4*



「ふあッ、やぁ…ぁぁ…ッ!」

首に感じる鬼道の唇の感触だけで、俺の体は淫らに色づく。
これから与えられるだろう快感を期待して、身体は勝手に期待に昂ぶってしまう。
なんだこの条件反射。自分でも嫌になる。
鬼道がパブロフで、俺はその飼い犬?
わんわん、ご主人様だぁ!今から気持ちイイ時間だぁ!!って、そんなの冗談じゃない!!
首から這うように背中を伝う鬼道の舌から逃げるように俺は体をくねらせる。
鬼道の舌に好き勝手させたら、俺はすぐにぐずぐずの駄目な俺になってしまう。
少しでも快感から逃げようと縋る場所を探したのに、味も素っ気もない普通のドアにそんな便利な機能なんてない。
へたり込まないようにドアに手を付き、体ごと押し付け自分の身体を支える。
愛撫もそこそこに背後から宛がわれる鬼道の欲望の印。


「ちょっと待て!
お前まだ着けてないだろ!?」

俺はコンドームを着けた様子のない鬼道を必死で押し止める。
初めての時に俺が中に出されるのをすごく嫌がって以来、鬼道は俺とする時は必ずコンドームを着けてくれた。
嫌がることはしないと言った鬼道との暗黙の約束だった。


「何を言ってるんだ、着けたら罰にならないだろう?
お前を喜ばすだけじゃないか」

だけど鬼道は嫌がる俺に構うことなく、腰を押し付けてくる。
むき出しの欲望はゆっくりと俺の中に沈んでいく。


「ンッ!…はぁッ、ん」

俺の心は中で出される恐怖でいっぱいなのに、俺の体は久しぶりに感じる感覚に喜びの声をあげる。
俺の中を隙間無く埋めるソレが逃げていかないように締め付けて離さない。
直に感じる自分以外の粘液にいつもより感じてしまう。


「ん、くッ!…はぁッ、…はッ」

なんで…?なんで今日はこんなに気持ちイイんだよ。
短い呼吸を繰り返し、すぐにでもイってしまいそうな快感を必死で逃がす。
少しでも油断すると一気に持ってかれそうだ。
久しぶりだから?
いつもと違って生だから?
……分かんない。
鬼道が切羽詰った動きで、最初からガンガン俺を攻めてくるのが堪らなく気持ちイイ。
俺と同じぐらい荒くなってる鬼道の息が背中に掛かるだけで、俺はジュンッて奥から快感の証拠で濡れてしまう。
身体全体で悦んでしまう。


気づいたら俺はいつもの俺になってしまっていた。
わんわんって尻尾を振って悦ぶ鬼道のワンコ。
ご主人様が構ってくれるのが嬉しくて、ご主人様が喜ぶと自分も嬉しくなっちゃう、そんなワンコ。
気持ちイイと全部忘れて、俺は飼い慣らされた犬みたいに簡単に鬼道の与えてくれる快楽に夢中になってしまう。
そんな時に突然、俺が凭れているドアのノブがガチャガチャと動きだす。
はっとして鬼道に振り返ると、鬼道も驚いたように眉を寄せている。


「おい、半田。中にいるなら開けてくれ」

豪炎寺の声だ!
昼休みにいつも豪炎寺のクラスにお邪魔する俺が、何も言わず急に来なかったから探しに来てくれたんだ。
今日だって別に約束してないのに。
いつもだって俺が勝手に押しかけているだけなのに。
こうやって豪炎寺は探しに来てくれた。
胸にジーンと温かいものが広がって、泣きそうになる。


「おい、本当にいないのか?」

ドンドンとドアを叩いている衝撃が、内側の俺に直接伝わる。
裸の胸に直接響いてくる。
本当にこのドア一枚隔てた向こうに豪炎寺がいるんだ。


俺のことを呼んでいる豪炎寺に応えたい。
心配してくれてありがとうって、すぐにでも駆け寄りたいのに俺の置かれている状況がそれを許してくれない。
それどころか、豪炎寺に気づかれないように息を殺していなければならない。


俺は応える代わりに、ドンドンと豪炎寺が叩いている辺りに
自分の手をそっと重ね合わせた。



ドアを叩く音が止み、足音が遠ざかる気配がすると鬼道がまた動きを再開する。
俺はぎゅうっとドアに縋った手を握り締める。
いつもは簡単に俺を翻弄するはずの動きなのに、今の俺はさっきのショックで何も感じないですんだ。
たったドア一枚しか離れていなかったのに、俺と豪炎寺はこんなにも違う。違いすぎる。
豪炎寺に声を掛ける事も出来ないのは、俺がこんなだからだ。
ほとほと自分自身に嫌気が差した俺は、自己嫌悪で鬼道が中で動く度に吐き気さえする。


