5



目を開けると、鬼道は片膝だけベッドに乗り上げて俺の頬に触れていた。
俺が何も言わなくても、鬼道は俺にキスしてくれた。
それに約束も。
これって、つまり俺達恋人同士になったってこと!?


「鬼道ぉ…」

「ん…?」

鬼道はチュッ、チュッ、って俺が話しかけてもお構いなしでキスしてくる。
ひゃー、なんか恋人同士になったら雰囲気まで甘くなった気がする。
なんでしょう、この少しも離れていたくないってオーラ。
しかもお互いまだ裸のままだから、すぐに雰囲気は甘いを通り越して濃厚に変化してく。
キスしても今は話すよりもこっちが大事って感じで俺の舌を封じるみたいに絡めてくるとか。
もしかしてこのまま恋人としての初めてのHになだれ込んじゃう?
って俺はすっかりその気になっていたのに、鬼道は俺の胸を弄ろうとしてすぐその手を止めた。
しかも不機嫌丸出しの顔で俺を睨んだ。


「お前、これは誰が付けたんだ?」

「ん?」

はっきりと口に出すのもイヤだと言わんばかりに鬼道が指したのは俺の胸についたキスマーク。


「もー、これはそういうんじゃないって言ったじゃんか!
折角良いムードなのに台無し!」

鬼道ってばやっと両想いになれたっていうのに、もう喧嘩する気かよ!?
すっかり興を削がれた俺は反撃とばかりに鬼道の目の前にベッドサイドにあったコンドームを突きつけた。


「これ!
お前こそなんでこんなの持ち歩いてたんだよ!?」

俺が睨むと、鬼道は視線を避けるように横に転がる。
えっ、なんだよ…。
説明も出来ないような事なの!?
怒るつもりだったのに、俺は鬼道の黙秘に不安を煽られてしまった。


「もしかしてもう彼女出来ちゃった?俺、二股とかヤだかんな」

俺が急にトーンダウンしてしまうと、鬼道は苦い顔で上半身を起こした。
それから溜め息をつくと重い口を開いた。


「この部屋ではどうしても寝れなかったんだ」

それだけ言うと、鬼道は片膝だけ上げてそこに肘をついた。
肘をついて頭を抱えてしまうと俺からは鬼道の顔がよく見えなくなってしまう。


「この部屋はどこもかしこもお前が染み付いていた。
お前の為に距離を置いたのに、この部屋に居ると挫けそうだった。
何度も何度も、もう一度お前を騙して自分のものにしようと考えた。
快楽に慣れたお前なら流されてくれると、この部屋に居るとどうしても考えてしまうんだ。
俺の手で乱れるお前が、簡単に思い出せてしまうから」


・・・はっきり言ってしまうと。
鬼道が言ってる事ってぶっちゃけよく分かんない。
お前の為にー、とか。お前を騙してー、とか。
んん??って俺からしたら首を捻ってしまうような話ばーっかり。


でもさ、気持ちだけは。
離れてて辛かったっていう気持ちだけは、よーっく分かる。
どこに居ても、誰と居ても鬼道の事をふとした拍子に思い出してた。
居場所がなくて、何をしてても鬼道が追いかけてくるみたいだった。
そして俺達が一番長く一緒に過ごしたのはこの部屋だ。
この部屋が辛いって気持ちは痛いほどよく分かる。


「それで、俺は……」


だから俺は鬼道が続きを言おうとした口を手で塞いだ。


「もう、いい…ッ!」


気持ちが分かるから、続きは聞きたくなかった。
鬼道が何をしたのか聞かなくても想像がつく。
俺は鬼道の口を押さえたまま俯いた。
自分の胸に散った赤い痕が目に入る。


同じ事を俺だってしてる。


「…なあ。
お前そんとき相手の頭、撫でたか?」

俺は鬼道の口の手を退ける。
視線は赤い痕を見つめたまま、動けない。
自分の罪の証を見つめていないと心が挫けそうだった。


「……いや」

短い鬼道の返事。

「そっか。
……なら、いい」


俺は胸の赤い痕を目に焼き付けてから、鬼道の顔を見つめた。


「お前が俺のこと許してくれるなら、俺もお前のこと許すよ。
第一、俺達は付き合ってた訳じゃないんだし。
俺が文句言える筋合いじゃないだろ」


ちゃんと笑えたかな。
俺は鬼道の顔を見つめ、笑顔に見えるように口の端を上げた。
気にしてないように見えるといいんだけどな。
気にしてないは嘘だけど、少なくとも気にしないようにしようとは思ってる。
だってそれは付き合ってない時の事だし。
やっと両想いになれたのに、こんなに早く別れるのも嫌だ。


「半田」

鬼道が俺の名前を呼んで、手を引く。
俺は鬼道の上に倒れ込み、鬼道の胸に顔を寄せる。


「俺はもうお前だけだ。
だからお前も約束してくれ。
これからは俺以外の男に近づかないと」


鬼道を見上げると、普段はゴーグルで隠れる、頬の上の方だけを赤く染めている。
ちょっと可愛い。
こんな可愛い鬼道なんて多分俺しか知らないんだろうな。
クスリと笑って、鬼道の胸に頬を寄せる。


「…嬉しい」


…うん。
今から、こうして約束していけばいい。
もう俺は鬼道の恋人なんだから。
俺が小さく呟くと、鬼道は頭を優しく撫でてくれる。
もう一度見上げればキスが降ってくる。

…嬉しい。
両想いってこんなにも嬉しいものだったんだ。
今まで何回も体を繋げてきたのに、こんなに心まで繋がったことなかった。
こんな風に鬼道が慰めてくれるなんて想像した事もなかった。
嬉しくって鬼道をギュッと抱き締める。


「でもさ、約束は出来ないぜ。
だって俺の友達男ばっかなのに、お前以外の男に近づかないなんてそんなの無ー理ー!!」

俺は照れ隠しでそう言うと、べぇっと舌を出す。


「それに俺、まだまだ男辞めないから。
だから今まで通り、お前とのことは皆には内緒!
ホモ扱いとかされたら最悪だし!!」

俺がそう宣言すると、鬼道は明らかにムッとした。


「秘密にするのは構わんし、お前の行動を制限するつもりも無い。
ただ、少しは俺に気を使えと言ってるんだ!
今までみたいに豪炎寺にベタベタするのは止せ!!
それからそのキスマークの相手!
もう二度とソイツには会うな!!」

「えーッ!!
んな染岡に会わないとか無理だし!!
……あ」



その日、せっかく俺達は両想いになれたというのに結局喧嘩になってしまった。

でも、大丈夫!
俺達の関係はもう、これくらいの喧嘩で駄目になるようなものじゃない。
鬼道は俺に甘いってことが分かったし。
それに俺達、恋人同士だもん!


「なあ、これからは俺の女の部分を独占できるんだぜ。
皆が存在することさえ知らない女の部分をさ。
それで我慢しろよな。な?」


 END

 

prev next





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -