〜染岡の場合〜1



「我慢、しなくていいからよ。
泣きたいだけ泣けよ」

染岡は俺から誘ったのに、
途中で泣き出してしまった俺と最後まですることは無かった。
聞いてやるから話してみろよと言って笑う染岡の優しさが嬉しくて、
抱き付いて泣き出してしまった俺を労るように背中を撫でる。
その怖々と触れられる、ゴツゴツした指が本当に染岡らしくて、
俺は染岡の胸に顔を埋めたまま辛い気持ちを吐き出す。

「アイツ、アイツ狡いよぉ。
こんなに、こんなにアイツ無しじゃいられない体にしといて、
俺のこと一方的に、い、要らないって簡単に言うなんて。
俺だけこんな風に引き摺って、俺だけ囚われたままで。
俺、俺辛いよぉ」
俺は染岡の胸をびっしょりにさせながら、嗚咽まじりに言う。

染岡は背中を撫でるだけで何も言わない、言ってもくれない。
相槌さえ打たない。
俺はつい鬼道への苛立ちと混同させて、染岡に声を荒げる。


「染岡、ちゃんと聞いてる!?」
俺が泣き顔のまま見上げると、染岡はすぐに横を向いてしまう。

「ああ、聞いてるよ。
その子が全部悪いんだろ?」
ほんのりと顔を赤く染め、口をへの字にして言う染岡の頬を俺はむぎゅっと抓る。

「聞いてないじゃん。
ちゃんと聞いてたら、アイツのこと『その子』なんて言うはずない。
ソイツとか、その馬鹿とか、その最低ヤローとか言うはずだ」

俺が抓ったせいか、それとも理不尽な怒りをぶつけたからか、
染岡は横を向いたまま仏頂面で俺を睨む。

「お前なぁ。
名前も、どんな子かさえも知らない子のことそんな風にいきなり言えって言われてもよぉ」
相手が誰か知らないはずなのに、俺より も相手を庇う態度をとる染岡に怒りが湧く。


「じゃあ、今日泊めて」

「はあ!?」
ぶすっと俺が言うと、染岡が慌てて俺の方を向く。


「アイツがどんなに酷い奴か、じっくり説明してやるから今日お前んち泊めてくれ」

「おまっ、俺、ひとっ言も説明してくれなんて言ってねぇだろ!?
それにお前、さっさと服を着ろ!
さっきから目の遣り場に困るんだよ!」
顔を真っ赤にして俺に服を押し付けてくる。
俺は服を膝の上に置き、膨れっ面で染岡を上目遣いで見る。


「…服着たら、泊めてくれる?」
暫く何も言わず睨み合う。

先に折れたのは染岡だった。
チッと大きな舌打ちをすると頭をガシガシ掻く。


「わぁーったよ。
泊めてやっから、さっさと服を着ろ」
そう言うと、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

「サンキュウ」
俺がもぞもぞと服を着て染岡に向き直ると、染岡はあからさまにほっとした顔をする。

「あーぁ、なんで彼女ができてたこと内緒にしてたお前の失恋話に、
泊りがけで付き合わなけりゃいけないんだよ。
やってらんねーよ」
そう言うとベッドにゴロンと寝転ぶ。

ん?彼女?
なんだか誤解があるみたいで、
俺はベッドの染岡を上から覗き込む。

「おい、俺彼女なんてできてないぞ?」

「はぁ!?」
吃驚して起き上がった染岡と頭がぶつかる。

「いって〜、気をつけろよ!」
俺はぶつかった所を押さえて蹲っているっていうのに、
染岡は痛がる素振りも見せずに俺の肩を掴む。

「じゃあ、さっきまで言ってた相手は何なんだよ?
『アイツ無しじゃいられない体』とかイヤラシイこと言いやがってよ。
俺に隠れてDT卒業しやがって。
自慢かっつーんだ」
半分怒ったように言う染岡に、俺はなんとなく相手が男だって言いそびれてしまう。
俺が言った鬼道の文句をそんな風に聞いてたのかと呆気に取られる。

「それによ、さっきも余裕っつーか、慣れてるっつーか。
『俺にまかせて気持ち良くなろ?』とか言いやがってよ。
お前は遊びなれた肉食女子かってぇの」
そこまで言われると流石に恥ずかしくなってくる。
俺は「遊びなれた」「女子」って言葉に思わず顔が赤くなる。

「それに俺のを躊躇無く舐めるしよ。
それがやけに上手いしよ・・・?
って、あれ?」
染岡は憤るように言っていたのが、どんどん小さく訝しげになる。
仕舞いには目を白黒させて口をぱくぱくさせている。
たぶん本当のところに気づいて言葉も無いんだろう。

「悪い、染岡。
俺もまだDT卒業できてないんだ。
ただ処女じゃないってだけでさ」
俺が真っ赤な顔で申し訳ない思いで小さくそういうと、
隣近所に聞こえるくらいの大きな声で染岡は「はあ!?」と叫んだ。
その大声は、あんなに恥ずかしいことは向こう三年ぐらい無いってくらい恥ずかしかった。

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