8



俺は土門に
一之瀬と離れて少し無理をした事、
体の異変は全部ホルモンの不足という俺の特異な体が原因である事、
男と女のどちらの治療を受けるか決断出来ないでいる内に豪炎寺と怪我してしまった事、
そしてそれを親に責められていた事を話した。

泣きながら。

我ながら卑怯だと思う。
今までだって沢山泣いてきたんだから、今日ぐらい我慢すればいいのに。
こんな風に泣いたりしたら、土門がこれ以上俺の事責められないって簡単に想像できるのに、縋って泣いたりして。


どんなに自分が可哀想だったんだよって言葉を重ねてみたって、俺が一之瀬を選べなかったのは変えようのない事実なのに。



「もう…無理なんだ。
土門も見ただろ?俺がサッカーしてるとこ。
……そういう、事なんだ」


決断を決めたのは些細な事だった。

引退後に久しぶりに皆で部活に顔を出そうってなって。
俺は少しでも今の状況を忘れてたくて、無茶を承知でそれに参加した。

円堂は相変わらず熱血で、すぐ息の切れる俺に「だらしないぞー!がーんと行け、がーんと!!」って擬音満載の感覚指導をした。
染岡はミスした俺の後頭部を叩いて「おいおい、お前そんなんじゃ一年の時と変わんねーじゃねぇか。元に戻るの早すぎんだろ」ってほんの少しノスタルジックな発言をした。
そして豪炎寺は練習の途中で俺の隣を通り過ぎる間際に「怪我、治ったばかりなんだから無理はするなよ」って俺の肩にぽんっと手を置いた。

なんだか久しぶりにちゃんと息が出来た気がした。


練習参加後に、皆で雷雷軒に行こうってなって、俺も晴れ晴れとした気持ちでそれに参加した。
そこで皆の近況の話をしてたのが、風丸の一言がきっかけになって恋愛の話題になった。


「そう言えば円堂、結局お前雷門と一緒に勉強してるんだろ?」

「えっ!?…あー、うん。そういう事になった!」

風丸のどこかからかうような言葉に、円堂は少しだけ照れて口篭った後、いつものようにニカッて笑った。
ほんの少しだけ頬を染めた円堂が新鮮で、皆が目を見開いて円堂を見詰めた。
俺だけじゃなく、皆が円堂と雷門の関係が少し変化したって事実に気づいたんだと思う。


「一緒の高校、行きたいからさ!」

円堂が照れくさそうにそう言った直後に、雷雷軒はガラスが割れるんじゃないかってぐらいの喚声に揺れた。

「ええーっ!!??」


その後はもう大変だった。
目金が「ええっ!?おっお付き合いしてるって事ですかぁ!?」って泡食って問いただしたり、
染岡が「おーっ、良かったじゃねぇか!」ってバシバシ円堂の肩を叩きまくったり、
マックスがぼそっと「円堂、尻に敷かれるの確定だね」ってニヤってしたり。
円堂は皆に何を言われても、ずっと照れたように笑ってた。
「まだ付き合ってるとか、そういうんじゃないんだ」って言いながらも、明るい予感を胸に抱いてる事は間違いなかった。
迷いなんて少しも無かった。

俺はそれをぼんやりと見ていた。
なんか、こういうのいいなって思いながら。


堂々と自分の恋心を言うとこも、
からかわれながらも皆が上手くいくことを祈ってる感じも、
なんだか見てて心がほっとするというか、安心出来た。

どうしようもなく、羨ましかった。


こんな恋が出来てたら、うちの母親も泣いたりなんかしなかったんだろうなって思ってしまったら、もう駄目だった。
ぐちゃっとした感情が溢れてきて、素直に円堂を祝福なんて出来なくて、俺は慌てて席を立った。
この和やかムードを壊したくなくて、適当に嘘を吐いて店を出た。

そしたら様子がおかしかった俺に気づいてくれた豪炎寺が追いかけてきてくれて。
泣いてる俺の腕を掴んで心配そうに「どうした?」って聞いてくれた。


その手が凄く暖かかったのが決断の決め手。


こんな風に心配してくれる豪炎寺も、俺の一之瀬への恋心を知ったら離れていくんだろうなって思ったら何も言えなかった。
あんな風に質問攻めにあうことも、「良かったな」って言ってもらうことも、からかわれる事さえ無く、
関係が気まずくなるのはまだ良くて、
下手すると「気持ち悪い」とか「ゲイ」とか悪口言われて敬遠される可能性だって高い。


俺がちゃんと息出来るのは皆と居る時だけなのに、
それさえ居なくなってしまったら俺は息さえ出来なくなってしまう。


多分、久しぶりのサッカーと円堂の恋愛話が違う日だったら決断出来なかったと思う。

でもそれは同じ日で、サッカーの楽しさはまだ俺の中でリアルに息づいていた。
それとその楽しさを一緒に彩った仲間も。


豪炎寺が何も言わないで俺に自分のタオルを差し出してくれた瞬間、一之瀬からの電話が遠くなった気がした。
そしてそのタオルを受け取った時、俺はもう決めていた。


――「男」として治療を受けることを。


 

prev next





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -