14



ずっと聞けなかった質問を、今、してる。

土門の質問に、俺は耳を塞いでしまいたかった。
聞きたくて、でも聞けなくて。
結局何も聞かないまま、俺は一人で選んでしまった。
今更もう、一之瀬の答えなんて聞きたくなかった。

でも俺が強張ってしまった手で耳を塞ぐよりも前に一之瀬は口を開く。


「ん?そんなの決まってる。
半田の好きな方」

一之瀬はそう即答すると俺に向かってにっこりと笑った。
それは昼休みにどこで食べるか聞いた時となんら変わらない見慣れた笑顔だった。
どっちのクラスで食べるかって聞くと、いつも一之瀬はにこにこしてそう言っていた。
半田と一緒ならどこでもいいよ、って。

これはそんな簡単な話じゃないのに。
俺が男を選んだら、俺たちは終わりだろ…?
男同士の恋愛なんて、誰も祝福してくれないのに。
どうしていつもと変わらない答えを言ってくれるの…?


「俺が男がイイって言ったら、お前どうすんだよ…?
もうっ、お終いになっちゃうじゃないか…っ。それでもいいのかよっ!?」

一之瀬はそれでも笑顔を崩さなかった。

「それで半田はずっと『もう無理』とか『もう駄目』とか言ってたんだ。
馬鹿だな、半田は。
そんな事じゃ終わらないよ。
俺はもうとっくにそんなの悩む段階超えちゃってるし」

そう言うと一之瀬は強張った俺の手を自分の胸元から外した。

「半田も早く覚悟決めちゃってよ。
それとも女じゃない俺じゃ、半田は嫌?」

「そんな事っ!
一之瀬はずっと一之瀬じゃないか!
一之瀬が女だったらとか、そんな事考えたことも無い!」

握られたままの手。
一之瀬はすぐ否定した俺を愛おしそうに目を細めた。


「うん。俺も一緒。
俺も半田はずっと半田だよ。
今までもこれからも半田はずっと『俺の可愛い半田』だよ」

それから一之瀬は俺の事をふんわりと抱きしめた。
さっきまで握られてた手は下がったまま。
手という邪魔がない分、さっきより一之瀬に近い。
力は込められてないのに一之瀬と密着する。


…いいのかな?
この手を一之瀬の背中に回して。

俺は一之瀬の気持ちを裏切って忘れようとしてたのに、まだ一之瀬の胸に居ていいのかな?


そんな図々しい事を本当にしていいのか少し困って一之瀬を見る。
それから土門も。

俺が見ると一之瀬はいつもみたいににっこり笑って、
土門はニヤって笑って頷いた。

それは二人ともすごく簡単であっさりとした許しだった。
…簡単にあっさりと許せるぐらい、前から俺の全てを受け入れてくれてたんだって気づいたぐらい。


二人が俺の心を大きくて柔らかいもので包んでくれているみたい。
じんわりと心が暖かくなる。
下ばっかり向いていて自分の手元しか見えていなかった俺は、こんな大きくて暖かい物に包まれていたなんて見えてなかった。

それはすごく大きくて俺が少しぐらい変わっても大丈夫なんだって思えた。
もし少しぐらいはみ出したって、それでも暖かい。
そう、思えるぐらい二人は大きい包容力で俺を包んでくれていた。


俺、…すごい幸せ者だ!

気づいたら俺は一之瀬の背中に手を回していた。


「一之瀬ぇ〜っ」

「うんうん。
ずっと一人にして、ごめんね?」

子供みたいに俺はぎゅーっと一之瀬に抱きついて泣いた。
ぽんぽんってあやすみたいに一之瀬が俺の背中を叩く。
一之瀬の手も声も何もかもが優しくて、俺は漸く実感が湧いてくる。


ああ!本当に失わなくて良かった。
俺、ここに居てもいいんだ。
一之瀬の事、好きでいいんだ。

そう思うと、嬉しくて、喜びが全身を駆け巡る。
大声で好きって叫びたい!


「一之瀬っ!」

なんだか顔が見たくなって、背中に回していた手を首に回す。

あ、顔が近い。
久しぶりに見た、一之瀬の顔はほとんど変わっていないはずなのに、なんだか凄く格好良くみえる。
あれ?一之瀬ってこんなに格好良かったっけ?
一度意識しちゃうと、俺の体に回ってる手なんかも前よりも逞しくなってる気がしてドキドキしてくる。
リハビリで筋トレ頑張ったのかな?
やばい…。すごい…ドキドキする…。

顔が見たかったはずなのに、あまりの近さに顔なんて見れずに俺は顔を俯かせる。


「あれ?もしかして俺の格好良さに惚れ直した?」

「まったく半田は相変わらずだなー」

一之瀬と土門のいつもと変わらない言葉が俯いた俺の耳に入ってくる。
一之瀬の腕と、俺の頭を上からぽんぽんと叩く土門の手。
変わらない反応に変わらない二人。
変わったのに、変わらない二人。

俺はもう一度、自分から一之瀬にぎゅっとくっつく。


本当に俺、ここに居てもいいんだ!


 

prev next





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -