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鬼道の家に着くと、俺だけ降ろされる。


「言ってあるから、色々用意を手伝ってもらえ。
俺はこのまま服を用意しに行く」

そう言うと、鬼道を車に乗せたままドアが閉められる。
でもすぐさまウィンドウが開き、車内から鬼道がニヤリと笑った。


「女に見えるようにしてもらえ」

「・・・」

なんだこのあたふたしてる俺で楽しんでます的な空気。
……ふーんだッ、すっげー可愛くなってぜってー惚れ直させてやるっ。


俺が決意も新たに、でも恐る恐る鬼道邸を訪ねると、直接大きなバスルームに通された。
そこで女の人にいきなり全部の服を脱ぐよう指示され面食らう。
だってこのお姉さんと俺、二分前に会ったばっかりですけど!?
俺が躊躇していると、テキパキと服を問答無用で剥かれてしまう。
この時点で俺のナイーヴな男心はズタズタだ。

一分の隙も無くきちんと服を着ているお姉さんの前で全裸ってそれだけで相当恥ずかしい。
俺がもじもじして身構える事も出来ない内に、手際よく全身にクリームっぽい物を塗られ、脱毛が始まった。
デリケートゾーンまでお姉さんに処理された俺は虚ろな目でシャワーを浴びた。
この時点で俺は目の前のお姉さんに完全服従だ。
それから言われるままにバスローブを着て、顔から全身まで変な液体を何種類もつけられた。
ここまでくるともうされるがまま。
諦めの境地で目を瞑っていると、暫くして鏡を見るよう声を掛けられた。
目を開けたらビックリ!
ちゃんと女の子に見える俺が鏡の中に居た。


「すげー…、女の子みたいだ!」

俺の感嘆の声に、お姉さんがクスクス笑う。

「まだ眉毛と髪の毛を整えただけですよ。
ここからさらにメイクしますからね」

まだ中学生だし簡単なものなんですがとお姉さんは言うが、俺からしたらどこが簡単なのか判断が付かない。
顔全体に変なクリーム塗られたかと思うと、目元になんか変な器具を当てられそうになったんで俺はビビッてそこからは目を瞑ってしまった。


「はい、出来上がり。
できたら顔はあまり濡らさないようにして下さい」

お姉さんがぽんッと肩を叩くまで俺はずーっと目を瞑ったままだったから、もう一度鏡を見た時は思わず笑ってしまった。
なんだこれー、まるっきり女の子じゃん!!
メイクって怖えぇーッ!!


「水着も試着してみて下さい」

鏡に向かってげらげら笑いながら、ウィンクしたりチュッてキス顔して一人で遊んでいた俺に、お姉さんは袋に入ったままの水着を渡してくれた。
渡された水着を広げてみると、ビキニタイプでブラを手に固まってしまう。
え…、ナニコレ…、これを鬼道は俺に着ろと?
困り果てて、お姉さんを見ると苦笑いで着替え方を教えてくれた。


「服の下に着たまま行った方がいいですね」

もたもたと拙い手つきでブラを装着する俺に、お姉さんは見兼ねて着替えを手伝いながらそう言った。
自分でもこの水着を女子更衣室で独りで着れるとは到底思えない。


「はい、どうぞ」

結局水着を下に着たままで出掛ける事になった俺に、最後に鬼道が用意してくれた服が渡される。
・・・それはどこから見てもワンピースにしか見えなかった。



「鬼道!」

玄関ホールで待つ鬼道に駆け寄り、俺は飛び蹴りを炸裂させた。

「お前、スカートで蹴りなんてするな」

ひらりと避けた鬼道が余裕で注意するのが余計ムカつく。


「俺、女っぽい服とは言ったけど、女の服とは言ってないぞ!!」

服に着替えたら最後だと思っていたのに、仕方なくワンピースを着た俺は髪の毛まで女の子っぽく飾り立てられてしまった。
なんだこれ!!
完璧に女装じゃん!!
今日だけで水着とはいえ、ブラとスカートという女の二大アイテムを制覇しちゃったじゃん!!
男として大切なものを失ってしまった気分だぞ!!


「まあ、そう怒るな。
ちゃんと女に見えるから安心しろ」

しかもこんな思いまでして女の格好をしたっていうのに、鬼道の態度はいつもと変わらない。
感想もたったこれだけ。
正直言って面白くない。
可愛いとか言われたい訳じゃないけど、もっとさリアクションとかしてくれたっていいじゃん。
こんな格好したの初めてなんだぞ、俺。
俺は面白くなくて、下を向いて立ち尽くす。
はっきり言って拗ねていた。


「何やってるんだ。ほら」

顔を上げると鬼道が跪いて俺にミュールを差し出した。

「お姫様、足をどうぞ」

スポーティーなワンピースに合わせられたそのカジュアルなミュールも、
俺自身も、
お姫様って雰囲気じゃないのに、鬼道は跪いて俺のことを見上げてる。

「あ、ああ」

俺がおずおずと足を差し出せば、
跪いたまま履かせてくれる。


初めて履いたヒールの高いミュールは、
フラフラと不安定で 一歩踏み出した途端、よろめいてしまう。
そんな俺を鬼道はしっかりと支えてくれる。

「ちゃんと掴まってろ」
そう言って、自分の腕を俺に差し出す。


初めて着たブラやスカートより、
不安定なミュールや、鬼道のほんの少しの態度の違いが、
俺をたちまち女に変えてしまう。

自分が堪らなく弱くなった気がする。


俺はドキドキしながら鬼道の腕に縋りつく。
例えどんなに俺が弱くなっても、この腕が守ってくれる。
そう思うと女も悪くないかもと思えてくるから不思議だった。

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