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水の中で息が続かなくなるまで、キスをする。
ぷはっと顔を出せば、二人で笑い合う。

「お前、髪の毛濡らしていいのかよ?」

「お前こそ化粧してるから顔濡らさないようにって言われたんじゃないのか?」

お互いの濡れた顔に照れてしまう。
へへっと照れ笑いすると、頭をぐりぐり撫でられる。

「どうせ濡れちゃったし、もう一回、する?」

「いや、これ以上するとお前を連れて帰りたくなってしまうからな。
お前の為に折角プールに来たのにそれじゃ意味がなくなってしまう」

馬鹿なことを至極真面目な顔して言うから笑ってしまう。

「まだスライダー乗ってないし、今は我慢しよーっと。
お前んちに戻ったらどうせいっぱいするだろうし」
丁度俺がそう言って覗き込んだ時、背後から聞きなれた声がした。

「おーい、鬼道ーっ!!」

俺が思わず振り向こうとすると、鬼道が咄嗟に頭を抑える。

「お前は振り向くな。
 …静かに逃げろ」
小さな声でそう指示する。
俺は顔を抑えられながら声も無く、何回も頷く。
大きく息を吸うと、潜水でできるだけ人ごみに紛れる。
人に紛れてこっそり覗いていると、声の主はやっぱり円堂で、傍らには風丸、染岡、豪炎寺までいる。


「やっぱり鬼道だ」
円堂はそう言うと鬼道の肩を笑顔で叩いている。

「奇遇だな。お前達も来てたのか」
流石鬼道は動揺を微塵も見せず、自然な挨拶を交わしている。

「ああ、豪炎寺の親父さんがここの無料券何枚か貰ったんだって。
だからわざわざここまで来たんだよ。
お前、今日すっごい早く帰っちまったから誘えなかったけどさ、皆で来ようと思ってたんだぜ」

そういえばプールに行くって言ってたけど、まさかこんな遠くのプールまで来るとは思わなかった。
くっそ〜、ちゃんと行き先聞いとけば良かった。

「その割には四人か?」

「目金はプールは嫌いだって言うし、マックスと影野は二人で約束してたみたいだし、
豪炎寺に聞いたんだけど、半田はなんか皮膚の病気でプール駄目なんだって。
お前知ってたか?」

「ああ」
知ってるも何も鬼道の入れ知恵だっつーの。

「でも、まさかこんな所で会うとはな。
驚いたぞ」
苦笑を浮かべて鬼道が言う。

「俺らもだよ。
女連れのお前と会うとは微塵も思ってなかったからよ。
死ぬ程驚いちまった」
染岡はいつもより仏頂面でそう言う。

うわっ、俺のことも見られてたのか。
俺だって流石に気づいてはいない、…かな?

「そうだな。さっきの子、彼女か?」
風丸が同意するようにくすりと笑って訊いてくる。
こんな時なのに、鬼道がなんて答えるか密かに緊張してしまう。

「ああ、俺の恋人だ」

うわ〜〜〜、今皆に恋人って俺のこと言った。
これはヤバイ。
隠れているのに思わず声が出そうになる。

「そっか!じゃあもし良かったら俺たちと合流しないか?
勿論彼女も一緒にさ。
なあ、彼女どこ行ったんだ?」
円堂がここでもキャプテンの責任感を発揮してそんなことを言い出す。

「彼女、結構恥かしがりやなんだ。
今日初めてのデートだし、紹介するのはまた今度でいいか?
彼女をあまり緊張させたくない」
でも、鬼道はさらりとかわしてくれる。

「悪いな、鬼道。 
声を掛けるのも止めようって言ったんだがな」
豪炎寺が困ったように何故か謝る。

「でも折角会えたんだし、挨拶ぐらいしときたいじゃないか。
一応揉めてるっぽい時は避けたんだし」
円堂の言葉に一気に血の気が引く。
そんな時から見られてたんじゃ、勿論キスしたときも…。
水の中だったから直接は見られてないけど、その前後は見られていたってことになる。
は、恥かしすぎる…。

「おい、もう行こうぜ。
こいつ、女待たせてるんだしよ」
染岡が怒った風に言う。

「そうだったな!
邪魔して悪かったな。
じゃあ、彼女に宜しく!!」
爽やかにそう円堂が言うと、皆はあっさりと去って行く。
俺は皆の姿が完全に見えなくなってから、鬼道に近づく。

「お前が目立ちすぎるから悪いんだぞ」
俺が軽く小突くと、鬼道は苦笑いを浮かべる。

「あいつらとまたばったり会うと拙いからもう帰るか?」
あ〜ぁ、折角のプールなのにもう帰らなきゃならないのか。

「なあ、またプール一緒に来てくれる?」
なんとなく名残惜しくて、俺は次の約束を取り付けようとする。

「ああ、勿論」
鬼道が即答してくれたから、嬉しくなって腕を組む。

「こんなに胸が大きいお前が見れるのはプールぐらいしかないしな」
一言余計な鬼道をグーで殴ると、俺はザブザブと先にプールサイドへ向かう。


その日、結局俺はスライダーには乗れずに帰った。
でも、また次に来た時に乗ればいい。
二回目のデートの時に。

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