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次の日俺は学校を休んだ。

鬼道に無理矢理入れられた場所が酷い裂傷になっていて、教室の固い椅子に一日中座るなんて想像するだけで血の気が引く。
ベッドでする事も無く横になっていると、考えるのは鬼道のことばかりだった。
考えれば考える程むしゃくしゃしてくる。
なんで俺は鬼道が帰ろうとしてる時に呆然としちゃったんだ。
もっと罵ってやれば良かった。


ムカつきの治まらない俺は勢いで鬼道に電話を掛けた。
呼び出し音さえ鳴らずに繋がらない電話に、自分が学校を休んでる身分だった事を思い出す。
くっそー、鬼道が電話に出ないせいでイライラが止まらないじゃないかッ。
今が平日昼間だと忘れていた事を棚に上げて、というか寧ろそのせいで余計イライラしてしまう。
俺はもう一度ケータイを取ると、今度は鬼道にメールを送る。

「お前のせいで、ケツが痛くて堪らない。
今すぐ謝りに来い!」

「今なら許してやる。さっさと来い!」

「返事ぐらいしろ!」

「無視すんな!」

!と赤い怒りのマークの並んだメールの数々を怒涛のスピードで打つと、「ふんッ!」と気合一閃俺はメールを何度も送信した。
でもぜーんぜんすっきりしない。
しかも鬼道からの返事は無し。
俺は枕を思いっきり壁に投げつけた。
枕を投げようと身体を捻ったら、お尻にビキィって痛みが走って枕の行き先を見届ける事無く俺は布団に蹲る。


ルパンが倒れてる時みたいにお尻だけ浮かしてうつ伏せになっていると、自分が情けなくてなってくる。
こんな体勢しか出来ないって悲しすぎるだろ。
それもこれも全部鬼道のせいだって、俺は放ったままのケータイを睨み付ける。
それでもケータイは鳴ったりはしない。
無反応のケータイに、いつまでも怒り続けるなんて無理な話で。
俺は鳴らないケータイに寂しさを感じそうになって慌てて首を振る。
……あんなヤツに無視されたって清々するぐらいだ、馬ー鹿!
そう思うのに、それ以上鬼道にメールする気分にはもうなれなかった。


夕方、母親が友達が見舞いに来てくれたと伝えに来た時、一番最初に思い浮かんだのはやっぱり鬼道のことだった。
メールで来いって送ったからちゃんと来てくれたんだと思った。
でも、部屋に通されて来たのは円堂と豪炎寺だった。
二人の姿を見た途端、俺は反射的にがっかりしてしまった。
…って!がっかりってなんだ!!がっかりって!!
俺はそれを急いで打ち消すように飛び起きる。


「ッ!!」

すっかり自分が怪我をしてるって事を忘れていた俺は、またすぐベッドへとへなへなと倒れこむ。


「……いってぇ〜」

「おい、無理すんなよ。
寝てろって」

痛がる俺を心配して、円堂がベッドに駆け寄ってくる。

「大丈夫だって。
それよりわざわざ来てもらって悪いな」

俺は色々誤魔化すように笑う。
ちなみに今日の俺は腹痛で休んでる事になってる。
本当の理由は俺の名誉に関わるので口が裂けても言えない。



「いいってことよ!
明日は練習来れるんだろ?」

「とーぜん!」

今日も本当は練習だけは行こうかなぁって思ってた。
ただ鬼道に来いってメールした手前、部活だけ行ったらなんだか俺から会いに行ったみたいで意地になって行けなかった。


「そっか!
あっ、これ預かってきたプリントな。
思ったより元気そうで良かったぜ。
じゃあ、俺そろそろ帰るな」

えー!?来たばっかじゃん!
円堂は用件を伝えると用は済んだとばかりに、早くも帰り支度を始める。
まあ実際用件は済んだんだろうけどさ。


「あ、ああ、また明日な」

らしいと言えば円堂らしい様子に思わず苦笑して、俺は円堂に手をふった。


「あれ、豪炎寺は帰らないのか?」

立ち上がった円堂が座ったままの豪炎寺に声を掛ける。

「ああ、もう少し話がある」

「そっか!
じゃあ、また明日な」

円堂はそう言うと手を振って帰っていった。


「落ち着かないヤツだなぁ」

俺があっという間に帰った円堂に呆れたように言うと、豪炎寺も同意してくれたみたいに少し笑う。

「そうだな」

二人で笑ったあと笑いが収まると途端にシーンとしてしまう。
口数の少ない豪炎寺らしい静けさに、俺はたちまち豪炎寺と二人っきりって実感してしまう。


・・・俺、本当にコイツのこと、…好き、なのかな?


