2*



ベッドの上で鬼道が次々と俺の服を剥いでいく。
乱暴で先を焦るような鬼道の手。
手助けしたいのに、俺は自分の激しく打ち付ける心臓と弾む息を抑えるのに必死でされるがままだ。
鬼道が露になった俺の首筋に噛み付くように顔を埋める。
前は当たり前でしか無かった鬼道の荒い吐息が、想いを自覚した今は泣きたくなる程嬉しい。


「きどぉッ!ンん、きどぉッ!!」

鬼道の肩を掴み、嬉しくって何回も何回も名前を呼ぶ。
今は名前を呼んでもいいんだ。
こうやって触れてもいいんだ。
どれだけ呼んでも、触れても、足りることなんて無い。

何度目かの名前を呼んだ時に不意に鬼道の顔が上がり、目が合う。


顔がすごく近い。
すごく…キス、したい。
俺はキスして欲しくて、掴んでいた手を首に回す。


「きどぉ…」

強請るように名前を呼ぶと、どんどん顔が近づいてくる。
心臓の音がやけにうるさい。
ゴーグルの奥の瞳が見えた瞬間、キュッと目を瞑る。
でも鬼道の唇を感じたのは口ではなく、耳だった。


最後でも、
最後まで、
鬼道は決して俺にキスしてはくれない。


キスしたいって思っているのは俺だけで。
たぶん好きだって思っているのも俺だけで。
さっきまでの嬉しかった気持ちが急激に萎み泣き出したくなる。
でも、ここで俺が泣き出したら鬼道は抱くのを止めてしまうかもしれない。
最後なのに、俺のせいで途中で終わってしまうのは嫌だった。


俺は涙の浮かんだ顔を見られないように鬼道から逸らす。
横を向くと、堪えたはずの涙が一筋だけ零れ落ちた。


鬼道の唇は耳から再度首、そして背中へと流れる。
全身を流れる愛撫はすごく丁寧で、優しい。
『望み通りしてやる』
そう言った鬼道の言葉は本当で、俺が忘れられない思い出を最後に望んだから、その通りにしてくれている。
それが嬉しいはずなのに悲しい。
耳も首も背中も腕も指先も、鬼道が触れたところは全て熱を持って熱いのに、さっきから涙が全然引いてくれない。
これが本当に最後なんだと思い知らされる。


背中から腕を伝い、鬼道の唇が前に戻ってくる。
胸まで来たとき、鬼道の動きが急に止まり弾かれたように俺の顔を見た。
咄嗟だったから顔を隠すことも出来ない。
鬼道についに涙に濡れた顔が露わになってしまう。


「やッ!」

俺は慌てて手で顔を覆う。

「止めないで、鬼道ぉ。
お願い、止めないで…ッ!」

泣いた顔を隠し、必死で懇願する。
もう平気な演技なんてする余裕ない。
俺にはもう懇願するしか方法がない。
鬼道が何も言わないから、息を潜めて鬼道の返事を待つしかない。


鬼道の返事は俺の頭に乗せられた手だった。
懐かしい、俺を撫でるその感触。
恐る恐る顔を見ると、俺と目が合い少しだけ笑う。


「本当にいいのか?」

「……?」

一瞬何を訊かれたか分からなかった。
でもすぐに「続けていいのか?」って意味かと分かった俺は、なんでそんな事訊くのか戸惑いながらも頷いた。

「…そうか」

俺はどことなく淋しそうに呟く鬼道から目が離せない。


「お前が望むなら止めはしないさ」

鬼道はそう言って鎖骨あたりに一度だけ唇を落とすと、俺の足を左右に割る。
太腿に唇で触れると、そこから中心へ舌でなぞる。
俺は慌てて、俺の中心に顔を埋めようとしてる鬼道の頭を押さえた。


「そっ、そこはいいよ!
シャワー浴びてないし、お前だって好きじゃなかったじゃないか」

両方付いてる俺のそこは、入り口を舐めようとすると男の部分がどうしても顔に接近してしまう。
邪魔だからと、鬼道は以前からあまり好んでいなかった。
俺自身そんな所を舐められるのは恥ずかしいので進んで望んだことも無く、今まで一回しか舐められたことはなかった。
それなのに今、迷うことなく鬼道は顔を埋めている。
入り口に指とは違う感覚が走る。


「ンんッ」

全身が粟立ち、声が漏れる。
蕩けそうになって、腰が勝手にくねる。

「鬼道ってばぁ!」

強い刺激に我を忘れてしまいそうで、もう一度鬼道の頭を強く押さえる。


「目で、指で、口で、お前の全てを覚えておきたいんだ」

顔を上げた鬼道は、そう言うとまた顔を埋める。
だから瞬間的にまた泣きそうになった俺は見られなかったはず。
……鬼道も、俺の事、覚えておきたいって思ってくれてるんだ。
そんなこと言われたら、もう止められないよ。
俺は体を起こすと、鬼道の方へ向きを変える。


「半田?」

カチャカチャと鬼道のズボンを肌蹴させる。
ちゃんと大きくなっているソレが嬉しくて、俺はソレに舌を寄せる。

「俺も…。
俺もお前のこと忘れたくない。
だから…」

俺も五感全てで鬼道を覚えておきたい。
それに俺の舌も口も鬼道に覚えておいて欲しい。
二人でお互いの形をなぞり、確かめ合う。
しっかり覚えておきたいのに、鬼道の舌が指がそれを許してくれない。
頭がぼぅっとして、目の前にあるもの、口の中にあるものが不確かなものに変わっていく。
覚えたいって気持ちを欲望が凌駕していく。
息が弾んで、口から鬼道が出ていってしまう。


「やぁっ、やぁっ。
俺も…ッ、俺もぉ…ッ!」

必死で鬼道のに縋り、舌を這わそうとするけど上手くできない。
舌を、口を使おうとすると息が余計できなくなって、頭がさらにぼぅっとしてくる。

「きどぉ…ッ!!」

最後は鬼道を強く握ったまま、鬼道の名前を呼んだ。


鬼道はズルい。
こんなにも簡単に俺を支配してしまう。
一方的に愛撫を与えて、俺にはちゃんと覚える事も許してくれないなんて、ズル過ぎる。
俺がちゃんと覚える事が出来たのは、鬼道に触れられたら自分がどうなるか。
鬼道に触れられた時の胸の高鳴りだけは、忘れたくても忘れられない程、俺の胸に刻み込まれた。


 

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