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土曜日は朝から突き抜けるような晴天だった。
鬼道と一緒にプール行く日が晴天ってすっげーラッキー!
俺はもう晴れってだけでテンション上がってしまって、めちゃくちゃ暑いっていうのに上機嫌で学校まで走って行った。
部室に着くとまだ部活前だというのに、既に汗だくだ。


「ほら」

鬼道が苦笑いしながら、拭っても汗が止まらない俺に冷えたドリンクを渡してくれる。

「さんきゅ」

俺は受け取ってすぐそれをゴキュゴキュと喉を鳴らして飲み干した。
あー、ただの麦茶なのにめっちゃ美味い!!


「晴れたな!」

口の端が自然に上がる俺からボトルを奪うと、鬼道はコツンとボトルで俺のおでこを叩いた。

「浮かれ過ぎて倒れるなよ」



その日の練習は外よりだいぶ涼しい地下修練場で行われた。
地下修練場はめっちゃハードだから使用時間が区切られている。
そのせいか普段より少し早めに部活が終わった。
なんだか全てが上手く回ってる。
俺は練習が終わるといそいそと自分のロッカーを開けた。
鬼道なんか今日は用があるからと公言したお陰で、練習後の片付けも免除で着替えてる。
もー、俺には浮かれすぎるな、なーんて言ったくせに自分だって充分楽しみにしてるんじゃん。
しらっとした顔で私服のシャツのボタンを留めている鬼道が可笑しくってしょうがない。
ついにへら〜っとしてしまった俺に、鬼道は目敏く気づくと眉を寄せて早く着替えろみたいな感じで顎を上げた。
はいはーい、言われなくても着替えるよーだ。


「なあ半田も行かないか?
これから皆でプール!!」

急いで私服に着替えている俺に、皆と楽しそうに話してた円堂が声を掛けてくる。


「悪い、俺プール駄目なんだ。
それにこれから大事な用があるし」

俺はユニフォームをカバンに詰め込む手を止めないで答えた。


「じゃ、お先ーっ」

挨拶もそこそこに、俺は一足早く部室を出た鬼道を追う。
いつもの場所まで行けば鬼道んちの車が待ってる。


車に乗り込んだ俺を見て、途端に鬼道は眉を顰めた。

「お前、その格好で行く気か?
 案外、人目を気にしないんだな」

予想もしてなかった言葉に、俺は自分の格好を改めて眺めた。
シャツとその下にTシャツ、下はハーフパンツにサンダル。
そりゃ確かにきちっとした格好の鬼道に比べたらカジュアルかもしんないけど、別にプールに行くんだし全然おかしいとは思えない。


「なんか変?」

俺が訊ねると、鬼道はフッと少し笑う。
あ、なんか意地悪っぽい顔してる。


「忘れているようだが、お前は今日女性用の水着を着るようなんだぞ。
そんな男にしか見えない格好で女子更衣室に入れるのか?」

「げ〜、マジかよ〜!?」

鬼道の意地悪っぽく片方だけ上がった口に嫌な予感はしてたのに、それなのに俺は鬼道の言葉を聞いた瞬間に頭を抱えた。
すっかり忘れてた。
というか、考えてもいなかった。
よーく考えれば、いくら知り合いが周りにいなくてもこの胸で男物の水着は無理だってわかるはずだったのに。
ただ今日は、鬼道が水着用意してくれるっていったから水着の事なんかぜーんぜん考えてもいなかった。


「お前わざとだろ!!
わざと俺に水着のこと言わなかったんだろーー!!」

俺は膨れて、隣に座る鬼道を小突いた。


「だから言っただろ?
ホテルのプールの方がいいんじゃないかって。
ホテルなら個室で着替えられるからな」

「そんなの言ったうちに入るか!」

俺が怒っても鬼道は堪える様子も無い。
というか、むしろ楽しそうだ。
もーッ!俺がこうやって慌てるの分かっててわざと言わなかったんだな、コイツ!
親父臭いって言ったの根に持ってたのかよ。


「どうする?
今からでも行き先を変えるか?」

鬼道がニヤニヤしながら訊いてくる。

「いい!
予定通り大きなプールに行く!」

もうこうなったら自棄だ。
俺は半ば意地になって答えた。
どうせどこへ行っても女物の水着は着なきゃならないんだ。
どうせなら女物の水着を着るだけの元が取れるぐらい楽しめるところに行くっきゃないだろ!!


「はあ、女物かあ…」

でもそう思ってても溜め息が出る。
女物なんて今まで着たことも無い。
しかも水着。
想像しただけで憂鬱だっつーの。

二回目の溜め息を吐いた俺の頭に、鬼道が手を置いた。


「まあそれぐらいは我慢しろ。
俺達の初デートの良い思い出になるだろ?」

「初、デート…?」


鬼道の言葉に、顔が赤くなるのが自分でも分かる。
そっか…、これって「初」デートかぁ。
ちゃんとした手順を踏んで恋人同士になっていないからか、俺は初って言葉に過剰なまでに反応してしまった。


「俺はそのつもりで誘ったんだがな。
お前はそれすら気づいてなかったのか」

鬼道が呆れたように笑う。


初めてのデート…、かあ!
これから鬼道と初めてのデートをするのかと思うと、さっきまでの憂鬱が嘘みたいにドキドキが止まらない。
だってさ、そういう恋人が経験する色んな初めてって、俺は気づいたらしちゃってて、こういう風に前もって言われたりとかしたことないし。

鬼道をチラッと見ると、目が合い微笑まれる。
俺は慌てて手で顔を隠す。
・・・くっそー、さっきまでの意地悪な顔はどこ行ったんだよ。
照れるじゃんか、こんなのぉ!

俺は顔を隠したまま、小さな声で鬼道に訊ねた。


「なあ、今から女っぽい服も用意できる?」

俺がそう言った途端、頭をぐりぐりと撫でられた。

「ああ、勿論」


俺は鬼道の家に着くまで、もう顔を上げることも出来なかった。


 

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