬鹿力のせいで全然動けない。
じたばたと暴れても、少しも腕の力は緩まない。
俺は諦めてついに染岡の背に手を廻し、胸に顔を寄せる。


「俺、アイツのこと大っ嫌いだった。
でも、でも本当は、
アイツが少し笑って頭を撫でるのはちょっとだけ好きだったかも。
俺を抱くときだけ見える目も。
アイツの目ってさ、普段見えないから分かんないけど、結構表情豊かなんだぜ。
優しい目とか情熱的な目とか、見えたのはいつも一瞬だけど忘れられないよ。
忘れたくても忘れられないっ…!」


少しでも認めてしまえば、もう止められない。
もう終わったことなのに、鬼道への想いが溢れてくる。
失った後に初めて、自分の恋心気づいた俺は、
染岡の腕で改めて失恋の涙を流した。

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