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豪炎寺のクラスの手前で、鞄を持った豪炎寺と会う。


「聞きたいことがあるんだ」

俺はそう言うと、豪炎寺の手を掴む。

「こっち来て」

俺は豪炎寺の手を掴んだまま、もう一度走り出す。


部室まで戻ってきて窓から中を窺うと、まだ着替え途中の円堂とそれに鬼道が残っている。
ここは無理か。
俺は一瞬迷った後、もう一度豪炎寺の手を引く。


「ごめん、やっぱあっち」

俺が次に豪炎寺を連れて行ったのは、部室近くの宿舎。
俺が鍵を持っているし、二人きりになれて誰も来ない場所と言ったらここしか思い浮ばなかった。


宿舎の鍵を開け、中に入るとすぐ鍵を閉める。
これから俺がしようとしてる事を考えたら、他の誰かに見られる訳にはいかなかった。
宿舎の中は当たり前だけどシーンとして、少し篭った空気の匂いがした。
静謐な空気の中、食堂とか広い部屋の多い一階を通り抜け、無言のまま豪炎寺の手を引き二階に上がる。
そして、鬼道と何回か無断でHに使ったことのある部屋に向かう。


俺は代表に選ばれなかったから知らなかったけど、
そこはイナズマジャパンが宿舎にいた時、鬼道が私室として使っていた部屋だった。
俺はそれを知らずに豪炎寺をその部屋に連れ込んでいた。


「ここは…」

部屋に入り、豪炎寺は戸惑った様子で部屋を見渡している。
俺はそんな豪炎寺を後目にユニフォームを脱ぎ出す。


「見て」

俺が声を掛けると、豪炎寺が俺の方に視線を寄越した。
上半身裸の姿を豪炎寺にまっすぐ晒す。


「なあ、俺、ちゃんと男に見える?」


豪炎寺は裸の俺を見て一瞬、驚いたように目を見張った。
少し顔を染めた豪炎寺はすぐさま目を逸らしてしまう。
その態度は、さっきの染岡と一緒で、俺が男に見えないってはっきりと物語っていた。


「…やっぱり女に見えるんだ」

俺がそう呟くと、豪炎寺はもう一度俺を真剣な表情で見つめる。


・・・でも『男に見える』とは決して言ってはくれなかった。


「あーぁ、やっぱり豪炎寺もそっか!」

俺は醜く歪んだ顔を手で隠してベッドに寝転ぶ。
泣きそうなのを隠そうとした声はわざとらしい明るさに彩られていた。


「あー、もう俺、皆の前で堂々と着替えることも出来ないんだぜ。
鬼道もさ、『他の男の前で裸になるな』なーんて言うんだ。
バレるからってさー」

「…そうか」

顔を隠しているから、豪炎寺がどんな表情をして聞いているかは分からない。
憐れむような顔をされたら豪炎寺に八つ当たりしてしまいそうで見れない。
ただ、俺の一方的な言葉に豪炎寺が重々しく相槌を打ってくれただけでほんの少しだけ胸が軽くなる。


「なあ、胸があって、生理もあるのに、
俺のこと男だってお前今でも言えるか?」

俺は少し自嘲気味に豪炎寺に訊ねた。
胸が大きくなっても、今の俺には初潮の時みたいに倒れる程の衝撃はない。
それでも一人じゃ立ってられないぐらいにはへこんでる。
初めて生理になった時みたいに、豪炎寺に勇気づけてもらいたかった。


「お前は今でも本当に男でいたいと思っているのか?」

でも返ってきた答えは予想外のものだった。

「え?」

「俺にはお前が今までの男の姿に固執して、だいぶ無理をしているように見える。
自分の中の女の部分から無理矢理目を逸らしているように見える。
お前が望むなら、俺はこれからも皆にバレないように協力するし今まで通りお前を男として扱う。
だがお前自身はそろそろ自分の中の女の部分を認めてやってもいいんじゃないか?」


それは豪炎寺らしい真っ直ぐな言葉だった。


「…女を認める?」

「ああ、そうだ。
お前は確かに男だが、女の部分だって決してなくならずお前の中にあり続ける。
どちらもお前自身なんだ」

「どっちも俺自身…」


それは弱ってる今の俺には少し厳しい言葉だった。
俺が男なのは当たり前の事。
女の部分なんか無いって鬼道も言ってくれた。
そう信じてるはずなのに、心のどこかでそれが嘘だって知らんぷりしてるだけだってずっと気づいてた。
でもそれを認めてしまうには、俺は少し弱すぎた。
それを認めてしまうと、俺には都合の悪い事が沢山ありすぎた。
それでも豪炎寺の言葉は無視出来ない。
豪炎寺の言葉はいつだって迷っている俺に前進する勇気を与えてくれた。
いつだって俺を大事にしてくれた豪炎寺を無視するような事はしたくなかった。


「ほら」

豪炎寺が俺に脱いだままだったユニフォームを渡してくれる。

「他の男の前で脱ぐなと言われたんだろ?」

俺はユニフォームを受け取り着ながら答える。


「豪炎寺は知ってるんだから関係ないじゃん」

俺がユニフォームから顔を出すと、豪炎寺は苦笑を浮かべていた。


「これでは鬼道も苦労するな」

「はあ?なんで鬼道が苦労すんだよ」

「いや、何でもない」

さっぱり意味の分からない俺に、豪炎寺はまた少し笑ってみせる。


「豪炎寺」

そのまま部屋を出て行こうとする豪炎寺に声を掛ける。


「俺ちゃんと考えてみるよ。
一人になって考えたいから走ってくる。
円堂にはロードワークに行ったって伝えておいてくれる?」

これが今の俺の精一杯。
女の部分を認められるかどうかは分からないけど、せめて真剣に考える事位しなくちゃって思えた。
俺が真っ直ぐ豪炎寺を見つめて言うと、力強く頷いてくれる。


やっぱり豪炎寺に相談して良かった。
いつでも俺を正しい方向に導いてくれるのは豪炎寺だ。


俺は宿舎の外に出ると、簡単なストレッチする。
俺は今までずっと逃げてきた女の部分をちゃんと見つめられるようになるまで、帰らないつもりで走りだした。


 

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