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「セッ!?」
染岡が大きくたじろいだ隙に俺は四つんばいで前に回った。
胡坐をかいていた染岡は無防備で、俺でも簡単に隙をついてジーンズの前を開けられた。
そこは当然といえば当然なんだけど、全く反応してなくて少しだけ困ってしまう。
染岡が反応してくれないことには始められないじゃん。
「うーん、こうすれば少しは雰囲気出る?」
はっきり言って俺はこういう時どうしていいか分からない。
男がヤる気になるムードってどうやって作るんだろう?
俺は取り合えず上に着ているものを全部脱いで、上半身裸になる。
脱ぐ時、ふっと膨らみかけの胸が目に入る。
そう言えば、染岡はグラビアでも胸が大きい女の子が好きだったなぁっておぼろげに記憶を辿る。
こんなに小っちゃくても大丈夫なもんかな?
俺はどうにも判断できず、まあ無いよりはマシかと染岡の手を取った。
「おっぱい、ちっちゃいけど触っていいぞ」
そのまま手を自分の胸に運べば、目を瞠って動かなかった染岡がそのままの表情であんぐりと口を空けた。
プッ、今のはちょっと面白かった。
「おま…っ、おま…っ!
むっ、むっ、胸っ!?」
「お前、この前も俺の胸見て顔赤くしてたもんな。
いいよ、好きにして」
俺がそう言ってるのに、染岡は大慌てで胸から手を離してしまう。
「なっ、なっ、なっ!」
真っ赤な顔して染岡が俺を指差す。
なんで言葉が出ない程錯乱してる時って皆「な」しか出てこないんだろうな。
俺はクスリと笑うと、自分の下腹部に手を置きながら染岡を見つめた。
「安心していいよ。
こっちもちゃんと穴あるから」
「あっ、あっ、穴!?」
「そう、コレ入れる穴」
染岡のトランクスをぐいっと下げるとやっぱりまだふにゃんとした染オチンチンが飛び出してくる。
もう染岡が反応するまで待つのは止めた。
俺に男をその気にさせられるような色気があるはずないし。
勃ってないなら、俺が勃たせればいいんじゃん。
舐めて大きくすんのは、俺、得意だし。
「染岡は何もしなくていいよ。
俺に任せて、二人で全部忘れて気持ち良くなろ?」
俺はそう言うと、染岡の先っぽに舌を近づけた。
俺は手も添えず、舌を尖らせて触れるか触れないかぐらいの微かな愛撫しか与えない。
でも舐めていないところは無いくらい、満遍なく舐め上げる。
会陰、玉、裏筋、えら。
尖らせた舌でなぞってやれば、忽ち大きくなってくる。
でもそれだけじゃ許してあげない。
先っぽからトロトロ零れてくるまで、焦らしに焦らす。
猿みたいにヤる事しか考えられなくなるまで、どうせなら焦らしてやろーっと。
「俺としたくなってきた?」
俺が舐めながら見上げると、染岡は目の縁を欲望の赤で染めて顔を逸らす。
まだ余裕みたい。でもそっぽ向いちゃっていいのかな?
俺がキュッと握ってやると、こちらに顔の向きを慌てて戻す。
それを確認してから、おもむろに染岡のを銜える。
「染岡の大っき過ぎ」
染岡のは大きくて赤黒くて口の中に半分以上入らない。
俺のとは全然サイズも形も違う。
普通にしゃぶってるだけで、じゅぶじゅぶ音が立つ。
大きくて苦しくてはあはあ息が切れる。
ちょっと顎が疲れるかも。
チラリと染岡の様子を窺うと、染岡も苦しそうな顔をしてる。
出そうなの、耐えてるのかな?
「もうでひょお?」
俺が確認すると、眉を寄せて何回も頷く。
必死な顔してるし、嘘じゃなさそう。
「じゃあ、もうお終ーい」
俺はパッと体を起こす。
「俺としたくなっただろ?」
俺が挑発的に笑うと、染岡がゆっくりと起き上がる。
俺は座ってるから、ただでさえ背の高い染岡が今はものすごく巨大に見える。
染岡は立っただけなのに、今までの余裕なんて簡単に吹き飛んでしまう。
急に実感が湧いてくる。
これから鬼道以外の人間とセックスするんだ…。
のっそりと近づく染岡が自分で誘っておいて怖くて堪らない。
「もう、止まんねぇぞ」
目を赤くした染岡が呟く。
それは俺が見たことの無い染岡だった。
がっちりとした染岡が覆い被さると、それだけで身動き出来ない。
すっごい重いし、それに染岡の漢らしい匂いがする。
久しぶりに感じる人の重さ、温もりだっていうのに、全身が違うって叫んでる。
触れられたところから総毛立つ。
目を瞑っても、匂いで分かる。
指で分かる。
俺が欲しいのはこれじゃない。
でも俺が本当に欲しいものはもう、手に入らない。
このままするのは堪らなく怖い。
でもそれ以上に何をしても、どこへ行っても鬼道のことを思い出すのはもっと、もっと怖かった。
俺は目を瞑り、俺の胸元にある染岡の頭を抱える。
「もっと強く、して!
何にも考えられないくらい、強く!!」
俺はもっとしてくれって言ってるのに、染岡は逆に胸を吸うのを止めてしまう。
「なあ、本当にいいのかよ?
このまま、しちまっても」
止まらないって言ってたのに、俺のことを心配してちっとも先に進まない。
「いいって言ってるだろ!?
お前だって勃ってんじゃん!
俺なんか気にしないでさっさとヤれよ!」
いくら怒鳴ったって、ちっとも触ってくれないで困った顔をしてるだけ。
ついには身体を離し、染岡は頭をがしがし掻きだした。
「お前、泣いてんのにヤれる訳ねぇだろ」
「え?」
自分の目尻に触れると指先が濡れる。
自分でも気付かないうちに泣いていた。
鬼道のことを思い出すと涙が出るのが当たり前になっていたから気が付かなかったんだ。
なんでだよ…ッ、なんで全てが上手くいかないんだよ…ッ!
忘れる事も出来ないなんて最悪だ…ッ!!
「もう嫌だっ!
こんなのもう嫌なんだよ!
なあ染岡、忘れさせてくれよ。
アイツのこと全部、忘れさせてくれよっ!」
俺が縋っても、もう染岡は俺に触れてくれない。
「なあ、ここまで巻き込んだんだから何があったのか話せよ。
忘れることはできねぇだろうけど、少しは楽になるかもしれねぇだろ?」
そう言う染岡は、すっかりいつものよく知っている染岡に戻っていた。
優しい言葉が身に沁みる。
鬼道のことは秘密だったから皆の前ではいつも通り振る舞っていた。
でも染岡の前ではもう平気なふりをしなくていい。
それが嬉しくて、俺は染岡に抱き付き大きな声で泣いた。
もう隠れて泣かなくていい。
認めたくないけど、それだけで俺は随分と楽になっていた。
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