俺がチラリと豪炎寺を見ると、目が合う。
う、うわぁ〜、目が合っちゃったじゃんかぁ〜!
顔が赤くなるのが自分でも分かる。
それが恥ずかしくて、もう一度ベッドに倒れこみ布団を被る。
そんな風に豪炎寺に対して考える事自体、なんだか悪い事をしてる気がした。


「…なんだよ、話って」

俺は気を取り直して、目だけ布団から出して豪炎寺に訊ねる。
もう変な事考えるのよそう。
昨日鬼道の言った事なんて全部戯言だ。
俺が気にして豪炎寺と気まずくなる必要なんてない。


「昨日の今日だから、お前のことが心配になってな」

…昨日は色々なことがありすぎてすっかり忘れてた。
鬼道のことばっかり考えてた。
俺は布団から出て豪炎寺と真正面に向き合う。
一瞬だけ同じ内容の話を鬼道にした時の事が頭を過ぎる。
きゅうって痛んだ心に俺は一回だけ瞬きをした。
大丈夫、あんな馬鹿ちんとは違って豪炎寺ならちゃんと俺の気持ちを分かってくれるはず。
俺は目を開いて、ちゃんと豪炎寺を見つめた。


「俺、もう逃げない。
女の部分とどう向き合えばいいかまだ分かんないけど、目を逸らすのだけはもうしない」

俺がきっぱりと言うと、豪炎寺は微笑んで頷く。


「まだ、どうなるか分かんないけど、今まで通り皆には内緒にしといてくれよな」

そう言うとまた頷いてくれる。
良かった…!ちゃんと俺の気持ち、伝わったみたいだ。
やっぱり豪炎寺といると前向きな気持ちになる。
一緒にいると心強くて安心する。
…これが好きってことなのかな?
よく分からなくって、俺は大きく伸びをする。
ちょっとだけ、また誤解されるんじゃないかって緊張してたみたいだ。
少し笑って豪炎寺を見ると、豪炎寺も微笑んでいる。


「これから皆に裸も隠さなきゃならないのかぁ。
プールも入れないし、豪炎寺にはこれからも迷惑かけちゃうな」

「別にいい。
それに俺だけじゃなく鬼道もいるしな」

何気ない俺たちの会話に紛れ込んだ「鬼道」という一言が、途端に俺を凍りつかせる。
不意打ちだったから余計反応できない。


「鬼道と喧嘩でもしたのか?」

「はあ?」

突然固まってしまった俺に豪炎寺が掛けた言葉は予想外のものだった。
なんで知ってるのかと、変な声が出る。


「俺のせいか?」

しかも続けて問われたこの言葉。
マジで心臓が止まるかと思った。


「な…っ、な…っ、な…っ!」

俺が顔を真っ赤にして言葉にならない声を出していると、豪炎寺は困った顔で小さく笑う。


「昨日俺がお前の裸を見たから、鬼道に怒られたんじゃないのか?」

豪炎寺の言葉は昨日の経緯を示唆するものではなく、少し安心して俺は首を横にぶんぶん振る。


「そうか。
お前のことを一番心配しているのは鬼道だ。
あまりアイツに心配かけるなよ」

豪炎寺は立ち上がりそう言うと、俺の頭に手を置いた。
俺は言葉を出せる状態まで戻らないうちに、豪炎寺はそのまま帰ってしまう。
豪炎寺が何を言ったかなんて、焦っていた俺はさっぱり頭に入っていなかった。


 

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