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俺と一之瀬が一緒に居られた時間なんてほんの短い時間だった。
一之瀬は嫉妬深くてすぐ喧嘩もしたけどそれさえ楽しくて、
くすぐったいぐらい一之瀬に大切にされて、こんなに幸せでいいのかなって思うぐらい毎日がキラキラしてドキドキしてあっという間に過ぎた。

でも、その思い出に縋るには、少し短すぎた。




俺達が付き合いだしてすぐ、一之瀬はアメリカチームから召集された。
初めて開催されるFFIに参加する為だ。
俺の周りには日本代表候補がいっぱい居て、アメリカチームって事で予選の分だけ早く離れ離れになってしまうけど、
それでも皆と一緒に一之瀬も日本に帰ってくるはずだった。

一時的な事だと思っていた。

だから「すげぇ!」って、「良かったな!」って、「おめでとう!」って、いっぱい喜んだ。
一之瀬のプロサッカー選手って夢を知っていたから、その夢に一歩近づけたと思って自分の事のように嬉しかった。
ずっと体の変化を恐れて拒んでいた二回目を、
一之瀬に何回誘われても拒んでいた二回目を「お祝いだから、いいよ」ってついに許したぐらい嬉しかった。
離れる事に一抹の寂しさは確かに感じてはいたけど、口にしたのはその時の一度だけだった。
見送りの時も「アメリカが日本と戦う時は日本応援するからな」って笑って手を振った。


だってすぐ帰ってくると思ってた。


一之瀬は大会で実力どおりの活躍をして。
「世界のイチノセ」とか「フィールドの魔術師」とか呼ばれちゃって。
俺はそれをTVの前でどこか誇らしい気持ちで見守るんだ。
「内緒だけど、このすっごい人、俺の彼氏なんだぞー。俺にメタ惚れなんだぞー」って。
それで日本とアメリカが戦う時も、皆と日本を応援してるフリして心の中では一之瀬の応援しちゃうんだ。

って、そう思ってた。


でも、実際にそのとおりだったのは途中までで。


結局一之瀬は日本に帰ってくる事は無かった。



連絡を貰ってなんとかアメリカに行くことは出来た。
手術の時も、その前後も付き添う事は出来た。
それでも長く傍に付いている事は出来なくて。
離れたくないって幾ら泣いたって、日本の普通の中学生の俺にはどうにも出来なくて。
手術は成功したって言われても、あんな状態の一之瀬と離れるのは凄く辛くて、馬鹿みたいに泣いた。

日本に帰ってきて、一人になってまた泣いた。
時差と入院中って事で、電話も少ししか出来なくて不安と寂しさで何度も泣いた。


一人でいるとすぐ色々考えて泣いてしまうから、日本に戻ってからの俺は必要以上に部活に入れ込んだ。
部長代理として部員勧誘して、監督も円堂もマネージャーも居ないから俺が練習メニュー考えたり、
練習が終わったらFFIの試合スケジュール表を見て保護者に連絡を取りつつ応援プラン練ったり。
ビデオレターも横断幕も、作ってる時は泣かないですんだ。
一之瀬の分もイナズマジャパンには頑張って欲しいって心から思った。


そうやって無理したのが悪かったのか、
それともその時がきたってだけなのか。


皆が世界一になって戻ってきて、
部活に部長も監督もマネージャーも揃って俺のするべき事が無くなった時、
それまで張り詰めていた気が抜けたのか俺の体は急激に内側だけ変化していった。


まず、ずっと止まっていた生理がまた始まった。
それに酷い貧血で、体はいつもダルくて疲れやすくなっていた。
病院での定期健診でも、治療を始めた方がいいって言われるようになった。

治療について俺一人では決断しきれず、その事を一之瀬に相談しようか悩んでぐずぐずしていた時だった。

俺が怪我をしたのは。


豪炎寺には本当に悪い事をしたと思う。
豪炎寺は普通にプレイしていただけなのに、ディフェンス相手の俺が激しい動きで貧血性の急な眩暈を起こし接触した。
それでも相手が俺じゃなかったら、あんなの大した事なく済んだはずだったのに。

俺はそんな接触でも骨を折った。

接触も怪我も全部俺に原因があるのに、俺はそれを豪炎寺に説明出来なかった。
俺の怪我を豪炎寺が凄く気にしているのを気づいていたのにも関わらず、
ただ「俺が悪いんだから、気にすんな」って言葉だけで笑って誤魔化した。

だって言える訳がない。


「貧血も、簡単に骨が折れたのも、俺の慢性的なホルモン不足のせいなんだ。
本当は早く治療を始めなきゃいけないのに、俺が男か女どちらか一つを選べずにぐずぐずしていたからこんな事になったんだ。
ごめんな、豪炎寺」

……なんて。


 

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