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*土門視点です





一之瀬が半田お持ち帰りしてきたら俺どうすっかなー。
なーんて思いながら着替えたり、帝国の友達と連絡取ったりしていると、いきなり入り口のドアが開く音がした。
まさかこんなに早く一之瀬が帰ってくる訳ないよな、なんて訝しがっていると部屋に入ってきたのは無いと思っていた一之瀬本人だった。

一之瀬は脇目もくれず足早に俺の前を通り過ぎると、何も言わないままベッドにうつ伏せにダイブした。
ベッドがボスンと沈み込むような音を上げる。


「どした?随分帰り早いじゃんか。
愛しの半田君はどうしたんだよ?」

「・・・」

俺の茶化すような言葉にも一之瀬は微動だにしない。
うつ伏せになったまま枕に顔を埋めている。


「分かった!
豪炎寺の事で喧嘩したんだろ。
どうせお前、半田の話も聞かずに頭ごなしに責めて怒られたんだろ?」

一之瀬の様子に半田と喧嘩したのだろうと判断した俺は、殊更明るい声を出した。


俺の見たところ、豪炎寺の方はいざ知らず半田にその気は全く無さそうだった。
それどころか豪炎寺の気持ちに気づいているかも怪しいところだ。
男に好かれるなんて思いもよらないだろ、半田なら。
豪炎寺が告白してる様子も無かったし、そんな半田を責めるのは酷ってもんだ。

どうせ頭に血が上った一之瀬が半田を詰問して
「なんだよソレ!?そんな事あるわけ無いじゃん!
豪炎寺の親切心をそんな風にとるなんて、豪炎寺に失礼だろっ!?」
ぐらいの事を言われたに違いない。

あいつ等が付き合いだした頃は、毎日のようにこの手の喧嘩をしていたものだ。
不必要に一之瀬の嫉妬心を煽った俺にも責任はあるからとあいつ等のくっだらない喧嘩の度に毎回俺が「まあまあ」と仲介してやったのを思い出す。

今回も俺が仲立ちしてやればすぐ仲直りして、俺に感謝する事無くイチャイチャするに決まってる。


でも、俺の楽観的観測は外れていた。


「な、当たりだろ?」

俺が一之瀬のベッドに腰を掛けながら言うと、むくりと一之瀬が起き上がる。
その顔はいつも以上に厳しく、睨むように俺ではなく壁を見つめていた。


「……別れようって言われた」

「はっ?」

予想外の言葉に俺は思わず聞き返す。


「俺は、半田にアメリカに一緒に来て欲しいって言ったんだ。
もうこれ以上、半田と離れていたくないし、なんだか邪魔な存在もいることだしね」

「・・・」

一之瀬は俺ではなく、壁に向かって語りだした。
まるで壁の先に敵がいて、それを見定めているかのように。


「でも、断られたよ。理由も言わずに。
ただ『もう無理』って、何を聞いてもそれだけで」

「・・・」

俺は、言葉も無く一之瀬の言葉を聞いていた。
一之瀬から発せられる半田の姿は、俺が先程実際に見た半田とあまりに違いすぎた。
あの一之瀬だけに化学反応を起こす半田も、
嬉しそうにはにかむ半田も、今の一之瀬の言葉とイコールで結ぶことが出来なかった。


俺が困惑していると一之瀬はいきなり枕に拳を叩きつけた。

「豪炎寺なんかに半田は渡さないっ!!」


どうやら一之瀬は敵を豪炎寺と判断したようだった。
でも、本当に話はそんな単純なものか?

会えない間に気持ちが離れて、傍に居る人間に気持ちが移ったなんて分かりやすい構図に収めていいんだろうか?

だって、相手はあの半田だ。


俺は自分が見た半田を信じたい。


俺はポケットに入れていたケータイを取り出す。
さっき夕飯を一緒に食おうと友達と約束した時間にはまだまだ余裕がある。

俺はまたポケットにケータイを仕舞うと、ベッドから立ち上がった。
感情の矛先を豪炎寺に向けた一之瀬は俺が立ち上がったことさえ気づかない。
コートを羽織ってもまだ俺なんて視野にも入っていない一之瀬の頭を、俺はかなりきつめに叩いてやった。
少しでもその一つの事実に執着して狭くなった視野が広がるように。


「おい!俺がこれから半田に話聞いてくるから、お前はその頭に上った血を少しは落ち着かせておけよ」

指を差してそう言うと一之瀬は凄い形相で睨んできた。
まったくこれからお前の為に俺が一肌脱いでやろうってのに、勝手な奴だな。
その形相があんまり過ぎて、不安になった俺は部屋から出る前に一之瀬に再度ダメ押しをした。


「俺がいつもみたいにお前らを元通りに修復してやるから、お前は俺が呼ぶまでじっとしてろって。
俺に任せてお前は自分の性格を反省してろっ!」


 

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