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「豪炎寺!」

「なんだ半田、また来たのか」


俺が豪炎寺のクラスに行くと、円堂が呆れたように声をかけてくる。
またって、昼休みに一緒に弁当食べる時に来てからもう三時間以上経ってるじゃんか。
6限休みには来なかったんだから、「また」とか言うなよな。


「いいだろ別に。
部活一緒に行こうと思って寄っただけなんだからさ」

唇を突き出して円堂に文句を言うと、俺は豪炎寺の腕を引っ張った。

「な、早く行こうぜ!」

豪炎寺は何も言わず、やれやれといった表情で少し苦笑すると立ち上がる。
ここ最近、毎日見る、見慣れた顔だった。


最近の俺は豪炎寺から離れることができない。
だって豪炎寺と一緒にいれば、鬼が捕まえに来ない。
どんどん変わっていく自分に悩まなくてすむ。
豪炎寺は、俺の体の事を知っても、俺がどんなに我侭言っても変わらない態度で接してくれる。
そんな豪炎寺と一緒なら、俺は以前までの俺でいられた。
普通の男子中学生である半田真一のままで。



豪炎寺と毎日一緒に帰るようになって、鬼に捕まらないまま一週間が過ぎた頃、
昼休みに俺のクラスに鬼道が訊ねてきた。
鬼道は俺のクラスの入り口のとこで、近くの女子に話かけている。
それだけでも、視界に入ったってだけで久しぶりに部活以外で見る鬼道の姿に体が固くなる。


「なんか渡したい物があるから来てくれだって」

鬼道と話してた女子は伝言を頼まれたのかまっすぐに俺に向かってきた。
女の子の背後で、入り口のところから鬼道が俺を見つめてる。
俺は負けないように鬼道を睨み返す。
伝言を頼まれた女の子の手前、逃げる訳にもいかない。
まさかこんな大勢の人間がいる前で何かするわけないっていう情けない算段の元、俺
は渋々ながら鬼道と向かい合う。


「元気そうだな」

ハッ、しらじらしい言葉。
鬼道の言葉を無視して、俺はさっさと本題に入った。


「…なんだよ、渡したい物って」

「ここには無い。部室にあるから一緒に来てくれ」

ハッ、やっぱそう来たか。
どうも鬼道と一緒だと気分がやさぐれちゃってしょうがない。
俺は柄悪くそう心で悪態を吐くと、キッと鬼道を睨みつける。


「何かも分からないのに、一緒に行くわけないだろ!」

もう話は終わりとばかりにそう言い捨てると、俺は踵を返した。
少しでもコイツと一緒に居たくなんかない。
それなのに立ち去ろうとした俺の腕を鬼道が掴む。


「部室と宿舎の合鍵だ。
お前、雷門に言うつもりはないんだろ?
そこだったら誰にも知られず処理できるはずだ」

辺りを憚るように小声で告げられた言葉に、俺はハッとして脚を止める。
鬼道とのことに気を取られてすっかり忘れていたけど、今はもう月末だ。
いつ生理が来てもおかしくない。
というか、いつもより遅れている。


「忘れてた」

俺がそう呟くと、鬼道が呆れたように頭をコツンと叩いた。

「だと思った。ほら、さっさと一緒に来い」

「……でも」

合鍵は確かに欲しい。
それがあれば生理なんてツマラナイ事で学校を休まなくてすむ。
でも、二人っきりになったら十中八九ヤられるに決まってる。
迷う俺に鬼道がニヤリと笑う。


「だったら豪炎寺でも呼ぶか?
…俺とのことバラしてもいいならな」

低い声で俺に言う。
顔は笑っているけど、その声は怒っているときの声だ。
経験上、この声のときは何をするか分からない。
豪炎寺に言ったりしたら鬼道だってダメージでかいと思うけど、俺なんかじゃ思いつかないような言い逃れを鬼道はもう思いついてるのかもしれない。
そう思うと俺には鬼道の本意が判断つかない。
本当にバラすつもりかもしれない。


「……分かった」

俺が俯きそう言うと、いつものように鬼道は俺の頭を撫でた。



部室に着き、鍵を閉めると途端に俺に向かって鬼道は言い放つ。


「脱げ」

二人っきりになってしまうと逆らうこともできない。
それでも俺はせめてもの抵抗とばかりに、のろのろとした動作で一枚一枚制服を脱いでいく。
鬼道はそれをドアに凭れてチェックするように見つめている。
俺が全裸になってしまうと、ゆっくりと俺に近づいてくる。
ぐるりと俺の周りを回って俺の体を観察してくる。


「…なんだよ?」

久しぶりに対峙する鬼道の行動を俺は訝しんだ。
いつもみたいに脱いだらすぐ始まると思ったのに、いつもと違う鬼道の態度が不気味でしょうがない。
俺が訊ねると、鬼道はやっと俺の体から目を逸らす。


「いい子にしていたようだな」

「だからぁー、さっきからなんなんだよ!?」

鬼道の行動はさっぱり訳がわからない。
俺がイラだってそう聞くと、鬼道はもう一度俺の頭を撫でる。


「お前が元気になって良かった」

はあ!?なんだよ、それ!!
お前のせいで元気失くしてたっていうのに、それをお前が心配すんなよ…。


時折見せる鬼道の優しさは、いつだって俺を混乱させる。
今だって優しい顔して俺の頭を撫でる鬼道にどんな顔していいか分からない。
俺に触れる鬼道の手の中で、この頭を撫でる手だけはどうしても憎みきれない。
勝手に胸が苦しくなって、俺は慌てて鬼道の手を振り解く。


「お前がこんなことしなけりゃ、ずっと元気だったよ!!」

俺が跳ね除けるようにそう言うと、微かに浮かんでいた優しい笑みはすぐさま消えてしまう。
代わりに浮かんだのはいつもの薄笑い。


「そうか…、それは悪かったな」

撫でていた髪を引っ張ると、俺を無理やり入り口のドアに押し付ける。
そしてそのまま背後から俺の首筋に顔を埋める。

それは決して俺の唇にキスしない鬼道の始まりの合図。


 

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