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*鬼道視点です



泣き叫んでいる半田を残して部室を出る。
ドアを閉めてしまえば、半田の鳴き声は微かにしか聞こえない。
まずは半田の荷物を取りに行くか。
俺は校舎の方へと足を向ける。
・・・豪炎寺に話をつけるのはその後だ。

俺は迷いのない足取りで半田のクラスへと向かった。



半田のクラスの入り口で、近くで机を寄せ合って弁当を広げている女子に声をかける。

「半田の席を教えてくれるか?」

俺がそう訊ねると場所を教えてくれるだけじゃなく、きゃあきゃあ言いながら御丁寧に席まで俺を案内してくれる。
いつもなら煩わしい女子のわめき声も今日は好都合だった。
半田の荷物をまとめだすと、俺の取り巻きと化した女子の一人が、俺の欲しかった質問をまんまと訊ねてくる。


「あれ、半田君どうかしたの?」

「ああ、さっき急に貧血で倒れたんで、俺の家の車で家まで送ることにした。
担任に伝えておいてくれるか?」

質問をした女子に向かって頼んだはずが、周囲にいた女子が全員で「まかせて!」と口々に騒ぎ出す。

これで、半田のクラスの根回しは終わった。



半田の荷物を手に円堂のクラスに向かう。

「円堂」

円堂と声を掛けながら、円堂と、円堂と話している豪炎寺に近づく。
二人が同じクラスで、これほど好都合だったことは今まで無かった。


「さっき半田が倒れた。
軽い貧血みたいだが、午後の練習は休ませて、俺の家の車で送っていく」

半田のクラスの女子にしたのと同じ嘘を吐く。
だが、あの女子連中相手よりもここでの嘘は信憑性が高い。


「えっ!?大丈夫なのか?」

最近の半田をよく知っている円堂は、俺の言葉を疑う事無く半田の心配をした。
疑う事を知らない円堂を騙している事に少しだけ罪悪感が疼く。
芝居ではなく、自然と俺の顔が苦いものへと変わる。


「ああ、大丈夫だ。
…ただ、ここ最近はそうでもないが、半田はずっと体調が悪そうだった。
だからあまり無理はさせたくない」

「そうだな。
アイツここんとこ休みも多いし。
本当に大丈夫なのか?」

「さあな。
本人は大丈夫とは言っていたが、本当のところは本人にしか分からん」

俺はそう言うと、黙ったまま俺の話を聞いている豪炎寺を見つめる。


きりっと吊り上った眉。
意志の強そうな瞳。
整った目鼻立ちに、すっきりとした口元。

―――半田が心惹かれている男。


「…なんだ?」

俺の視線に豪炎寺は如才なく気づき訊ねてくる。

「ちょっといいか?」

ここで話せる事ではないと、暗に示せば豪炎寺は無言で俺の後に従う。
俺は豪炎寺を人気の少ない廊下まで連れ出した。


「半田のことか?」

周りに人がいないのを確認した途端、豪炎寺が聞いてくる。
憎いくらい、本当に如才無い男だ。

「ああ。
今日、部室と宿舎の合鍵を作って渡した。
誰にもバレないように処理できる様にな」

「そうか」


豪炎寺はいつも多くを語らない。
そして余計な事は言わずとも、言いたいことは全て伝わっている。
俺は豪炎寺にまっすぐ向き直る。
頭の中に、愛おしそうに豪炎寺のいるドアに手を触れた半田が蘇る。


「豪炎寺」

「なんだ?」

声の調子の変わった俺に豪炎寺が訝しげに眉を寄せる。


「半田のこと、宜しく頼む」

豪炎寺に頭を下げながら、唇を噛む。
豪炎寺に頼るしかない自分が悔しくて堪らない。


「お前だっているじゃないか」

豪炎寺は俺に急に頭を下げられ、少し困惑したようだった。
珍しく取り成すような声色をしている。


「俺じゃ駄目だ。
…『お前』が、支えてやってくれ」



俺では駄目だ。
半田を追い詰めることしかできない。


あの日、最初はただの興味本位だった。
滅多に見れるものではないと、本当にただ見るだけのつもりでいた。
だが一皮むいた半田は、自分の女の部分に自分自身初めて気づいたように驚いて、俺の指に面白いくらい反応を示した。
それが楽しくて、もっともっと啼かせたくて、思わずやり過ぎた。
俺が触れる度に、どんどん女の部分を花開かせていく様子に止まらなくなった。
皆の前で見せている男の部分と、
俺にだけ見せる女の部分とのギャップに独占欲が涌いた。


もう、俺が触れた時だけ咲く華を誰にも見せたくはない。
この目の前の男にも。


でも、俺だけじゃ駄目だ。
俺だけではいつかアイツを枯らしてしまう。
俺の欲望で抱き潰してしまう。
だからコイツに頭を下げた。
アイツに笑顔を取り戻してくれた豪炎寺に。


本当はアイツのことを思うなら、完全に豪炎寺に渡してしまうのが一番良い。

でも、それはできない。
あんな可愛いコイツを手放すなんてできない。


俺は豪炎寺と別れ、部室のドアを開ける。

そこには、体中の穴から液体を垂れ流して俺のことを待っている半田がいた。


 

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