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プールに着くとすぐ、鬼道は俺と離れる。

「着替え終わったら、ここに戻ってきてくれ」
そう言い残して一人でさっさと男子更衣室へ向かおうとする。

「鬼道〜」
こんなにあっさりと一人にされると思ってなかった俺は慌てて鬼道の手を掴む。
半泣きの俺を見て鬼道は偉そうに頬を上げる。

「あまりキョロキョロするなよ。
間違っても他人の裸を凝視するな」
役に立たないアドバイスをすると、ニヤリと笑って俺を置いて行ってしまう。

くっそ〜、アレは絶対楽しんでる。
俺は鬼道に対するムカつきをばねに
大きく深呼吸してから女子更衣室に突撃した。


女子更衣室の一番端のロッカーでドキドキしながら辺りを窺う。
同じ列で綺麗なお姉さんが水着のブラの位置を直しているのが目に入る。
ぷるんぷるん揺れる胸から目が離せない。
更衣室の中だとこんなに無防備なのかぁ。
そう思いながらついお姉さんの着替えを最後まで見守ってしまう。
お姉さんがバタンとロッカーを閉めた音で、我に返る。
鬼道に言われたばっかりなのに、思いっきり凝視してた。
俺は頭を大きく振り、目を瞑って服を一気に脱ぎだした。

思い切って水着になってしまうと、ブラさえ気にしなければ、ワンピースよりショートパンツタイプの水着でいるほうが気が楽だった。
更衣室から出てしまえばさらに気楽になる。


「おまたせ」
俺は先に着替えを済ませて待っていた鬼道に駆け寄る。
鬼道は俺の姿を見て驚いたように固まるから、途端に鏡で確認もせずに出てきてしまった自分に不安になる。

「あれ、俺なんか変か?
…もしかしてモッコリしてる?」
ショートパンツの部分は生地がしっかりしてたからモッコリしないと思ったんだけどな。

「…いや、大丈夫だ」
鬼道はニコリともしないで言う。

「じゃあ、早く行こうぜ」
そう言うと俺は、さっきまでみたいに腕に掴まる。
鬼道は肩に大きなタオルを掛けていて思わず笑ってしまう。

「ぷっ、これってもしかしてマントの代わり?
お前って肩に何か無いと駄目なのかよ」
噴き出してタオルを引っ張る。

「ん?…ああそうだな」
…あれ?
反応が鈍い。
いつもだったら俺がからかおうものなら、何倍にもなって返ってくるのに、返ってきたのは珍しくはっきりしない言葉だった。
なんだか上の空って感じがする。

俺は腕を放して立ち止まってしまう。
初デートだし、折角のプールだし、はっきりしないのは嫌だ。

「なあ、お前変だぞ。どうかしたのかよ?」
俺が訊ねると、鬼道は嫌そうに顔を顰める。

「…胸が当たる」
嫌そうな顔のまま、ぼそっと呟く。

「はあ?お前そんなこと気にしてたのかよ!?
これ、所詮偽乳だぞ。
パッド三つも入ってるんだぞ。
お前、本物見てるんだから分かるだろうが」
俺はとうとう笑い出してしまう。
鬼道は大声で笑い出した俺の手を掴む。

「大声でそんなこと言うな、恥知らずが」
そう言うとずんずんとシャワーに向かって歩きだす。
顔を赤くしている鬼道が珍しくて、俺は手を引かれながらも笑い続けた。

シャワーを浴び終わる頃には、俺の笑いの発作も流石に治まる。
鬼道の元に戻ると、何も言わずに自分のタオルを俺に掛けてくれる。

「あ、ありがと」

「ん」
俺が礼を言うと、俺の方を見ずに凄く短い返事が返ってくる。
そしてまた手が差し出される。
俺は無言でその手を取る。
なんだか鬼道のことを凄く意識してしまう。
もう何十回と俺の胸触っているのに、あんなこと言うなんてちょっと驚きかも。
そう思うと俺は恥ずかしくて、鬼道の方が見れない。
薄暗い鬼道の部屋で裸になるより、太陽の下で水着になる方が恥ずかしいなんて初めて知った。
俺は俯いて、肩に掛けられたタオルでそっと胸元を隠した。


「混んでるな」
荷物を置く所を探すとベンチは全部埋まっていて、
日陰もビニールシートを敷いた人でいっぱいだった。

「何も持ってこなかったぞ」
俺は目を合わせずに言う。

「…ここで待ってろ」
そう言うと、鬼道はどこかへ行ってしまう。


鬼道の後ろ姿を見送りながら、俺はほーっと長い溜め息をついた。
だって鬼道と一緒にいて、こんなに緊張するなんて初めてだ。
鬼道の視線一つがスッゴく気になって、
何も話せないとかマジで有り得ない。
俺はドキドキする胸を押さえて、鬼道が戻ってきたら何を話そうか悩んでいた。

戻ってきた鬼道はビニールシートと大きな浮き輪を抱えていた。

「これはお前に」
そう言うと俺の頭から浮き輪を被せる。

鬼道はすっかりいつもの調子に戻っていて、ほっとしたけど反面少しがっかりもした。
だってあんな風に俺に照れる鬼道は珍しいし、
それに一度意識しちゃった俺はそう簡単には無かったことにできない。

「ほら行くぞ」
手際良くビニールシートに荷物を置いた鬼道が、俺に再度手を差し伸べる。
俺はそれだけで顔が赤くなるのを抑えられなくなっていた。

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