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「豪炎寺!」
俺はいつものように昼休みに一緒に弁当を食べる為、豪炎寺のクラスにやってきた。
いつもの微笑で俺を迎える豪炎寺に向かって、応えるように笑いかける。
「なあなあ円堂。
売店で野菜ジュース買ってきて。
俺、鉄分足りなくてさ」
「自分で行ってこいよ〜」
パシらせようとした俺に嫌そうに円堂が言う。
「俺、昨日倒れたばっかだもん。頼むよ」
でも俺がそう言って頼むと、円堂は仕方なさそうに俺から金を受け取る。
やっぱ円堂は面倒見がいいなー。
円堂が教室から出るのを見送ってから、豪炎寺に向き直る。
「俺、鬼道から部室と宿舎の鍵貰っちゃった!」
さっき鬼道から貰ったばかりの鍵を俺はポケットから取り出す。
忘れない内にと、教室に戻る前に結局長いこと受け取り忘れていた鍵をやっと受け取った。
「ああ、昨日鬼道から聞いた」
驚くと思ったのに豪炎寺は眉一つ動かさない。
なんだよなー、鬼道のヤツ。
俺への連絡は遅いくせに、豪炎寺には速いって、なんか扱いに差がないか?
「なんだよな〜、俺が教えようと思ったのに。
まあ、いいや。
それでさ、鬼道がそこを使うときは鬼道か豪炎寺に言ってから使えって。
俺一人だと不安だからって。
アイツ俺のこと馬鹿にしてんだよな。
でさ、そーゆー訳なんでまたお前に迷惑掛けるかもしれないんだ。
ごめんな」
俺は豪炎寺に向かって手を合わせる。
「別にいいさ」
やっぱり豪炎寺は優しい。
迷惑ばっかかけてるのに嫌な顔一つしないで承諾してくれる。
俺はいつもそれに甘えてる。
……いつまでも甘えちゃいけない、よな?
「・・・なあ、豪炎寺。
俺さ、もう大丈夫だから。
もう一人で帰れるから。
今まで遠回りさせて悪かったな」
俺は豪炎寺に笑いかける。
もう大丈夫ってちゃんと豪炎寺に伝わるように。
もう豪炎寺に守ってもらわなくても、怖いものは何もない。
だって鬼ごっこはもう終わったんだから。
もう鬼だって怖くない。
それに……。
豪炎寺が一緒で、鬼が俺を迎えに来なくなったら、困るだろ?
俺がずっと怖いと思っていたのは、鬼でも鬼に捕まることでもなかった。
鬼道に触れられる度、俺の中で大きくなっていく女の部分だった。
俺は男でいたいのに、鬼道が触れると俺はたちまち女になってしまう気がして怖かった。
でも今日、鬼道が違うと言ってくれて、俺はそんな自分を男として受け入れることができた。
・・・それがどんなに歪んだ嘘だとしても。
だから今日で鬼ごっこは終わり。
だって鬼に捕まったら、食べられる訳じゃなく、自分も鬼になるんだから。
第二章 END
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