〜豪炎寺の場合〜1



「なあなあ、今日も豪炎寺の家行っていい?」
土曜の部活が終わって、俺はいつものように豪炎寺に声をかける。
俺がこう言うと豪炎寺はいつも仕方ないって顔して少し笑って頷いてくれる。
でも、この日の豪炎寺は違った。

「…ああ」
豪炎寺は苦虫を噛み潰したような顔をして頷く。

あれ?いつもと反応が違う。
俺、何かしたかなぁ。

好きな人のこんな不機嫌そうな態度は、それだけで泣きそうな程不安にさせる。
この前帰り道でちょこっと手が触れたのが嫌だったのかな。
それとも、この前女の子に話し掛けられてる時に割り込んだのが気に障ったのかな。
俺の頭の中に次々俺がした行動が巡る。
考え事していると着替えるのも自然と遅くなる。

「半田」
着替えが済んで荷物を持った豪炎寺が俺の名前を呼ぶ。
いけない、ただでさえ不機嫌そうなのに、これ以上怒らせたくない。

「ゴメン、すぐ行く」
俺はこれ以上無いってくらい超スピードで着替えを済ませた。



あの日鬼道に豪炎寺の為に女になりたいのか訊かれ、途端に意識してしまった俺は今ではすっかり片思い街道驀進中だ。

でも、これが中々厳しい。
まず、豪炎寺は何を考えているのかさっぱり分からない。
俺が付き纏っても迷惑そうな顔一つしなければ、反対に嬉しそうな顔だってしてはくれない。
いつだって仕方無さそうに微笑むだけ。

それに豪炎寺はすごいモテる。
今までもモテてたけど、日本代表になってエースストライカーとして日本の大躍進の中心選手として活躍してからは、
日本中から女の子が豪炎寺目当てに詰め掛けてくるぐらいだ。
当の本人が興味無さそうにしているのが救いだけど、至る所に豪炎寺のこと好きっていう女の子がいるのは正直へこむ。

そして一番の問題は、豪炎寺が俺をいつまで経っても男扱いしていて、丸っきり眼中に無いってことだ。
初めて生理になった時、あんなに今までと変わらず男扱いしてくれたことが嬉しかったのに、
今ではそれが堪らなく苦しい。


でもとりあえず豪炎寺は俺が隣にいても、他の女の子みたいに拒絶することは無い。
俺はそれを半ば利用する形で、強引に豪炎寺に付き纏っているといってもいい。


最近では家にお邪魔することも度々だ。
夕香ちゃんとも、入院中以上に仲良くなった。
まさに将を射んと欲すればまず馬を射よって感じで、
豪炎寺の家に行くと夕香ちゃんと第一に遊んでしまう。
まあそんなのは後付けの理由で、豪炎寺と二人っきりだと緊張してしまうって言うのが、
主な理由だったりするんだけど。
今日だって先週お邪魔したときに夕香ちゃんと、
新しく買ったというローラーブレードの一週間の練習の成果を今日見せてもらうって約束を果たすいう建前で、
豪炎寺の家に行くことになっている。
俺にとっては夕香ちゃん様様だった。

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