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*土門視点です
「骨折ぅ!?」
思わず半田の言葉を反復してしまう。
だって骨折なんて重傷だったなんて思わなかった。
想像以上に「たいしたこと」あった。
「なんだってそんな怪我黙ってたんだよ!?」
俺の責めるような言葉に半田の顔が歪む。
でも、俺だって「なんで?」だ。
なんでそんな大変な怪我黙っていたんだ?
なんで骨折を大したことないなんて言ったんだ?
半田に骨折させたなら豪炎寺じゃなくったって気にするのは当たり前だ。
豪炎寺が半田の脚を必要以上に気にする事も、半田の特訓に付き合った事も骨折の事を黙っているよりも納得しやすかった。
一之瀬だってあんなに激昂しなかったはずだ。
素直に言ってくれてたなら、ここまで話は拗れてなかった。
「一之瀬に心配掛けさせたくないってのは分かるけど、俺にぐらい言ってくれても良かったんじゃね?」
語尾は弱めたものの、俺の口からはどうしても半田を責めるような言葉が出てしまう。
「なんとなく」で終わってしまうような存在か?俺って。
少しばかり面白くないのは確かだ。
「だってお前に言ったら絶対一之瀬にもバレるじゃんっ!?」
だが、半田から返ってきたのも、俺を責める言葉だった。
「お前、一之瀬に隠し事しないじゃん!
なんだって二人で話すじゃん!」
「……」
「土門は俺じゃなくて一之瀬の味方だろっ!?
言える訳ないだろ!!」
「〜〜〜ッ」
俺を睨んで半田が怒鳴る。
俺は図星を差され、頭を掻き毟りたい気分だった。
それは確かにそうで、一之瀬が悪いんだろうなって予想している今日でさえそんな思いで半田の家に来ていたのだから。
俺と一之瀬は昔っからの親友で。
アイツがどんなに馬鹿で勝手な奴でも俺にはやっぱり大切なヤツなんだ。
だから心のどっかで思ってた。
――こんな些細な事で一之瀬を振るなんて許せない。
納得できるような理由が他にあるんだろ、って。
半田の事を気遣うふりして最初っからどこか半田の事を責めていた。
半田が何か隠している事は気づいていたのに、それを暴こうとしたり半田の逃げ道を塞いでみたり。
……俺はどうしようもない馬鹿だった。
半田だって俺の友達に変わりないのに。
そこまで考えて、俺は我慢しきれず後頭部を掻き毟る。
顔を上げると、まだ赤い目で俺を睨んでいる半田がいる。
こんな半田を痛々しいと思ったのも確かなのに。
「半田」
俺は立ち上がりながら半田の名前を呼ぶ。
俺の声は半田に優しく聞こえてるだろうか?
「な、なんだよ?」
俺が半田の前にしゃがみこむと半田は少し怯えたように声を揺らした。
……まったく俺ってやつは本当に馬鹿だ。
最初っからこうすれば良かった。
「悪りぃ、ずっと一人にして。
『もう無理』ってお前、一之瀬に言ったんだろ?
って事はずっと一人で何か我慢してたってことだもんな。
一之瀬に言えない事だったら俺が聞くからさ」
ぽんっと半田の頭に手を置いて言うと、半田の目がどんどん見開いていく。
な!って笑うと、その見開いた目からぼろって大粒の涙が何の前兆もなく零れた。
ぼろぼろってあまりに次々と涙が零れてくるもんだから、俺はびっくりして半田の頭から手が離れてしまう。
すると、半田は離れた俺を追うように、今度は半田から俺の胸に泣いてる顔を押し付けてきた。
半田がぎゅうって掴むから俺の服の裾が捲くり上がる。
暴こうとしなくとも、こんなにも半田は聞いてほしがってた。
俺は自分の馬鹿さ加減に改めて小さく溜息をついてから、半田の頭にもう一度手を置いた。
半田が弾かれたようにぐしょぐしょの顔を上げる。
「俺、…もう無理」
「……うん」
俺は置いた手をゆっくりと動かす。
半田が聞いてほしいなら、言い易いようにしてやるのが友達ってもんだろ?
「まだ好きだけど…、もう無理。
好きになればなるだけ、辛いことばっかで…っ。
楽しい事なんて、少ししか無かった…っ!」
そう言って半田は隠していた本当の気持ちを吐き出し始めた。
それは俺の胸まで痛くなるほど悲痛で、俺が全く気づいていないものだった。
一之瀬の事を馬鹿に出来ないぐらい、俺も半田の事を全く分かってなかった。
本当、もっと早くこうすれば良かった。
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