4



次の日、部活が始まる前に皆に集まってもらう。

直球しか通用しない豪炎寺に今の俺ができること。
それは、今以上に早い直球が投げられるようになることしかない。
中途半端は止めて、俺自身が豪炎寺に少しでも相応しい人間になること。

その第一歩をこれから踏み出す為に、俺は皆に大きく宣言する。


「皆、聞いてくれるか?
俺、今度のフットボールフロンティアが終わったら、女になる!」
大きく息を吸って、覚悟を決めてそう言う。
でも、俺の宣言は唐突すぎたのか、芳しい反応は全く無い。

「はあ!?」
訳が分からないって顔している皆の前でユニフォームを脱ぐ。
露わになる微かに膨らんだ胸に、遅れて少しずつ驚愕の声が上がる。

「俺、俺、男でも女でもある中途半端な人間だった。
男の格好して、男ですって顔して、好きな人には女として扱って欲しいなんて都合のいいこと考えてた。
それ今日で止める!
俺は好きな人に相応しい人間になりたいから女を選ぶ。
でも、サッカーも中途半端で止めたくないから次の大会まで女は捨てる。
次の大会の優勝を俺の男としての集大成にする!
俺、半分女だから体力とか伸び悩んでるけど、その分根性でカバーする!
皆には迷惑な話かもしれないけど、俺と一緒に全国優勝目指して欲しいんだ!!」

俺は胸をユニフォームで隠して一気に言う。
こんな風に自分の気持ちを言う機会なんて無かったから顔が熱い。
でも、これで皆に隠していることは何も無くなった。
想像もしていなかっただろう俺の言葉に、
呆気に取られた皆は誰も何も言わない。
そんな中、豪炎寺だけが静かに口を開く。


「お前がどうしようと俺はころころ態度を変えるつもりは無い」
豪炎寺が俺を睨むように言う。

冷たい口振りは、俺のことを今後ずっと女扱いするってことだと思う。

俺は嬉しくて口が緩む。
だって、ここで中途半端に優しくされると、俺は弱いから絶対決意が鈍る。
優しさに甘えてしまう。

「そうしてくれると助かる」
俺が嬉しそうにそう言うと、豪炎寺は何も言わずに部室を出て行ってしまう。
バタンとドアが閉まる音を合図に皆が話し出す。


「豪炎寺の言う通りだ!
半田が男だろうが女だろうが半田は半田だろ?
だったら仲間に変わりないだろ!
それに俺は最初から全国制覇目指してるぞ!!」
円堂が大きな声で言うと皆口々に同意してくれる。
それが嬉しくて、でも涙を見せたくなくて俺は大きな声で叫ぶ。

「目指せ!全国制覇!!」

「おう!!」


皆が俺とハイタッチして部室を出て行く。
そして最後に残ったのは、鬼道だった。


「思い切ったことをしたな」
鬼道が面白くなさそうに言う。

「アイツには正攻法しか通用しないから」
俺は苦笑を浮かべる。
たしかに少し前の俺だったら絶対やらなかったことだと思う。

「お前のお陰だな」
俺がそう言うと鬼道は嫌そうに眉を寄せる。

「お前があの時気づかせてくれたから、変われたんだよ」

「お前がああ言ってくれなかったら、
たぶん今でも自分を騙して、お前っていう楽な方に流されたままだった。
お前のこと憎んでた時もあったけど、今では感謝してる。
ありがとう鬼道」

俺は鬼道に向かって手を差し出す。
でも、鬼道は厳しい顔で俺の手を払いのける。

「お前に感謝される筋合いは無い。
…憎まれたままの方がまだましだった」
そっぽを向いてそんな憎まれ口を言う。
俺はそれでもチーム内の輪を大切にしたくて鬼道の肩を組む。


「そんなこと言うなよ。
これからはチームメイトとして一緒に頑張ろうな」
俺は鬼道を覗き込み笑いかける。
鬼道は何かを思案するようにそんな俺を見つめる。


「ふむ…頑張る、か…。
お前さっき優勝するまで女は捨てると言ったな。
決勝まで残れたとして、あと三ヶ月以上もあるな」
そう呟くと久しぶりに俺に向かって笑う。


「おい、これから俺が特別にお前の練習メニューを考えてやる。
三ヶ月間みっちり俺が付きっ切りで特訓してやるから覚悟しとけ。
…俺も柄じゃ無いが頑張ることに決めたからな」
にやりと笑い鬼道も俺の肩を組む。

「本当!?お前が付いててくれると助かるよ」
俺は鬼道の想いに気付かず強力な味方を得たことに浮かれる。


俺の豪炎寺への想いも、
豪炎寺の中の今はゼロな可能性も、
鬼道の思惑さえも、
三ヵ月後フットボールフロンティアが終わるまでお預け。
あとは死に物狂いで頑張るだけ。

だって、『男』半田真一の人生最後の大舞台だもんな。


 END

 

prev next





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -