3*



鬼道は俺がイってしまうと、鬼道は体を離してベッドから降りた。

「‥‥?」

俺はベッドにうつ伏せのまま、鬼道の様子をぼんやり眺める。
鬼道は脱いだジャケットから何か取り出すとすぐ戻ってきてくれた。
何?何か必要なもの?ケータイとか?
俺が覗き込むと鬼道の手にあったのはコンドームで、俺は一瞬で心が凍る。


…なんでジャケットにそんなの入れてるんだよ。

俺はコンドームを着けようとしている鬼道の手を咄嗟に押さてしまった。
そんな他の誰かの為に用意したコンドームでしたくなかった。


「着けなくて、いい」

「何言ってるんだ。困るのはお前だろう?」

鬼道の言う通り、着けてくれるのは俺の為なんだろうけど、鬼道の冷静なその口振りは俺の心をざわつかせただけだった。
これが最後なのに、そんな他の相手の影がチラつく物を平気で使える鬼道に怒りが湧く。


「嫌なんだよ、それ使うの!」

咄嗟に出た言葉は自分でもびっくりするぐらい語気が荒い。
どうせ俺は珍しいから相手にされているだけの大したことない存在だってわかってる。
でも最後ぐらい大切にして欲しい。
それってそんなに我侭な事か!?


「ね、服も全部ぬいで」

俺の声に驚いて止まった鬼道が何か言う前に、俺はわざと明るくそう言った。


「最後ぐらい何も着けないでしようぜ。
だから服もコンドームも無し!
…駄目か?」

明るく振る舞ってみたものの、強硬な態度を疑われないか実はちょっと心配。
ドキドキしながら鬼道を見ると、すぐにちゃんとシャツを脱いでくれる。


「お前、あれから生理は来たか?」

鬼道がシャツを脱ぎながら聞いてくる。

「・・・?
あれからって、鬼道に最後に報告してからってこと?
来てないよ」

鬼道は俺のフォローをする為に生理で部室や宿舎を使う前に、必ず鬼道か豪炎寺に報告させていた。
最後に報告したのは鬼道との関係が駄目になる少し前のことだった。


「…そうか。
なら、全てお前の望む通りに」

そう言うと、コンドームをベッドサイドに置き、下も全て脱いでくれる。

いつもの服を着たままのセックスより、裸で抱き合う方が恋人同士みたいで嬉しい。
さっきの言葉と相俟って、なんだか本当に大切にされてる気分になる。


「ありがと」

ついつい裸の鬼道から目を逸らしてしまう。
裸の鬼道は慣れてなくて、照れくさい。
顔だけなら平気なんだけどなぁ。
俺は、俺の顔の両脇に手を着いて覆いかぶさってきた鬼道の顔だけを見つめた。


「ねぇ、ゴーグルも取ってよ」

鬼道の優しさに甘えた俺はもう一つ我が儘を言う。

「髪も解くか?」

鬼道がニヤリと笑いながらゴーグルを外す。
ゴーグルの下には、端正な整った顔があって、雰囲気が途端に変わる。
ちょっと…、その…、照れちゃうぐらい格好良すぎる。
俺は鬼道の言葉にブンブンと首を横に振る。


「もう充分別人」

俺が顔を赤くして言うと、鬼道がクスリと笑う。
笑われたのは恥ずかしかったけど、まさかゴーグル無しで鬼道の笑顔が見れると思わなかったからすっごい嬉しい。
ずっとはっきりとは見えなかった瞳が俺を見て柔らかく笑ってる。
さっきまでずうっと心がざわついていたのに、鬼道の笑顔はたちまち俺の心を平穏に戻してしまう。
始めたときは、こんなに穏やかな気持ちになれるとは思ってもいなかった。


「いくぞ」

鬼道の熱いものがあてがわれた時も、思っていたより心は落ち着いていた。
ゆっくりと入ってきた時も、目の前に優しい瞳をした鬼道がいるから怖くなかった。

奥まで届いたとき、微笑みながら俺の顔を優しく撫でてくれる。

何も隔てる物が無く見える目が優しくて、
触れられた手が暖かくて、
最後にもう一つだけ我が儘が俺の口から零れてしまった。


「ねえ、キス、して?」

俺がそう言うと、鬼道の目が驚いたように見開く。


「…いいのか?」

ずっとキスしてくれなかったのは鬼道の方なのに、変な鬼道。
そんな言い方じゃ俺が許さなかったみたいに聞こえる。
それともこれは「男同士でキスしても平気なのか?」って意味なのかな?


「うん。…いや?」

鬼道の質問の意味を図りかねて、俺は恐る恐る訊ねる。
今までずっと俺にキスしなかった鬼道は、男の俺とはしたくないからかもしれない。
またさっきみたいにキスできなくて泣くかもしれない。

それでも、今言わなければ多分もう鬼道とはキスできない。
俺が頼まなければ、鬼道はキスしてくれない。


様子を窺うように首を傾げた俺の顔に、鬼道の顔がゆっくりと近づいてくる。
途中で躊躇するように一度止まり、また近づく。
まるで触れたら壊れてしまうみたいな一瞬だけのキスをくれる。
すぐに離れてしまった顔を、首に手を廻し引き寄せれば、すぐまたキスをしてくれた。
それだけでもう止まれなくなる。


俺は鬼道の背に手を回し、夢中で舌を絡める。
ディープキスなんて初めてなのに、鬼道を求める気持ちが自然と舌を絡めさせる。
鬼道が俺と同じようにキスしかえしてくれるのが嬉しくて、感情が高ぶって勝手に涙が出てくる。
初めてのキスは鬼道との距離まで縮めてくれたみたいに感じる。
鬼道も俺をぎゅって抱きしめてくれるから、身も蓋もない言い方だけど繋がってる部分もぎゅーってなっちゃってる気がする。
どこもかしこも鬼道の事を離したくないって全身が叫んでる。
全身で鬼道を感じたいって叫んでる。

鬼道も同じ気持ちでいて欲しい。
俺で気持ちよくなって欲しいって思っているのに、鬼道が動き始めた時、俺はついつい咎めてしまった。


「やぁっ、まだ動かないで」

「無茶…言うな…ッ」

ぎゅうっと俺を抱いたまま、耳元で鬼道の掠れた声がする。
その声を嬉しいって確かに感じている半面、まだ動いてほしくなかった。
だって動いたらそれだけ終わりに近づいてしまう。
ずっと、ずっとこの状態でいたかった。


「あッ…あぁん…やッ、やだぁ…ッ!」

揺さぶられると、どんどん終わりが迫る。

「やぁッ、終わっちゃうの、やぁー…ッ。
ずっと、このまま…きどぉと…いたいっ…よぉッ」

俺が喘ぎながら必死に言うと、鬼道がまた唇を重ねる。
それは俺を宥めるようにも、俺の戯言を封じるようにも見えた。
でも俺は差し入れられた舌に縋りつくように自分の舌を絡める。
キスの一体感に、この瞬間が永遠に続く気さえする。

でも、いつかは終わりが必ず来る。


俺達はキスを交わしたまま、最後の時を迎えた。
俺の中で鬼道が弾けた瞬間、世界は真っ白になった。


 

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