早く終われとそれだけを考えて目を瞑っていると、ずるりと鬼道が抜け出るのを感じた。


「鬼道……?」

俺の怪訝そうな声には答えず、鬼道は俺の肩に手を置き、俺の向きを無理やり変える。
向かい合うと顔が近くにあってそれだけで呼吸が止まる。


「俺を見ろ」

「え…?」

ゴーグルの奥に目が透けて見える。
その燃えるような瞳から目が離せない。


「今、お前といるのはこの俺だ。
俺以外のことを考えるのは許さない!」

あ…、あ…、瞳が近づいてくる…!
鬼道は俺をドアに押し付けるように乱暴に抱きしめると、片足を抱え一気に奥まで貫いた。


「くぅぅッ!」

俺の体の中に入ってきたソレは熱くて熱くて、冷えた俺の心にもう一度熱をもたらす。
鬼道の燃えるような瞳が、俺を狂わす。


鬼道が俺の中から自分以外の全ての物を吹き飛ばすみたいに激しく動くから、その激情に自分を見失わないようにするのに必死だ。
鬼道の瞳が俺をおかしくさせるって分かってるのに、視線が逸らせない。
俺が倒れないように鬼道の首に縋り付くと、顔がさらに近くなる。


「きどぉ…ッ」

俺が名前を呼ぶとさらに顔が近づいてくる。

あ、キスされる。
…そう思った瞬間、顔が背かれ、俺の奥に鬼道の欲望が吐き出されたのを感じた。
プスプスと燻るようなはっきりしない想いだけを俺に残して、熱に浮かされた時間が終わる。



鬼道は終わってしまうといつも、さっきまでが嘘みたいにすぐ体を離す。
なのに今日は俺を抱きしめたまま動かない。
俺の肩に顔を埋めているから表情も見えない。


「鬼道?」

俺が声を掛けると、鬼道の身体がビクっと強張る。

「どうしたんだよ?」

「…怒らないのか?」

「変だぞ、お前」と続けようとした俺に、被せるように鬼道が低い声で聞いてくる。
…ああ、そういえば中に出されたんだ。


「勿論怒ってるに決まってるだろ。
でも、お前がそういう態度してると、そっちの方が気になるっていうか…。
なあ、もしかして本当に俺らのことバラそうって思ってるのか?」

俺は鬼道の背中にそっと手を回す。
でも俺の手が鬼道に触れるよりも早く、鬼道は俺から体を離した。
鬼道が抜けると、こぷっと濁った音が立ち、中から鬼道が出した白い粘液が俺の足を伝う。
急な喪失感と粘液の感触に、俺はその瞬間、鬼道ではなく自分の足に視線を落とした。


「中出しが罰にならないなら、何か他の罰を与えないとな」

俺が自分の足から顔を上げたとき、鬼道は自分のロッカーから何かを取り出しているところだった。
鬼道は俺を裸のまま椅子に座らせると、足を左右に割る。


「これ、なんだか分かるか?」

鬼道が俺に見せた物、それはピンク色のローターだった。
それを俺の愛液と鬼道の精液とでぐちゃぐちゃのアソコへ、ぐっと押し込む。
すぐ取り出されたソレは、てらてらと鈍い光を反射させてる。


「な、何すんだよ…?」

鬼道は罰と言っていた。
なのに、すぐ俺の中から取り出されたソレ。
ずっとソレで俺を責め続けると思ったのに、そうじゃないんだったら俺には他にソレの用途が思い浮かばない。


「そっちじゃなくこっちに入れるんだ」

そう言ってもう一度入れようとしたのは、俺の後ろの穴だった。


「や、やだってばぁ」

そんな場所、直に触るとか見られるってだけで恥ずかしいってのに、鬼道はHなおもちゃを入れようとしてる。
俺は足を閉じてそれを防ごうとした。
でも鬼道の腕は俺の太腿に挟まれて、その場所が見えなくなっても蠢き続ける。
濡れぼそったソレは俺たちから見えないところで、ぬっぽりと俺の中へと違う穴から嵌まってしまう。
本来出すべき所に入れられ、止め処ない排泄感が俺を襲う。
取り出したいのに、上から肩を押さえられそれもできない。


「良い様だな」

鬼道は俺が羞恥でモゾモゾと身動きするのを確認すると、ロッカーから取り出したもう一つの物、手錠を俺に見せつける。
ファーの付いた明らかにプレイ用のそれで、俺の両手を椅子の背もたれに繋いだ。
おもちゃの手錠なのに効果は絶大で、俺は身動きが取れなくなってしまう。


「は、外して、鬼道」

俺は必死に鬼道に頼む。
徐々に慣れ始めたローターが排泄感だけじゃなく緩い快感を産みはじめてきた。
じん…、じん…って、身体が違和感を快感だと穏やかに判断しはじめてきた。
このままじゃまた俺の身体が変わっちゃう。
もうこれ以上新しい快感なんて知りたくない。


「あまり大きな声を出すなよ。誰か来るかもしれないからな」

でも、そんな俺をあざ笑うように一瞥すると、俺を置いて部室を出ていってしまう。
豪炎寺と俺を隔てたドアの向こうに、鬼道だけが行ってしまう。


……永遠に思える責め苦が始まった。


 

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