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「あ〜、今日楽しかったなぁ」
鬼道の家に戻ってきて、女の格好のままいちゃいちゃして、
最終的にいつもの格好になった俺は枕に顔を埋めながら、横にいる鬼道に言う。

「そうか、なら良かった」
頭に鬼道の手の感触がする。

「絶対、また行こうな」

「ああ」
手が優しく頭を撫でる。


その時、ふっと心をよぎる。
もし、俺が女になることを選べば、
今日みたいにまた太陽の下でこの手を味わうことができるんだ…。

その思いは一瞬よぎっただけで、俺の心を占めてしまう。

鬼道が彼女だと円堂達に俺のことを紹介し、皆にからかわれながら楽しい時間を過ごす。
そんな今日選ぶことが出来なかった、もう一つの選択肢が頭に浮かぶ。


「なあ、もし、もしもだよ?
俺が女になりたいって言ったら、お前どうする?」
俺は枕を抱えたまま起き上がる。
体育座りで鬼道を見ると、少し驚いたように眉を上げる。

「俺から逃げ回っていた頃と比べると随分な違いだな」
茶化すような口調で、全然俺の言葉を真剣にとってないって分かる。

「真面目に!
本気って訳じゃないけど、でも、でもさ、
今日みたいなのがずっと続くっていいな〜って思ったらさ、ちょっとな。
…女も悪くない、かなって」
俺は枕で顔を半分以上隠して言う。

こんな鬼道が好きって主張しまくりな話なんて恥ずかし過ぎる。
でも鬼道はいつもの顔のまま。


「一度色々と熟考してみるのはいいかもしれんな。
病院で精密検査を受けることも勧める。
自分の体がどちらの要素が強いか知るのも、今後の判断に大きく役立つだろう。
一般的に体と心は関連性が大きいしな。
自分自身のことだ。
納得できるまで考えてみろ」

…そんな他人行儀なアドバイスが欲しかった訳じゃないんだけどな。

「お前はどう思う?俺が女になったら」
俺は鬼道の気持ちが知りたくて、もう一度訊ねる。

「俺がどう思うかなんて聞いてどうする。
俺の意見に惑うだけだぞ」
出来の悪い生徒を叱るみたいに言う。

「いいから!」
俺が縋るような目で見れば、溜め息をつく。

「今日のお前はいつもより女の方に偏り過ぎてる。
日を改めて考えてみた方がいい」

「そんなこと聞いて無い!」
鬼道の言葉についカッとなる。

ヒステリックな声を上げた俺を鬼道は眉を寄せて見詰める。


「では正直に言う。
自惚れを承知で言うが、俺の為に女になりたいなら俺は反対だ。
そんな一時の感情に任せて人生の一大事を決めるなんて、正気の沙汰とは思えん」

厳しい顔で俺の想いを拒絶する。
俺は自分でどんな顔して話しているか分からない程、感情的になっていた。


「なんで?なんで!?
すっごい嬉しくて、楽しかったことがずっと続けばいいって思うことが、馬鹿なことなのかよ?
この部屋だけじゃなく、いつでも、どこでもお前と恋人として一緒にいたいって思うことは悪いことなのかよ?
そういう風に思う俺はいつもと違って変なのかよ?
俺はそうは思わないし、そんなの分かりたくも無い!!」

俺が叫ぶようにそう言うと、鬼道はもう一度溜息をつく。
俺は鬼道がもう一度口を開くその前に、
その苦虫を噛み下したような顔に枕を投げつける。

「お前の冷静な意見はもう聞きたくない!
鬼道の馬鹿ぁ!!」
俺は急いでベッドの周りに散らばった服をかき集める。

「おい!」
鬼道が俺を引き留めるように肩に手を置く。
あんな拒絶をしといて、俺に今更何を言うっていうんだ。
俺はその手を振りほどく。

「帰る!
今の俺は変なんだろ?
帰って色々よーっく考えてみる。
お前とのことも含めてな!!」
服を抱えたまま着る間も惜しんで、すぐ部屋を出る。
ドアを閉める時、俺は鬼道を睨む。
鬼道は、辛いような悲しいような怒っているような、そんな感情の読めない顔をしていた。

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