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「なんだそんな事か。
そういう事はもっと早く言え」

「ッ!!」


俺が言いたくても情けなくて言えなかった本音をとうとう言ってしまったっていうのに、鬼道は何の感慨もなくこう言い退けた。
ひっどーーーッ!
どうせ鬼道には分かんないよおお!!
俺みたいなどう足掻いても一般人にしかなれない人間の気持ちなんてッ!!
これでも色々考えて悩んでるのに酷いよッ!!


「そんな事、じゃないよッ!!
あれ見て俺がどんだけ傷付いたか、お前には分かんないだろ!?
俺なんてお前がイタリアに行ってからずーっと一緒に住んでたのに、ああいう風に書かれた事無かったじゃん!!
やっぱり俺じゃどんなに頑張ってもお前の彼女になんか見えないんだよ!!」


積もり積もって山になった不満が、ついに噴火したみたいだった。
ぶっちゃけて言うとさ。
こういう不安は昔からあった。
俺なんかが鬼道の彼女でいいのかなーって。
まこちゃんもさっき言ってたし。
『釣り合いが取れない』って。
高校の時なんか中学の時まで男として過ごしてた俺が急に『鬼道の彼女です』って女の格好しだしたもんだから、
鬼道のファンの子から「オカマ」とか「男女が色目使うな」とか面と向かって悪口言われたりとかあったし。
そん時は鬼道に相手にされない僻みだって考える事が出来たし、気にしないようにしてた。
でも、さ。
そういう一度チラリとでも考えちゃった不安って無くなったりしないんだよな。
あの記事はそういう僻んでる女の子以外の、俺個人に何の悪意も無い世間一般の人さえも俺が鬼道に相応しくないって感じてるって言ってるみたいだった。

その突きつけられた事実に、怒ってるはずなのに何でか涙が止まらない。


「お、俺なんか、より…っ、お前には、ちゃんとした、お、女の子の方が…っ、相応しい、って…俺……ッ!!」

涙に濡れた俺の視界で、鬼道が一歩俺に近づく。
苦々しげに寄せられた鬼道は小さく溜息を付くと、何かを言いたげに口を開く。


「あのっ!……大丈夫、ですか?」

でもそれよりも先に背後から、まこちゃんの戸惑った声がした。
振り向こうとした俺を泣き顔を隠すように鬼道が俺の肩を掴んだ。


「ああ、大丈夫。
それより子供達には悪いが休憩はもう暫く先でもいいか?
話が終わったら呼ぶから」

鬼道の言葉を聞きながら、自分の肩越しに視線だけをグラウンドに向けると、チームの子供たちも俺達が喧嘩しだした事にざわついてる。
……子供にまで心配かけて何やってんだ、俺。


「悪……」

少し頭の醒めた俺は、それでももう少し落ち着く時間が欲しくてまこちゃんにチームを頼もうとした。
「悪いけど、もうちょっと頼むね」って。
でも「わ」って声に出した瞬間に掠れた声しか出ないのに気づいて、口篭ってしまう。


「半田……」

鬼道が俯いて口篭った俺の肩を掴んだまま、グラウンド脇のベンチに誘う。
俺は大人しくそれに従った。
子供達に泣き顔なんて見せられない。
大人としての最低限の分別が、俺にそうさせた。


だけど大人しく鬼道に肩を抱かれてしまうと、その場所が随分と居心地がよくて、俺は止めようとしていた涙を更に溢れさせてしまった。
みっともないよなぁ、小学生の前でこんなの。
そう思うのに、涙は止まる気配さえない。


あー…、こんな事なら寂しいって思う事まで我慢するんじゃなかった。


止まらない涙に、今更ながらに鬼道と離れていた寂しさを感じていた。
それから鬼道がすぐ隣で守ってくれる、その嬉しさも。


 

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